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15歳。  作者: 月森優月
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第11章 安藤斐羅。


 おじゃまします、と言って明は黒いスニーカーを脱いで端に揃えた。両端にダンボールが置かれた狭く薄暗い廊下を、母親の後をついて行く。リビングの手前にあるドアを母親はノックした。


「里恵、入ってもいい?」


 返事が返ってくると、彼女はドアを開けて首を入れ、明のことを簡単に説明した。


「入ってどうぞ」


 と促され、明はどきどきしながら部屋に入る。里恵は小さなテーブルの前に座っていた。テーブルの上にはコーラが入った二つのコップが置いてあった。そういえば友達の姿がない。


「あの、これを先生に渡すよう頼まれたの」

「あ、後ろ閉めて」


 明は慌てて背後のドアを閉めた。


「何の紙?」


 そう聞かれたので里恵の元まで歩いてゆき、進路希望調査の紙、と言って差し出した。


「ふうん」


 里恵は受け取るとまじまじとその紙を見た。


「いつ提出日?」

「明日」

「江川さんはもう出した?」

「まだ」


 明の進路希望調査の紙は空白のままだった。母親にも相談したが、『そんなのお母さんには分からないよ』と言われてしまったのだ。


 その時、いきなりドアが開いた。現れたのは、すらっとしたとびっきり肌の白い少女。切れ長の目に長い漆黒の髪。美人だ。淡いメイクもしているだろうか、明は言葉を失った。


「あ……」


 少女は戸惑いの色を見せた。明が何か言おうとすると、里恵が説明した。


「この人は、アタシのクラスメイト。先生から頼まれてこれを届けに来てくれたの」


 手に持った紙をぴらぴらと揺らした。


「江川です」


 明はぺこりとお辞儀する。


「あ、安藤です」


 少女が頭を下げると長い髪がさらりと揺れた。彼女の頬は紅潮していた。明はそろそろ帰ることを里恵に告げようとしたが、


「江川さんもコーラ飲む?」


 と聞かれた。


「でも……」

「ああ、別に気にしないで。斐羅(いら)、いいよね?」


 斐羅と呼ばれた少女はうなずく。だから明は遠慮がちに腰を下ろした。里恵はテーブルに手をついて立ち上がると、コーラとコップを取りに部屋を出て行く。斐羅は明に一礼すると、テーブルの前に座った。彼女は黒い服に白いGパン、大人っぽい服装だ。


「安藤さんって、何歳なんですか?」

「あ、里恵と同い年です」


 彼女がうつむき加減に答える。高校生かと思っていたので、明は少し驚いて聞いた。


「そうなんですか。え、じゃあどこの中学校?」

「芝山中学校……」



 ドアが開き、里恵がコーラの注がれたコップを手にして入ってきた。器用に足でドアを閉めると、明の前に、


「はいよ」


 とコップを置いた。


「ありがとー」


 両手でコップを持つとぐびぐびと飲む。炭酸がのどを刺激し、明は少し涙ぐんでしまう。

「それで斐羅さあ、本当にいるの?」

「うん。塔のカードも出ていたし、私には見えた。空想の産物かもしれないけど」

「いや、斐羅は能力があると思うから実際にいたんだろうけどさあ、でもやっぱりアタシには信じられないなあ」

「あの、何のお話を……?」


 明は目を白黒させながら二人の会話に入り込んだ。


「ああ、アタシの部屋に幽霊がいるかいないかって話」


 この部屋に、ユーレー……?


「何ですと!?」

 思わず声を出していた。 

「ちょっ、そんな怖いこと真面目な顔して討論しないでくださいよ! 幽霊って、あのヒュードロドロ……って出るやつでしょ!?」


 言いながら膝をついた体勢で相手に手の甲を見せ両手をぶらぶらと揺らす動作をする。


「江川さんって面白い奴だなあ」


 里恵が高らかな笑い声を上げた。実際、明には笑い事どころではなかった。


「安藤さん、幽霊見えるの?」


 控えめに笑っていた斐羅は真顔になるとこくんとうなずいた。


「幽霊、今どこにいる?」


 明は膝で歩き斐羅に密着する。すると彼女より先に里恵が声を作り答えた。


「後ろにいるよお……」

「やだやだやだ!」

「ほら、髪の長い女の子が……」

「里恵、悪ふざけはいけないよ」


 あきれた声で斐羅が言った。


「だいたい、髪の長い女の子じゃあまるで私じゃない」

「あ、確かに」

「安藤さん、今はいないの?」


 明が知りたいのはそれだけだ。斐羅は部屋全体を見渡すと、小さく言った。


「いないと思う」


 その言葉に安堵する。急に力が抜け、先ほどの会話を思い出した。


「今井さん、おどかすなんてひどいよー。私本当に幽霊とか苦手なんだから」

「いいじゃん。夏だし」

「……まだ春です」

「それよりも、そろそろ斐羅から離れたら?」


 気が付けば明は斐羅の服の裾をつまんでいた。彼女の髪が明の喉元をくすぐる。


「あっ、ごめんなさい!」

「ううん」


 明はすぐさま斐羅から離れた。彼女の顔面は真っ赤になっていた。赤面つながりで前教室で派手に転んだ時のクボタを思い出した。それにしても、こんな大人しそうな人が里恵の友達だなんて。斐羅について知りたいと思った。こんな気持ち、里恵と初めて喋った時以来だ。


 窓を見ると、いつのまにか日没が始まっていた。 



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