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15歳。  作者: 月森優月
34/83

第34章 ……ありがとう。

 布団に寝転がりながら里恵は言った。


「それにしてもさー、奈良公園ってあんなにも汚いわけ? 鹿のうんこでいっぱいじゃん」

「うん……」


 明が髪をとかしながら曖昧に答えると、里恵は寝返りをうって肘を付いた。


「何かつれないじゃん。どーした?」

「ううん、別に……」


 あの後、結局明は何も言い返せなかった。スマイリーが戻ってくるの待ってる、と言われたときにはどれほど嬉しかったか。自分も里恵みたいに悪口を言われる運命なのだと思っていた。なのに、ナツキたちは戻ってきてもいいと言ってくれた。私はどうしたらいいの? 人に合わせるのはほとほと疲れたけど、ナツキたちが嫌いなわけじゃない。それに、里恵は……。

 本当、なのだろうか。でもまさか本人に訊けるわけない。そうだ、斐羅はどうだろう。しかし、まだそれほど親しくなっていないことに気付いた。もう少し仲良くなって、そしたら安藤さんに訊いてみよう。明は思った。


「明、部屋出るよ」


 里恵が突然身体を起こして言った。明は「え?」と言いながらも里恵に引っ張られるようにして部屋の外を出て階段へと向かった。


「何なの……?」

「メールが来た。多分、斐羅からだと思う」


 そう言って里恵はポケットから携帯電話を出した。新着メール、一件。メールを開いてみると、やっぱり斐羅からで、こう書かれてあった。


『ありがとう。

でも、私なんかが里恵たちのところに行っていいのかな? 私、迷惑じゃないかな?

修学旅行、羨ましいな。楽しんできてね』


 羨ましいな、の後に泣いている絵文字が付いていた。明の胸がずきりと痛んだ。


「誰か来たら教えろ。斐羅に電話してみるから」

「うん」


 電話をかけてすぐに里恵の口が動いた。


「あ、もしもし? 斐羅? 良かったよ、出てくれて。ああ、今は大丈夫。本当、仲直りしたからさ。直史も分かってくれた。斐羅は何も間違っちゃいないんだから。あ、明? 隣にいるよ。友達だからな」


 友達だと言ってくれているのに援助交際を疑っていることに後ろめたさを感じた。思わず下を向く。


「……うん。じゃあ、修学旅行が終わったらまた屋上で。え? 明に? 分かった」


 里恵は耳から携帯電話を離して明に渡した。


「斐羅が明に代わってほしいって」

「え?」


 戸惑いながらも電話を代わる。


「もしもし、安藤さん……?」

「……江川さん?」

「うん」

「その……ごめんね」

「謝るのはこっちだよ。安藤さんの気持ち分かってあげられてなかった。ごめんね」

「ううん……」


 沈黙。斐羅の息づかいが電話口から聞こえてきた。


「また、屋上に来てくれる?」

「……いいの?」

「来てほしいんだよ」

「……ありがとう」


 じゃあ、と言って明は電話を切った。また、安藤さんはきっと来てくれる。そう思うと嬉しくなって飛び上がりたいほどだった。


「良かったね。安藤さん、また来てくれるみたいで」

「ああ。仲直りしてくれた明のおかげだよ。サンキュ」

「うん」


 携帯電話を返す際に指が触れた。この指が男を知っているなんて、そんなこと、考えたくなかった。


「里恵は……悪いことしないよね」


 つい口に出してしまった。


「……ったりまえじゃん」


 表情が陰って見えたのは気のせいだろうか? 気のせいであってほしい。


「じゃ、部屋戻るぞ」


 明は里恵に付いていった。


 寝る時間になり消灯してから、里恵が小声でこんな話を聞かせてくれた。


「小六の頃、斐羅と直史ともう一人の男子と肝試しで廃墟になったアパートに入ったことがあるんだよ。そしたら、トイレの水がいきなり流れてさ」

「え、廃墟なのに水が……? しかもいきなり?」


 明は怯えた表情になった。


「そう。一目散に直史が逃げ出そうとしたんだけど、斐羅が手を押さえて。そしたらその後何が起きたと思う? 女の人のうめき声が聞こえてきたんだよ」

「やだ、怖い、怖いよ里恵」


 明は横に寝そべっている里恵の腕をぎゅっと掴んだ。


「アパートを出てから直史が熱を出して三日間学校を休んださ。今思えば、行く前に斐羅がタロットで占ったら死神のカードが出ていたんだよな」


 名前だけで不吉な匂いがぷんぷんするが、「そのカードってどういう意味?」と訊いてみた。


「危険、災難、病気。斐羅の言う通り、止めといた方がよかったんだよな。アタシと直史は先にアパートから出てきたんだけど」

「ひどーい、安藤さん置いてけぼり?」

「もう一人の男子は見た目も心もとても頼もしかったから大丈夫だと思ったんだよ」

「ふうん……」


 そう話しているうちに、里恵は寝息を立て始めた。無防備な寝顔。やっぱり、援助交際なんて嘘だろうか? 里恵がやるはずない。そう思っても、心の引っかかりは取れないままだった。

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