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第四話

 アクセスありがとうございます。

 「悪魔の選択と言うのについて考えてきたんだ」

 人懐っこい笑みを浮かべながら、水谷さんはボクに向かってそんなことを訊いてきた。ボクのすぐ後ろのはずの机が校舎のどこかに隠されていたので、水谷さんはボクの席の隣に足で立っていたし、水谷さんの上履きに土が詰められて雑草が植えられてその上『世界平和』と書かれた紙が添えられていたので、水谷さんは裸足だった。でもそんなことは関係ないみたいに水谷さんはボクにそんな良く分からないことを訊く。

 「何、それ?」

 「悪魔が人間に与えるあらゆる選択の権利や行動の自由は、底意地の悪い引っ掛け問題でしかないということよ。君だってこんな例えくらい知っているでしょう?」

 そうして水谷さんは少しばかり意地の悪い笑みを浮かべた後で、堂々とした声でこう言った。

 「その日のパンも食べられず飢えに苦しんでいる人に、悪魔はこう訊くんだ。カレー味のウンコと、ウンコ味のカレーならどちらを食べる? ってね。前者は味はカレーでも食べれば体を壊すし、後者はカレーの栄養素を含んでいても口にいれるのが酷くつらい。どっちを選んでも救いのないボーンデッドチョイスだね」

 流暢に語られる言葉はイナイ君のように本からの借り物という風でもなかった。こういうことがあるから、人はボクのこの友達のことを気味悪く感じるのだろう。化け物染みているというのなら水谷さんだ。こんな小学生は他に絶対にいない。

 「例えばこんな話がある。その世界での天国は人が一杯で大変なことになっている。そこで天国から一匹の使い魔が一人の少女の下へ召還された。少女はとても頭が良く、真面目で人に慕われていて、心がけも良い。だから彼女にはある権利が与えられた。使い魔に自分の願いを何でも一つ叶えさせることができる、しかし使い魔はそれなりの対価を求めるし、また願いは地上において叶えられることに限定される」

 水谷さんはそこまで流暢に語った。そんな彼女を教室中の目が捉えている。異物を嘲る視線だった。

 「天国からの使い魔に対して、少女は考えうる限りにおいて最善の要求を行った。この世に生ける限り、自分を幸せにしてくれと言ったんだ。使い魔はその願いを適えた。そして対価を要求した。オチは君にも分かるね? 使い魔は何をしたのか、まああまりできの良くないお話だよ」

 「その場で殺した?」

 「それも正解でしょうね。幸せな生の対価にそいつの命は軽い気もするけれどね。幸福が約束された人生を与える代わりに、本来幸福が約束されるはずもない人生を奪ったのなら、勘定の上では随分と破格だと言える。当然殺すその直前までは、そいつには幸せでいてもらわなくちゃいけないけど。でも今回のあたしの話には、最初の方にヒントがあったじゃない? それに従った答えをだしてよ」

 「ヒント?」

 天国がどうの、少女が真面目で心がけが良いのがどうの。

 「天国があるならその世界には当然地獄もあるだろう。そして天国には人があふれている。そして選択をするのはふつうなら天国に行きそうな少女だ。これで分かったかい?」

 ボクは首を振った。水谷さんはそれに表情一つ変えず

「生きる限りの幸福の対価に、使い魔はその魂を地獄に案内することにしたんだな。もちろん、少女には全てが終わった後でそれを伝えてやるんだ。悪魔染みているだろう?」

 「うん。本当に悪魔だ。天国の使い魔なのに」

 「悪魔はこの世のどこにでもいる。天国にだって。自分以外の全てに対して要領良く立ち回り、自分一人利益を得る為に周囲に被害をもたらすことのある存在や概念なら、なんだって悪魔的な性質を持っていると言えるからさ」

 「どういうこと?」

 「相手に与えたもの以上のものを奪うのもその逆も、この世界は絶対に認めない。世界がそういう風にできていて、あらゆる概念にそのルールを守らせていることは、子供が少し考えれば分かることよ。そういうルールの裏をかくことを、意識的に無意識的に行っている存在を悪魔と呼ぶんだ。悪魔は相手に与えた以上のものを絶対に奪わない。だけれど悪魔と契約したもののことごとくは自分の選択に後悔し、悪魔はそれを嘲笑いながら幸福そうな顔をしているのさ。そんな奴、この教室にだって大勢いる」

