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15歳。  作者: 月森優月
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第29章 未来。

「安藤さんが……」

「電話しても出ないんだよ」


 里恵は苦い顔をした。


「家には? 行ったの?」

「行けねえよ。明らかにアタシのこと避けてるんだし」

「でも……私に出来ることなんてあるの?」


 幼なじみの里恵ですら無理なことを、自分は何が出来るというのか。里恵がトイレの個室に入ったので、明はこの前斐羅に言ったことを思い出していた。色々な道があるし、諦めることなんてない。この発言にどんな問題があったのだろうか。分からない。でも、直史は『俺たちの責任』だと言っていた。


「ねえ、今井さん」


 トイレから出てきた里恵に訊いた。


「安藤さんのこと、傷つけちゃってごめん。でも、私にはどこが悪かったか分からないんだよ」


 すると里恵は流しに唾を吐いた。


「分かんないなら教えてやるよ。斐羅にはな、未来なんて見えていないんだよ」

「え……」

「今生きることで精一杯なんだよ。だから将来のことを話すと斐羅は嫌がるんだ」


 そういうことだったのか。胸のつかえが取れた気がした。明は大事なことを訊こうとしたが、トイレに同じ中学の人が入ってきたのでつい無言になる。里恵から目線を逸らして、手なんか洗ってみたりして……。


「じゃあ、今日も頑張れよ、スマイリー」


 通りすがりに耳元で言われた言葉は、皮肉にしか聞こえなかった。


「スマイリー遅ーい」


 トイレから出るとナツキに言われた。


「ごめんごめん、便器に収まりきらなくて」

「ちょ、それどれだけ溜めてんだしー!」


 ナツキと紀子が笑う。


「じゃあ並ぼっか」

「そうだね」


 そして先生の長ったらしい話を聞いた後、明たちは新幹線に乗った。席順は明の隣に里恵、ナツキの隣に紀子。


「お願いっ、スマイリー。今井さんの隣になって」


 と言われて決まった席順だ。明が人の頼みを断るということはめったになかった。

 里恵は頬杖をついて窓の外を眺めている。明は周りを気にしながら、小声で里恵に話しかけた。


「ねえ、今井さん」

「何だよ」


 先ほど訊けなかったことを訊く。


「私の力を貸してほしい、って言ったけど私に何か出来ることがあるの?」

「ある」

「何?」

「一緒に斐羅の家に行ってくれればいい。もちろん、直史も」


 里恵は明の目を見つめた。


「……そんなことでいいの?」

「みんな仲良くなれば、斐羅だって戻ってくれるかもしれない」


 屋上で里恵と直史が言い合ったのを思い出した。


「じゃあ、和泉にも話をしないと、」

「スマイリー」


 ナツキの声だ。振り向くと、後ろの席で彼女が手招きしていた。


「ちょっとごめんね」


 そう言い残してナツキと紀子の元に行く。


「スマイリー、一緒にトランプやろうよ」

「うん……」

「ねえねえ、さっき今井さんと何話してたの?」


 そう訊いたのは紀子だった。明は唇を噛む。


「いや、ちょっと……」

「ちょっとって?」

「そんなことまで話さないといけないわけ?『トモダチ』って」


 里恵が振り向いて言った。紀子の目が大きくなる。


「いや、でもやっぱり気になるから……。今井さんってあまり他の人と話しないじゃん?」


 ナツキが焦りの色を見せながら言った。


「話そうとしてこないだけじゃんよ」


 沈黙。明には他の生徒の笑い声が遠く聞こえた。


「ねえっ、今井さんも一緒にトランプやらない?」


 明が精一杯の笑顔で言った。


「アタシはパス。その人たちに嫌がられてるみたいだからさ」

「そんなことないよ、ねえ?」


 と明が言った。


「そ、そりゃ勿論」


 そう言ったナツキの笑顔は引きつっていた。


「もうちょっと嘘が上手くなってからにしな」


 そう言って里恵は顔を前に戻した。ナツキと紀子は顔を見合わせた。明は耐性が付いたのか、さほど驚いてはいなかった。


「何、あの態度」


 ナツキが呟いた。


「ねー! 最悪じゃん」


 紀子が目をまん丸にさせた。


「スマイリーはどう思う?」

「えっ……」

「もしかしてあんな人のことが好きなの?」


 ナツキが『あんな』のところを強く発音した。それでああ、わざと里恵に聞こえるように言っているのだと分かった。里恵のことは嫌いではない。しかし、本当のことを言ったらハブられるかもしれない。明はしばらくの間口を開けず、下を向いていた。


「ぼそぼそ喋ってんじゃねえよ。アタシのことが嫌いならはっきり言えよ」


 里恵がもう一度振り向いた。そして明に顔を向けると、


「江川さんもアタシのこと嫌いなの?」


 と訊いた。明の心拍数が速くなる。好きだと言ったらナツキと紀子に嫌われる。嫌いだと言ったら今井さんに嫌われる。まさに板挟み状態だった。


「私は……」


 脳裏に浮かんだのは里恵から缶ジュースをもらったときのこと、屋上で「江川さんもまた来てほしい」と言った笑顔、そして斐羅、直史。




「私は好きだよ、今井さんのこと」




 はっきりとそう口にした。

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