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15歳。  作者: 月森優月
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第2章 今井里恵。

 

 今井里恵。それが彼女のフルネームだった。垂らしたままの肩にかかる長さ髪は茶色く、スカートは他の生徒より短い。細かく挙げるとYシャツの裾だってスカートの外に出しているし、上履きのかかとは踏みつぶして履いている。見た目、コワイ人。


 そういう外見をしている女子達のことを指すのに、皆はギャル系という言葉を用いていた。ただの不良じゃないか? と明は内心思っていたが、ギャル系には真面目な人もいるし、クラスを盛り上げたりして多くの人に好かれるギャル系もいるので、そう呼ぶことは避けているらしい。


 ギャル系の子達は好き。でも今井さんはイマイチ。


 ナツキと紀子はそう言っていた。それは分かる。里恵と話したことはないが、楽しい会話になるとはあまり思えない。


 ギャル系――例えば由紀と話していると面白い。もっとも、ギャル系が苦手な人は里恵も由紀も同じだろうけど。




 里恵は、始業式から三日後に登校してきた。まだ名前の順の席順なので里恵は明の一つ前の席だ。これは、キツイなあ。そう思いながらも、明は元来人見知りをしないたちだ、なので朝学活の前に話しかけてみた。


「あの、今井さん」


 席についたばかりの里恵はいぶかしげに振り向く。


「私、江川明っていうんだけど、よろしくね」

「うん」


 えくぼを浮かばせて言うと、里恵も口元をほころばせた。どんな反応をされるかドキドキしていたので、

笑ってくれたことが嬉しくて明は更に話しかけた。


「あ、私のこと知ってる?」

「知らない」


 今度はにこりともせずに言われた。明は心なしか緊張する。


「去年合唱祭で四組の指揮をしてたんだけど……覚えてないよねぇ」


 紀子も覚えていたことを口にしてみたが、言ってからこれは失敗したと思った。だって里恵は、あまり学校に来ていないのだ。声がだんだん小さくなる。


「アタシ、行ってないし」


 口の中が苦くなった気がした。それでも明は笑顔を顔面に貼り付けて


「そっか」


 と明るい声色で返す。


 その時、教室の一角でどっと笑いが起こった。明と里恵は笑いのあがった方を向く。そこには、後ろにある生徒用ロッカーの前で不自然な格好をして倒れている一人の男子生徒がいた。うずくまってるようだが右足と右手は伸びている、そんな格好。彼の周りには数人の男子達が立って馬鹿笑いをしていた。明は倒れている男子生徒が誰だかすぐに分かった。あの、マッシュルームのようなお洒落のかけらもない髪型。クボタだ。


「お前、馬鹿じゃねえの?」


 なおも笑いがおさまらない様子で、ジャージ姿の杉沢という男子が言った。


「何もないところで、そんな派手にすっ転ぶなんてさあ。カッコわりぃ」


 その言葉に、ただ見ていただけの女子もくすくすと笑い出した。しかし明は、杉沢の言葉よりも、更にはクボタがむくりと起き上がったことよりも、ジャージのズボンを下げすぎて履いているせいでちらりと見える杉沢の下着が気になっていた。


 青地に黒いペンキで落書きしたかのような模様。みっともない、そう思っているのに初めて見る同級生の男子の下着から目を離せない。段々とそれをじっと見ている自分が恥ずかしくなって目をそらした。


 クボタはもう立ち上がっていた。可哀想なほどに顔を真っ赤にして。そして足早に一番前の自分の席についた。ナツキと紀子の様子をちらりと窺うと、二人とも同じように忍び笑いを浮かべている。しかし明は笑えなかった。どうしてみんな笑えるんだろう? 理解し難かった。


「ばっかみたい」


 里恵がつぶやいた。明は思わず彼女に顔を向ける。里恵は杉沢に冷ややかな視線を向けていた。そして教室全体を一瞥した後、

「ばっかみたい。クラスの奴全員」


「えっ」


 明は驚いてみせたが、本当はうなずきたい気持ちだった。これが、今井さんなんだ。自分というものを強くもっていて、私が密かに尊敬する今井さん。嬉しさが身体の中を駆け巡る。


 チャイムが鳴り、担任が出欠をとり始めても胸が熱くなるような興奮はおさまらなかった。


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