 水谷さんのいうことはボクには一部も理解できなかった。だけれど、ボクが彼女に対して答えるべき内容だけは、辛うじて頭の中に浮かんできだ。

 「だけれど、奪うだけの人もいるじゃない」

 「それが人間だよ」

 水谷さんが言った。

 「与えるだけなのが天使だ。そして天使が一番性質が悪い。一番大きな力を持っているからね。悪魔は二番目で、三番目が人間だ」

 「じゃあ宇宙人は?」

 「愉快な発想ね」

 水谷さんは笑った。

 「でもそれは人間と酷く変わらないよ。違った環境で生まれたというだけで、一つの生命である以上その本質は違わない。ちょっと屁理屈だけど、地球人だって宇宙人だから」

 「じゃあ神様は?」

 「そんなものに心はない」

 水谷さんは切り捨てるように言った。

 「よって彼は何も与えず何も奪わない。人のことなんか一つも考えてなくて、興味もなくて、したいようにした結果、崇められたり憎まれたりする。人はすべからく神様と対立している。悪魔がいて、天使がいて、色んな人間のいるこの世界とその神様の摂理と対決をする。そしてそれに勝利しながら日々を生きながらえている。これは理解できるかい?」

 「……ちょっとだけ」

 「そうか。まあ意外というほどでもないわ。つまりそれがどういう意味なのかというと、自分以外皆敵だってことよ。もちろん、敵というのは君に干渉して来る相手だけを指す言葉じゃないわ。その逆はもちろん。味方だって敵と同じくらい敵なんだから」

 「……それも少し分かる」

 「自分の行動は、本来自分だけが決められるもの。だからあたし達はこんなに孤独なのよ。そうして孤独でなくなるということは、悪魔の甘言に惑わされるということでしかない」

 思えば、この日の水谷さんは今までで一番饒舌だった。

 「これからあたしが言うことに、悪魔に魂を売り払ったりしないで、ちゃんと答えてくれる?」

彼女は賢者なのではないと思っていた。ただ人よりも心が強いのだと思っていた。

 それが間違いだった。だからボクは、この時何の躊躇もなく頷いてしまった。水谷さんは無邪気で人懐っこい笑みを浮かべたまま、ボクに向かってこう訊いた。

 「このままカズマがあたしのところから離れていくようなことがあったら、君はどうするの?」

 ボクは正直に答えた。


 「あの者は結局何がしたいのだ?」

 イナイ君の家に無事に帰り着き、天使と悪魔と宇宙人が揃ったその部屋で。最初に口火を切ったのは天使だった。

「飛行船が欲しいだけなのであれば、そこの悪魔をずっと口説いていれば良いものを。あの者は詭弁を口にすることは何より得意だったはずである。それが難しいということもあるまい。悪魔よ、貴様もおとなしくあの者の願いを適えてやれば良いのだ。そうして魂でもなんでもちょうだいすれば良かろう。貴様にとって、それは何ら不利益のないことである」

「ずっとそう言ってるわよ!」

 悪魔は絶叫した。

 「このお子様天使! できることならやってるってどうして分かんないの? バカなの? ありえないわ、召還されてからこう何日も願いを言ってこない契約者なんて! 何考えてんのかしら」

 「踏ん切りがつかないのですよ。不安なのです。それに、願いならおっしゃっていたでしょう? 過去のご学友を殺害して欲しいとね」

 宇宙人は人をバカにしたようにそう口にすると、たっぷりの嘲りを込めた視線を悪魔に向けながら言った。

 「彼だって、初めてなんですよ。悪魔を召還するのなんて。それで出て来た悪魔があなたのような出来損ないであれば、不安になってしまうのも無理はありません。思うにあなたはとうの昔に捨てられているのではでないのですか? あなた如き小悪魔では頼りにならないと悟った彼は、もっと安全で確実な手段を求めて町中歩き回っているのかもしれませんわよ」

