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15歳。  作者: 月森優月
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第32章 仲直り。

 バスから降りると明たちが泊まるホテルが見えた。大きくて真っ白な建物だった。窓ガラスが日光を反射して輝いている。明は眩しくて目を細めながら、


「あそこに泊まるんだ」


 と言った。


「アタシ、寝相悪いけどよろしくな」


 里恵が水筒に入っているお茶を飲みながら明の隣を歩いた。


「私の布団に入ってこないでね」

「そんな約束は出来ねーよ」


 目の前ではナツキと紀子が仲良さそうに歩いていた。もうあの中には入れないのだろうか。そう思うと少し哀しくなった。


「ねえ、修学旅行終わったらなるべく学校に来てよ」

「えー、ヤだよ。時々でいいだろ」

「だって私、もう元のグループには戻れないかもしれないんだよ。一人で休み時間を過ごすなんて耐えられない」


 里恵が明の方を向いた。薄い眉を上げる。


「アタシは平気だけど」


 明は眉間にシワを寄せて、


「平気なのは里恵くらいだよ」

「クボタだって一人じゃん」


 思いもよらない名前が出てきた。クボタ。新幹線に乗っているときも、彼は一人で座席に大人しく座っていた。暗い表情で。笑った顔は見たことがなかった。


「クボタだって好きで一人でいるわけじゃないって。私、一人が嫌なんだよ」

「一人なのをみんなに見られるのが嫌なんじゃねえの」


 明はドキッとして里恵の目を見た。茶色い瞳に切れ長の二重の線が綺麗。この性格とギャルっぽい見た目を変えたらモテるんだろうな、と思う。


「……何だよ」


 里恵の顔をじっと見ていることに気が付いたのだろう。


「いや、何でもない」

「何でもなくないだろ。やっぱり図星なのか?」

「ああ、その話……。確かに、一人でいるところをみんなに見られるのはキツい」

「他人の目なんか気にしなければいいのに」


 里恵はお茶を一口飲んだ。孤高、という言葉が当てはまりそうな強さ。社交辞令も一切ない、はっきりとした性格。そうだ、こういうところに自分は惹かれていたんだ。明は思った。


「私も里恵のようになりたいなー」


 明は唇を尖らせた。


「アタシと一緒にいればなれるよ」

「嘘、安藤さんは里恵と違って真面目で大人しいじゃん」

「今は、な」


 里恵の言い方に引っかかりを覚えた。昔は? と訊こうとしたが、ホテルに辿り着いてしまったので言葉を飲み込んだ。


 先生の話が終わると、明たちは部屋へ向かった。里恵がパンパンになった赤い旅行バッグを運ぶ姿は、ピョコピョコと歩くペンギンのようで可愛らしかった。明はグレーの旅行バッグを部屋の端に置くと、ふうっと一息ついた。


「疲れたね」

「ああ」


 里恵も隣に旅行バッグを置く。明は旅行バッグを下ろしたナツキと目が合った。逸らしたのはナツキの方だった。ナツキは座って一休みしている紀子の肩を叩き、里恵の方を見ながら小声で何か言った。


「何なのあいつら。ウザくねえ?」


 里恵がナツキたちにも聞こえるような声で言った。ナツキと紀子の顔がこわばる。


「言いたいことがあるなら直接言えよ」


 ナツキと紀子が目を合わせた。重苦しい沈黙が訪れる。それを破ったのはギャル系の由紀たちの声だった。


「おー、広いじゃん」


 由紀が靴を脱ぎながら言った。


「ナツキ、紀子、スマイリー、三日間よろしくねえ」


 そこに里恵の名前はなかった。明は悪意を感じた。ギャル系の人の間でも、里恵は嫌われている。


「今井」


 直史がドアを開けた。


「女の子の部屋のドア開けるなんて、和泉へんたーい」


 由紀が歯肉を見せながら言った。


「しょうがねーだろ。呼ばれてたんだから」

「うっそー、和泉って今井里恵と付き合ってんの? 超イメージダウンなんですけど」

「ちげーよ」


 里恵が腰を上げて、


「付き合ってねーから」


 と由紀の顔を見ながら言った。


「行くぞ、明」

「あ、うん」


 明も慌てて立ち上がり、部屋を出る里恵に付いていった。


「何か話でもあるのか」


 廊下で直史が訊いた。


「ああ。とりあえず、仲直りしようぜ」

「俺は別に喧嘩しているつもりじゃないけど」

「斐羅が来ないんだ。電話にも出ない。メールも返さない。あの日以来」

「そうなんだ。安藤は頑固だからなー、一度そうと決めたら徹底している」

「またみんなで仲良く屋上とかで話したいんだよ」


 明が言った。


「でも俺の考えは変わんないからな。安藤は学校へ行った方がいい」

「直史、斐羅の気持ち考えてねえだろ。斐羅だって……本当は学校に行きたいんだよ」

「そうなの?」


 明は驚きながら尋ねた。


「学校を休んでいるのがどれだけ苦痛だと思う? 時々担任から電話が来るんだぜ。まあ、アタシは平気だけど。楽しい学校生活を送りたいに決まってるじゃんか」


 廊下を歩いている生徒が何事かとこちらを見ながら通り過ぎた。


「でも今学校に行っても楽しい学校生活は送れない、と」

「正解。明、察しがいいじゃん」


 里恵が手を叩いた。


「行きたくても行けないのか」


 直史が顎に手をやりながら言った。


「そういうこと。ちょっとは分かってくれた?」

「ああ。もうむやみに学校行けとは言わねえよ」

「じゃ、仲直りな」


 里恵が微笑みながら右手を出した。直史はちょっと困惑した様子で、


「握手しなきゃいけないのかよ」


 と言った。


「え、直史、もしかして恥ずかしいの」

「そんなことないけど……」


 そう言いながらも、直史の顔は紅潮していた。可愛い、と明は思った。恋愛対象じゃないと言いながらも、女の子だと意識しているではないか。


「分かったよ」


 直史はそう言って、素早く握手をした。


「これで斐羅もきっとまた来てくれる」


 里恵は笑顔を見せた。この日最高の笑顔だった。

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