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15歳。  作者: 月森優月
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第25章 引っかかれた。


 さて、修学旅行の班を決める時間がやってきた。直史は欠席でも、いつも遊んでいる男子達のグループに入れられるのだろう。既に決まって黒板に名前を書き込んでゆく男子の学級委員を明は横目て見た。男子はすぐに決まってうらやましい。


「じゃあ、とりあえず人数は気にしないでグループを作って」


 学級委員の野崎さんは、滑舌が良く声量もあるので全員に指示が行き届きやすい。しかしそれほど大きな移動をする者がいないのは、クラスの女子が集まった時には、既にグループで固まっていたからだ。


「じゃあ、そっちは丁度四人だから決まりだね。じゃあ後はー……」


 そうして野崎さんは手際良く班分けを進めてゆく。ジャンケンをするのを指示したり、他の子の意見を聞いたり。自分達のグループに言われることはもう分かっていた。


「明ちゃんとこは三人かー。うーん……人数的に今井さんを入れてもらえれば助かるんだけど、入れてくれる?」


 ほら、来た。ちょっと困ったような笑みで言う野崎さんの願いを断れる雰囲気ではなかった。女子全員が明達に視線を向けていた。


「……どうしても?」


 口を開いたのはナツキだった。紀子が心配げな表情でナツキの顔を見つめる。それは明も同じだった。野崎さんはうーんとうなり、


「そうしてもらえると嬉しいなあ。早く決めないとうるさいし、担任」


 と答えた。里恵を自分達のグループへ入れる方向へ話が進んできていると明は感じたが、皆も視線からしてそれを望んでいるようで、ここで嫌と言える空気ではない。勿論、ナツキも。


「……うん、いいよ」


 渋々ナツキが了解すると野崎さんの顔がぱっと明るくなった。皆もほっとしたような表情をしている。丸く収めるには誰かの犠牲が必要なのだ。


「ありがとう。じゃあ私書いてくるね」


 野崎さんの姿が遠ざかると明はため息混じりにつぶやいた。


「はあ……どうしよう」

「今井さん来るのかな?最近あんまり来ないし、もしかしたら来ないんじゃない?」


 ナツキは貧乏揺すりをし、明らかに苛々している様子だ。明は知っている、どうやらナツキは野崎さんのことがあまり好きではないということを。


「来なければいいなあ……。私、今井さんと会話したことないんだけど」


 先ほどまで無言だった紀子が不安そうに言った。やっぱり、明のグループは里恵と同じ班になったということを誰も快く思っていないのだ。他のグループは耳につく高い声で私語を交わしている。耳をすますと、京都に行ったらどこを回ろう何を見よう、そんな内容ばかりだった。


 確かに、来なければいいと思う。でも、修学旅行を機にまた元のように屋上で喋られる日々が戻るんじゃないかと淡い期待を抱く自分もいた。


 そういえばクボタは誰と一緒の班になったのだろう。彼と仲の良いものはいなかったはずだ。そう思って黒板を見てみると、直史のグループに入っていた。班のメンバーを知ったら、直史も里恵を入れられた自分のような心境になるのだろうか。そう考えると何故かほっとした。


 和泉、風邪でもひいたのかな?






 彼が来たのは丁度昼休み、明が満腹と春の陽気のせいでうつらうつらとしている真っ最中だった。


「あ、和泉だ」


 先ほどまで明の肩を突っついていた紀子が言った。明がばっと机から顔を上げると、視界の脇を誰かが通り過ぎた。


「おー和泉。お前、その目どうしたんだよ」


 直史のすぐ近くの席に座っていた彼の友達が笑った。既に背を向けていたので顔は見えない。


「ああ、猫に引っかかれたんだよ」


 答えながら、直史は机の脇に通学バッグをかける。その時に横顔がちらりと見えた。右目にはガーゼがあてられていた。



「マジかよー。ダサくね?」

「うるせえっ」


 直史は笑って友達の頭を小突いた。あんなに身体の大きい男の子が、猫に引っかかれた……それは確かに間抜けだ。明もくすりと笑った。しかし紀子は素直に受け取らなかったらしい。


「和泉って猫飼ってないよね」

「え?」

「だって、マンションじゃん」


 でもマンションでもペット可の所はあるし、秘密で飼っている人だって沢山いるよと明は言おうとしたが、紀子の続けた言葉に口をつぐんだ。


「それに、『お前、猫なんて飼ってるんだ』って前男子と喋ってた。飼っているならそういう言い方はしないと思わない」

「あー、確かに」


 なかなか観察眼が鋭い。紀子はまるでアニメの中の、犯人を探す探偵のような眼差しで直史を見つめている。明も頬杖をつきながら直史を観察した。もしもこの場にナツキがいたら、直接本人に訊いていたかもしれない。彼女は今給食委員の仕事をしていて教室にはいない。


「あ、でも野良猫に引っかかれたのかもよ?」


 思い付いて言ってみた。すると紀子は名探偵のごとく、


「それはないね」


 と立てた人差し指を振りながら否定した。推理ドラマの探偵に成りきるかのような彼女に、明だけでなく紀子自身も吹き出してしまう。


「それで、どうしてないと言い切れるの?」

「猫『なんて』って言っていたから。猫が好きなら『なんて』なんて言うかなあ? あ、シャレじゃないからね。あんなに背が高い和泉にジャンプして猫が届くとは思えないから、抱いて飛び降りるときに引っかいたしか有り得ないでしょ?」

「ほお……確かにそうだねえ」


 筋の通っているような気のしてしまう推理に明は納得してしまう。最後に紀子は、


「それに、和泉が猫を抱いている姿なんかあまり想像したくないもん」


 と言い、明はノッポで頭の良い直史が、にやにやしながら名前通り猫なで声なんか出して猫を撫でている光景を想像してしまい、吹き出してしまった。



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