 「……!」

 宇宙人の言いように絶句したのは天使だった。信じがたきものを見るような目で宇宙人の方を向き、しかし相変わらずの尊大な口調と無表情で宇宙人に意見を述べる。

 「貴様。本気でそのように考えている訳ではあるまい? そんなことを口にするのは不毛である。貴様はただ苛立っているだけなのだ」

 「何に苛立っているというのですか?」

 宇宙人は髪の毛をかき上げるようにして

 「わたしは考えもしないことを口にするほど愚かではありません。そんなのはそれこそ悪魔と同じ所業です。可愛い天使様、今の発言はわたしのことをバカにしていますよ?」

 「黙れガキ! アバズレ!」

 そこで悪魔が喚き始める。

 「何さ宇宙人。星を追い出された犯罪者の分際で。薄汚い地球人なんかに寄生して、この恥知らず! あんたの星の人間は必要があればダッチワイフにでも化けるんでしょうね? 本当に下品な能力だわ。あんたなんかゴキブリにでも寄生して踏み潰されて死んじゃえば良いのよ!」

 言いながら悪魔は涙目になっているようだった。宇宙人の暴言が応えたようである。そして悪魔はガキ、などとバカにしつつも、天使のことを攻撃する言葉をこれ以上吐かなかった。この両者は、あながち仲が悪いというほどでもないのかもしれない。天使を滓に閉じ込めているのが悪魔であることも忘れ、ボクはそう愚考した。  

 「あなたこそあんな三流の様式で呼び出されておいて、良くそんなことが言えますね。下品なのはあなたの方でしょう? ハエにでも使役されて犬の糞でも運んでいれば良いのですわ」

 「貴様ら。やめぬか」

 天使が無表情のまま二人を制した。

 「私達三人は、基本的に同じ穴のムジナなのだ。言い争っていても仕方があるまい」

 そう言って天使は割とどうでも良さそうに

「まず私はあの者の許可がなければ、悪魔からここを開放されることもない。宇宙人はあの者が悪魔と新たな契約を結ばなければ、宇宙船を入手して自分の星に帰ることができない。悪魔はもちろん、あの者が満足したというまでこの地を離れることもできんのだ。これはもう私達三人、協力してあの者を探し出すしかあるまい」

「あなたは良いですわよね。可愛い可愛い天使様」

 宇宙人はうんざりとした様子で

 「その気になれば自分の居場所に戻れるのは、この中であなただけではありませんか。比較的安全地帯にいる人間から偉そうなことを言われると、寛大な精神を持ち慈愛にも溢れた高度な文明人であるこのわたしでも、少しばかり腹に据えかねるものがありますね。端的に気持ちを言い表しますと、ムカつくから死ね、といったところでしょうか」

 「偉そうなのではない。私は偉いのである。何せ座天使であるのだからな」

 天使はやはり偉そうにそう言った。

 「確かにそのとおりだ。私は何も窮しておらぬ。私の場合に限っては実のところ、あの者を探さずともこの檻が消滅するのを待てば良いだけなのである」

 「バカじゃない? その檻って、あたしがそれを解かない限り絶対に出られないのよ? んで、あたしがその檻を解くにはあいつの許可がいるの」

 「だが貴様が死ねば良いのであろう?」

 天使はぞんざいに言った。

 「貴様の寿命は長く見積もっても六万年ほど。私はそこまでせっかちではないのである。むしろのんびりしていると同僚には良く言われる」

 「嫌ですわね」

 宇宙人は肩を竦めた。

 「正真正銘のまったく化け物です。ああなんとおぞましい」

 「宇宙人よ。貴様は私のことを化け物だと言うが、そのように化け物と呼ばれ他が忌み嫌った大きな力を、自分達の利益のため巧みに使役していたからこそ、貴様の惑星はあそこまでの文明を築けたのではないか? 貴様らの種族を設計した私の部下も喜んでおったぞ、我が作品は実に機能的だと」

