魔王亡き後
勇者が魔王を倒して、まだ十年経っていなかった。
しかし、魔族達は魔王が居た頃よりも……何と言うか、生き生きとしていた。
まるで圧政的な独裁者から解放された事を喜ぶかのように──実際、そうだったのかも知れないが──好き勝手に人間を殺戮し始めた。
それも、個性的かつ想像力に満ち満ちたやり方で。
単独で活動する魔族も居れば、小さなグループを作る魔族達も居た。
魔族同士の対立や、魔族のグループの合併吸収も有ったが、かつての「魔王軍」の基準では中隊程度より大きな規模になるグループは皆無だった。
敵わない相手が来たら逃げる。
ある程度の規模のグループ同士は、緩い横のつながりは保つが、1つにはならない。
かつて「魔王軍」が有った時の常識からすれば「魔族部隊を壊滅させた」扱いされていた場合でも、少しでも討ちもらしが有れば、そいつらは単独行動を始めたり、別の小グループに加わっていった。
つまり、「人間側が、どんな手を使ったか?」は、別の魔族グループに知れ渡る可能性が高いという事だ。
個別の魔族の行動パターンや、魔族の小グループの「文化」は、それぞれに違っていた。
何なら、1つの町を攻め堕とした後に、グループは解散して、別のグループが再編される事も有った。
魔王軍と戦っていた頃の定石は通じなくなり、かと言って、新しい定石を編み出すのも一苦労の時代が続いた。
しかも、何故か、魔族は倒しても倒しても、次から次へと新しい個体が湧いて出てきていた。
勇者が魔王を倒してから、約2世代が過ぎた。
バラバラになった魔族と、それらに個別に対応せざるを得なくなった人間達だったが、両者ともに「有り得る手」は、ほぼ出尽したかのようだった。
だが、魔族は人間社会に混じる事を覚えた。
そもそも、魔族と人間は、魔法学的に見て、99%以上「同じ生物」でありながら、何故か、本能的に相容れない存在だった。
逆に言えば、魔族が人間の社会に混じる事は、出来ない事では無かった。
そして、人間社会は魔族によって内側から食い尽くされていった。
人間社会に混じって暮す殺人鬼……それが今の魔族だった。
人間達が、魔族と勘違いした同胞達を自分達の手で殺戮する事さえ日常茶飯事だった。
しかし、魔族にとって不可解な事に、人間達は、大量に死に続けている筈なのに、何故か、次から次へと新しい人間達が湧いて出てきていた。
更に数世代が過ぎた。
人間は自分達の社会の中に混じった魔族への対処法を編み出し……それからは、同じ事の繰り返しだった。
新たな魔王が生まれ、魔族をまとめ上げ、その魔王が殺されても、生き残った魔族はバラバラに活動を続け……最早、魔族も人間も、考え得る戦略・戦術は出し尽していた。
そして……。
1つ上の世界では、技術者達が、新たに開発された戦略・戦術支援AIの学習を見守っていた。
このAIは「それぞれに個性が違う無数の小型AIの集合体が、あたかも1つのAIのように振る舞う」という新しいアーキテクチャにより作られていた。
そして、「本番」用のAI群と、「本番」用のAI群を「学習」「成長」させる為に作られた、もう1つのAI群であるコードネーム「魔族」も過去の記録に有るのと似たパターンの動作を延々と繰り返すようになっていった。
それを見て、技術者達はAI群の「学習」「成長」が完了したと判断し……。
その時、その世界から魔族が消えた。
一体残らず完全にである。
そして、その世界の人間達は、それ以上の「学習」「成長」をやめた。
その世界での戦いは終り、人間達は、1つ上の世界の戦争に対処する為の意志無き道具と化した。




