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ここはなにかが欠けている

もっとかまえの構え

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/05

9/5本文に一行追加

「ここ最近、ラーモは随分と女らしくなったと思わんか?」


そう言いだしたのは、ピーノという六十過ぎの魔術師である。

彼は都市国家同盟からここ王国へと教え子を一人連れて移り住み、

自分の研究を進めながら王都の一軒家で暮らしている。

ラーモというのは彼の教え子で、十二歳の少女だ。


元々彼女は整った顔立ちだが、確かにますます美人になったと思う。


話しかけられた少年は、ロド。こちらも魔術師である。現在十二歳。

数年前にピーノと知り合い、時折こうして顔を合わせている。


ロドは王立中央学院の学生だが、休日に冒険者として活動している。

今日は冒険者組合へ顔を出したところで、ピーノに捕まった。

話題に出たラーモは、無言でピーノの隣に座っている。

先程から何か言いたげではあるのだが。


「ええ、まあ」


ピーノが何を言いたいのかまだ分からないロドは、あいまいに返す。


「ラーモは薬草知識も魔術の覚えもなかなかのものではある。

 頭も良く、何より疑う事も知らず素直だからな。


 素直は美点だが、それだけに心配なのだよ。

 その辺の有象無象やら、悪知恵だけは働く輩が絡んで来んか。

 なのでロド君には時々依頼の同行を頼んでいる訳だが…

 君の都合がつかない時でも、守れるようにしたくてな。


 金や素材は提供する。

 ラーモが絡まれにくくするような装備を作ってくれんか?」



どうも先日、ロドがあるドワーフの女性の手助けをしてから、

ラーモのロドへの当たりが心なしかきつくなっている。


その女性、魔術を使いたいとの事で一緒に試行錯誤したのだが、

その際に二人きりで宿泊所で下着姿になって声を出していたとか、

微妙に事実の混じった評判がロドに流れていた。


ラーモには事のあらましを説明し、後日協力もしてもらったのだが、

その時ドワーフの女性に全裸で抱きつかれてから見る目が冷たい。


後で色々問い詰められ、相手の名前こそ明かしたりはしなかったが、

王国の依頼でサキュバスやバンシーやデュラハンと会っていた事、

いずれも若い女性だった事を白状させられ、ラーモの不機嫌が続く。

ロドとラーモは別に恋仲、という訳でもないのだが…。


まあ、それはそれとして、ロドもピーノの依頼は喜んで受けた。

割と好き勝手に様々な開発を続けるロドだったが、装備品はまだだ。

日常的な道具はともかく、冒険者の装備品は使いどころが限られる。

自作の装備品を使ってもらって、是非使用感などを知りたかった。

自分自身で使う場合とは、また違った発見がある事だろう。



ピーノから上がって来た装備の絵図を見て、ロドは唸っている。

なんというか、すごい。としか言いようがない。

そりゃあこんな見た目にすれば他人は寄り付かないよなあ、と。


上下衣装は仕立屋に別途依頼するが、それも後ほど魔術付与は行う。

ロドの制作担当は帽子や長手袋、長靴、装飾品と杖だ。


いくつかの部品を組み合わせ、それぞれに魔術構成式を刻んでいく。

これらは書物にあるものではなく、全てロドの自作魔術である。

下手に他人に解析されて、効果を無効化されるのでは意味がない。

刻んだ魔術構成式の上に《隠蔽》を施し、分かりづらくしていく。


ラーモ当人の体内魔素はそれほど多くない。一般人並だ。

よって装備はラーモの体内魔素でなく、環境魔素を使うようにする。

この手法はまだ、孤児院の妹達と同期二人、先輩数人しか知らない。

自制を無視した性能をここぞとばかりに装備に詰め込んでいた。



当然ながら、装備は使用者の体格と合わせねばならない。

本日はラーモの部屋でロドが装備品を仮合わせする。


まず、杖のお披露目は済ませた。自動防御と自動反撃の機能を持つ。

最も苦労したのは、待機状態で杖の頭に付けた頭蓋骨の演奏機能。

実は意味がないのだが、ピーノがやたらとそれにこだわった。


次に、耳飾りや首飾り。耳飾りは危険察知機能を付けている。

首飾りは使用者の治癒力向上と身体強化が常時発動される。


「ロドくん、耳飾りと首飾りつけて」


それまで無言だったラーモが口を開く。ロドが付けようとするが、


「あの、もう少し離れてくれないと手元が見えなくて」


ロドの顔のすぐ間近まで、ラーモが顔を近づけている。

不満げにラーモがやや離れた。


あとは帽子と長手袋、長靴なのだが。


「ロドくん、服脱がせて」


いや帽子と長手袋、長靴なのだが!


「脱ぐ必要ないでしょ…帽子だよ?あと脱ぐのは靴だけでしょ」


ラーモはむくれたまま、無言で残りの装備を身に付ける。


「…どう?」


いや、どう?と言われても。装備の見た目が見た目なので。

制作したロドですら、性能は置いといて見た目はどうかと思うので。

さすがにこの見た目に対して「似合っている」は口に出せない。

人の心の機微に疎いロドでもこれは分かる。


ちなみにこれらの装備、魔術の複数同時発動が安定して可能になる。


「うん。うん。大丈夫。きちんと装備されてると思うよ。

 きついところとか、ゆるいところとかあるかな?」


「大丈夫。服の上下が来たら、またお願い」


少なくとも自分の担当部分はこのままで良さそうだ。

…「またお願い」の「また」の意味がよくわからないが。



服の上下の際にも、脱ぐの脱がないのでひと騒動あったが、

取り敢えず「近寄りがたい見た目」の装備は完成に至った。

見た目はアレなのだが、ラーモは随分ご機嫌に見える。


本日は久々に二人で希少な薬草採集の依頼なのだが。

ロドの腕を、ラーモは抱きしめて放してくれない。

成長著しいもので、しっかりと挟み込んで。


受付で順番を待つ二人に、少女が近づいてきた。


「ほほう?」


ニマニマしながらそう言ったのは、ロドが先日知り合った少女。

彼女は他人にこそ明かされていないが、件のサキュバスである。


「ほほう?」


別の女性が近づいてきた。彼女も先日知り合ったバンシー。


「ほほう?」


次の少女はデュラハンである。近づく皆が一様にニマニマしている。


この後、先日のドワーフを含めて女性数人に同じ反応をされるロド。

依頼開始前に、本日の彼は精神的にじわじわ削られていく。

どんな見た目かは「装飾系の冒険者」をご覧いただければ。

ラーモは仲のいい同世代がロド以外いないのでこんな反応。


デュラハンは「少数派のわたし」のガーディニア。

ドワーフは「むきむきの不向き」のスカラです。

サキュバス、バンシーはまだ未登場。話は考えてますが。

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