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15歳。  作者: 月森優月
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第27章 修学旅行。

 昨日はなかなか眠れなかった。楽しみな気持ちと里恵と同じ班だという緊張感が交錯し、布団に入っても頭は冴えたままだった。

 只今の時刻は、午前五時を少し過ぎたところ。明は赤色の大きな旅行バッグを抱えながら駅まで歩いていた。静かな町中には朝もやがかかっており、冷たい空気が身体に染みる。まるで自分しか存在していないみたいで、何だかすごく気持ちが良かった。車の通りもほとんどない。


 駅前まで来ると、数人の背広に身を包んだサラリーマンや地味な色のスーツをまとったOLなどが、カツカツと足音を響かせながら歩いていた。自分と同じように旅行バッグを持つ人も何人か見かける。あまりにも同級生らしき人がいないため時間を間違えたのかと心配になっていたので、その姿を見て安心した。


 駅の階段付近には数十人の生徒と教師が立っていた。明はナツキ達の姿を捜す。ほどなくして、電柱に寄りかかるナツキの姿を発見した。


「おはよー」


 明は駆け寄って挨拶をした。

「オハヨ。てか死ぬほど眠いんだけどー。スマイリー何時間くらい寝た?」

「私だって眠いよぉ。ナツキは何時間寝た?」

「うーん……四時間くらいかな?」

「じゃあ私の方が短いや。三時間半くらいだもん」


 四時間も三時間半も大して変わりはないのだが、負けたくないと思ってしまう自分がいる。明は旅行バッグを地面に置いてあくびをした。


「紀子ちゃんはまだ来てないんだ」

「うん、あいつはよく寝坊するからねー。あの人は多分来ないだろうし」


 再び出ていたあくびが途中で止まってしまった。あの人、というのは彼女のことだ――。


「今井さんは来るらしいよ」

「え、何でスマイリーが分かるの?」


 ナツキが目をくりっとさせて訊いてきた。まさか和泉が言ってたなんて言えないし、マズいなあ。明はめぐるましく頭を回転させて適当な理由を探した。しかし良い理由が見つかるはずもなく、仕方なくとっさに思い付いた言葉を口にしてみる。


「……占い」

「は? 占い?」


 思った通り、ナツキは怪訝そうな表情になった。何か付け足さなければと再び頭を回転させて、


「あの、えっと……タロット占い! 私の友達がそれ得意で結構当たるんだ、それでこの前占ってもらって今井さんは来るかもしれないって結果になったの」


 自分でも何を言っているのかと思いながら明はいっぺんに喋った。こんなことを口走ったのは斐羅のことが頭にあったからだ、と気付いたのは後に落ち着いてからだ。


「……ふーん。そうなんだ」


 どうにか納得してくれたようでほっとした。スカートで手のひらにかいた汗を拭う。


「スマイリーって今井さんと喋ったことあるの?」

「……うん、少しはね。同じ班だし」


 半分ホント、半分嘘。喋ったことがあるのは事実だが、学校外で何度か会話をしていたのだから『少ない』とはとてもじゃないがいえない。


 その後数言言葉を交わすと会話は途切れ、明は黙って他の生徒達を観察した。段々人数は増えてきていて、班員全員が集まり駅へ入ってゆく生徒達もいる。掲示板の前に集まった三人の女子の中に二年生の時の友達がいた。そこからちょっと離れた場所に、一年生の時に初めて隣の席になった男子が一人でいた。


 もしも、一年生の時のクラスで、または二年生の時のクラスで修学旅行に行っていたら……。何年生の時が一番良かっただろうか。いつだって友達と過ごすのは楽しかったし、気を使ったり多少嫌な思いをすることもあった。だから比べられるものではないだろうし、答えは出ない。


「あ、来た」


 考えるのを中断してナツキの視線をたどると、車から降りた紀子の姿があった。腕時計に目を落とすと、待ち合わせ時間より七、八分過ぎていた。


「ごめんね! アラームかけ忘れちゃってさあ」


 明達の元まで小走りで来たせいで、紀子の呼吸は少し乱れていた。


「まあ、別にいいよ。じゃああと一人か……」

「来ないんじゃない?」

「でも明の友達がやった占いで出たんだよね? あの人は来るって」

 話を蒸し返されて少し戸惑ったが、うなずいておくことにする。続々と駅に入ってゆく生徒が増えていた。明より後に来た班までもう出発してしまっている。班員全員がそろわないとここを動くことは出来ないのだ。


「うち、先生に訊いてみる」


 返事も待たずにナツキは近くに立つ教師の元まで行った。それなりに距離があるので会話の内容までは聞き取れない。明の脇を直史達の班が通り過ぎた。三人の少し後ろをクボタがついて行っている。階段を上る直前、直史が後ろを振り向いた。きっと、里恵が来ているか気になったのだろう。


「欠席の連絡は来てないって」


 ナツキは戻ってくると溜め息混じりにそう伝えた。もう一度時計を確認すると、待ち合わせ時間から一五分が過ぎようとしていた。


「遅い〜。これは絶対寝てるでしょ」

「私もそう思う。夜とか遊んでそうだしね」


 もし、このまま来なければ緊張のない楽しい三日間を過ごすことが出来るだろう。そう考えると全身の力が抜けるようだった。




「遅れてごめん」




 突然聞こえてきたその声に、明だけでなくナツキや紀子もびくりとした。振り向くとそこにいたのは、やっぱり彼女だった。



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