第31章 板挟み。
京都に着いて明が一番先に目を止めたのは茶色い外壁のマクドナルド店だった。他の建物も皆茶色く、遠くにはお寺が見えた。東京よりも少し涼しく感じた。
「斐羅は修学旅行に行かなかったんだ」
ホテルへ向かうためのバスに乗るなり里恵が言った。明は隣の椅子に腰を下ろして、
「安藤さん、いつから学校行ってないの?」
と険しい表情で尋ねた。
「中一の一学期から」
「じゃあ、もう二年も行ってないんだ」
「ああ」
明は少し迷ったが、「何で行かなくなったの。私、まだ具体的な理由聞いてない」と言った。
「だから、真面目だからだよ」
里恵が苛ついた様子でトップコートの塗られている爪を触る。
「どうして真面目だと行かないの? 里恵が言うほど学校は腐ってないよ」
「あー、もうめんどくさいなあ。明は『友達』と一緒にトイレに行ったり興味のない話題に付き合ったりするのが嫌じゃねえのかよ」
里恵の声が大きくなった。明は椅子に深く腰掛け直すと、
「私だって嫌だよ。でもそれだけで不登校になるなんておかしいよ。他に何かあるんじゃないの?」
「それは本人に訊けよ」
「聞きづらいから里恵に訊いているのに」
里恵が大きくため息をついた。
「話してくれるまで待つってことが明は出来ないのか?」
「だって気になるんだもん」
もう一度ため息をついてから里恵が言った。
「いじめだよ」
思ってもいない言葉に明は目を丸くして「えっ?」と言った。
「だって安藤さん、いじめはなかったって……」
「いじめられたのは斐羅のグループにいた奴。いじめていたのはグループの奴ら」
里恵は制服のポケットからリップを取り出すと乾いた唇に付けた。
「斐羅はどっちの味方にも付けなかったんだよ」
そう言って前を見つめた。明はクラスメイトの喧騒が水の中に入っているときのようにぼんやりとしか聞こえなかった。
「それに、耐えきれなかったんだ……」
「それが原因の一つだな。何せ斐羅は真面目だから、冗談で言われたことも気にするし……。だからと言って、グループを抜けるのも難しかった」
「そりゃ、難しいよね……」
グループの複雑さは明がよく知っていた。グループが分裂したときのあの「スマイリーはどっちに入るの?」なんて言葉、その言葉に何度苦しめられただろう。板挟みにされていていじめを止めることが出来ない斐羅。それはどれくらい彼女にとって辛いことだったのか。明には想像が付かなかった。
「本当に喋ってるよ」
「信じらんない」
後ろの座席から声が聞こえてきた。おそらく自分たちのことを言っているのだろう。ナツキと紀子だろうか。
「そういう訳で斐羅は学校へ行ってないんだ」
「ありがとう、教えてくれて」
明が言うと里恵は照れくさそうに横を向いた。