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15歳。  作者: 月森優月
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第16章 信じ合える。


「あれ、江川」


 直史が声をかける。明はやあ、と挨拶し二人がいる落下防止用の柵の前まで歩み寄った。


「オハヨ、安藤さん」


 斐羅ははにかんだ。えくぼが可愛いと思った。


「おはよう」

「今はこんにちはじゃないか?」


 直史が突っ込み、明はそうだったねと頭をかく。本当は分かっていた。でも、同年代に『こんにちは』というかしこまった言葉をかけるのが苦手なのだ。背中がむずがゆくなってしまう。明は二人の前にぺたりと座った。


「どうして来たんだ?」

「親にムカついて」

「つーことは、三者面談の内容があまり良いものではなかったと」

「イエス、アイドゥー」

 思いっきり日本語の発音で明は肯定した。


「俺と一緒じゃん」


 直史は乾いた笑いを漏らす。


「え、だって和泉頭良いじゃん」

「でも、上には上がいるんだよ」


 頭が良い、ということに否定はしない。だから里恵は、直史と仲良くやってこれたのかもしれない。明は斐羅に尋ねた。


「安藤さんの学校も三者面談期間なの?」


 普段ならこの時間はまだ授業中だ。三者面談期間中は、午前で帰れることになっている。


「うん」


 斐羅は明の目を見ずに小さくうなずいた。そういえば今日は敬語を使わずに話してくれてる、何だか明は嬉しくなった。


「そういえば、今井さんは?」

「まだ三者面談だと思うぜ。……にしても遅いけど」

「じゃあ今頃、先生にしぼられているんだ。『将来どうするんだ!』とか言われて」


 その光景はリアルに想像出来た。それでも里恵は涼しげな顔をしているだろう。だからきっとなかなか釈放されないな。


「ねえ、そういえば安藤さん、どういうきっかけで今井さんと友達になったの?」


 明は興味津々に尋ねた。彼女はどう見ても真面目そうで、里恵と接点がないように思えたからだ。斐羅は赤くなりながらも、思い出すかのように宙を見つめて話し始めた。


「四年生の時初めて同じクラスになって、なおくんが私に声をかけてきたの。それで、里恵となおくん、仲が良かったから」

「何て言ったんだっけか」


 直史が話をさえぎった。


「確か……『給食当番代わりにやってくれ』じゃなかった?」

「えっ、俺そんなこと言わないって」

「言ったでしょ」


 斐羅は冷ややかな視線を直史に向けたが、目は笑っていた。


「それで、いつの間にかなおくんとも里恵とも、親しくなってたのかな。多分」

「へえ……」


 言い終わると昔を懐かしむように目を細めた。優しく吹く風が心地よい。


「和泉は、どこの高校に行くつもり?」


 明は伸びをしながら聞いた。そして足を放り出す。


「一応、浦高だけど」


 出た、県内トップ高。あまりにも予想通りなので明は笑うしかなかった。


「安藤さんは?」


 その問いに斐羅は目を伏せた。聞かれたくなかったのだろうか? 気まずい空気が流れ、明は下唇を噛んだ。


「そういうお前はどこに行くんだよ」


 直史がぎこちない笑みを浮かべて聞く。だから明も無理に笑って、


「それが、行きたいところないんだよねー」


 と頭をかきながら答えた。


「おいおい。そりゃマズいだろー」

「やっぱり?」


 二人の笑いが尾を引いた。


「江川、さん」


 斐羅が小さく呼んだ。何やら深刻げな表情で、口は真一文字に閉じていた。


「何?」


 だから明も真顔で尋ねた。斐羅は視線を泳がせ、言うか言わないか迷っている様子だ。


「安藤」


 直史が心配そうに声をかける。彼には、斐羅が何を言おうとしているか知っているのかもしれない。


「大丈夫」


 そう答えた声は震えていて、全然大丈夫そうではない。 その時、屋上の扉が勢いよく開かれた。入ってきたのはもちろん彼女だ。


「三人ともおそろいじゃん。本当、うざいよあの担任。しつこいったらありゃしない。……ん、何皆して暗い顔してんの?」


 里恵はきょとんとした顔をしながら大股でこちらへ歩いてくる。明と直史の隣に腰を下ろすと、コの字のような形になった。


「何の話?」


 直史は斐羅の方にあごを動かした。その意味が分かり、斐羅と目を合わせる。彼女はこくりとうなずき、


「あのこと。江川さんに、」

「何でだよ」


 里恵が泣きそうな顔をして言ったので明は驚いた。彼女もこんな顔をすることがあるんて。


「そうだよ。無理すんなよ」


 直史も止める。明は不安になってきた。自分の知らないことが増えてゆく。


「和泉、他人同士とか言ったくせに……」


 今の状況に関係ないと、自分でも思う。しかしこの憤りを口に出さずにはいられなかった。


「ああ、言ったさ」


 直史に見つめられ、明はたじろいだ。ここで黙り込んだらいけない、


「なのに、何でそんな顔してるの? 安藤さんだって他人でしょ」


 口が滑った。気を悪くさせたと思い、斐羅の顔色をうかがうが表情に変化はない、少し安心した。直史が断言する。


「他人だからこそ、俺達は信じ合えるんだよ」



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