 「わたしは物事をそのような矮小な価値観で図りたくないのです。化け物は気持ち悪いから嫌いそして死ねという、それだけですよ」

 「なるほど。貴様が星を追われたのはそのような性格が原因か。どんな世界でも自分の直感のみに従う者は長生きしないものである。では何故あの者を利用しようとする? ああも奸悪な精神はどんな悪魔にも堕天使にも存在せん。近付きたくないというのが当たり前の感想であろう?」

 「まったくです。自分でも理解に苦しみます」

 宇宙人はそこで肩を竦めた。

 「それでどうすんのよバカども」

 悪魔がうんざりした風に言った。

 「宇宙人は頭悪すぎ。ガキはとろすぎ。これからどうするのかちゃんと考えてよね? アホみたいなことアホ丸出しで言い合ってさ。レベル低いのよ。それでも天使? 文明人? ふざけないでって感じよね?」

 「それは申し訳ありません小悪魔様。それで、あなたは何か思いつきましたか?」

 「あんたがわたしと契約すれば良いのよ」

 悪魔は胸を張るかのように

 「そしてあいつがどこにいるのか探るようにわたしに命令しなさい。すぐに決着が付くわ」

 「あら。他人から命令を受けないと何もできないんですね。悪魔の世界は実にシステム化が進んでいますわね。残念ですが遠慮させていただきますわ。悪魔の手を借りるなど、母星で三千年前に流行った電子ゲームを、チート使ってプレイするようなものですもの。便利なだけで退屈な上に結果的には何も幸福になりません」

 「それではどうする?」

 天使は割とどうでもよさげに

 「そこの人間。貴様が契約してくれるなら話はすぐだが。無関係な貴様を巻き込むのは忍びないが、私達も切羽詰っておるのだ」

 「それが良いでしょう」

 宇宙人がボクに対しての嘲笑を隠さずに

 「今まで良く一言も喋らずそこで突っ立っていられましたね。そのクソ度胸があればそこの小悪魔ぐらい上手く扱えるはずでしょう。お勧めいたしますわ。肥溜めの掃除から鉄砲の弾除けまで、二束三文で馬車馬のように働くでしょう」

 「あんたみたいな役立たずと違ってね! あたしは頼まれたら何でもやんの! この腐れ消費者風情が! 誰かから搾取しなきゃ何にもできないくせに!」

 「……あのう」

 ボクはその時になって初めて、この三人の前で声を出した。

 「なんだ人間。良くぞ話してくれた。貴様の話を訊こう」

 「悪魔と契約するのは良いです。でもこの悪魔じゃダメ」

 悪魔は面食らったようにぼくの方を見た。

 「どういう意味よ、それ?」

 「やはり頼りないんでしょうね。靴と奴隷は考えて選んだ方が良いものです。知らず知らずの内に頼りがちになってしまいますからね。高貴な者ほど自分の所有物には気を使うものですよ人間さん」

 「そうじゃない」

 「生き返らせたいものがいるのだそうだな?」

 天使が言った。

 「……どうしてそれを?」

 悪魔には話した。宇宙人も察することができる程度の情報は持っている。だがしかし、この天使には少しもそんな話はしていない。

 「貴様の友人が話していたのだ。この部屋の主のことである」

 「どういうこと?」

 「どういうことも何もない。あの者は貴様のことをかなり深いところまで把握しておる。あの者にとっての世界とは、貴様とあの者とそれともう一人で構成されているようなもののようだぞ」

 天使はそこで、小さく肩を竦めた。

 「だがあの者に限っては希望を持つのはやめておいた方が良いと思うぞ」

 「分かってる。それはボクが一番」

 ボクは言ってからびっくりした。

 イナイ君のこと、そんな風に思ってたなんて。

 「生き返らせたい者がいるのなら、ならばそれに相応しい悪魔を召還すれば良い。私は邪魔をせぬ。何故ならどうでも良いことだからだ。貴様が決めれば良いのである」

 小悪魔は気に食わなさそうな顔をして頬を膨らませていた。宇宙人は限界までの嘲笑を持ってこちらを見ている。

ボクは決めた。最初から決まっていたことだった。

 読了ありがとうございます。

 今までで一番訳わかんなかったと思います。申し訳ありません。

 これからもお付き合いください。もうすぐ完結します。

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