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乙女は、恋に恋していた

 一先ず、彼女が死亡するまでに何があったのかについて話すとしよう。

 

 彼女との話が終わった翌日の月曜日、俺はいつものように私立童囃子しりつわらべばやし高校に登校し、2-D教室の自分の席で座っていると、ゆるめウェーブの髪型をした茶髪の少女に話しかけられた。


「おはよっ。園崎君」


「ああ、おはよう」


 軽快に話しかけてきた彼女の名前は御花おばなくらげ。どのクラスにも1人は居る、明るくて誰とでも仲良くなれる少女だ。因みに、この学園には彼女以外に彼女のような少女はどこにも居ない。


「この前借りたこれ。返すね」


 そう言って彼女は先週俺が渡した恋愛小説を丁寧に梱包こんぽうして渡してきた。


「ああ、確かに受け取った。それで、面白かったか?」


「うん! とぉ~~っても!!特に序盤はいがみ合って素直になれなかった二人がお互いの思いに気づいてそこから来る困難を......」


 彼女は一方的に借りた本の感想を語っていた。


 五分後。


「それでもう、ものすっごぉ~く感動しちゃった! 今まで読んだ本の中でもぶっちぎりのトップだよトップ!」


「そいつは良かった」


 俺と御花は本の貸し借りをして語り合う仲だった。とは言え、俺自身は借りてはいないのだが。交流のきっかけは、俺がたまたま持ち込んでいた本を御花が見つけ、そこから交流が始まった。経緯は違えど、お互いに読書好きであった。


 俺の場合、家族全員が読書好きで定期的に本が専用の部屋に置かれ、暇つぶしに読んでいる内に本好きになった。御花くらげの場合、昔から恋愛作品が好きで、今でも古本屋に通っては新たな恋愛小説を買い漁っているらしい。しかし彼女自身はまだ媒体でしか恋というものを知らない。


 そんなこんなで、俺は彼女と交流をしている。と言っても、普段から話しかけようとも彼女は暇さえあれば少女漫画、読み終えれば次は恋愛小説、しまいには官能小説に妄想と、常に恋と愛に触れていた。当然、人に話しかけることもあれば話しかけられることもある。いつ彼女と話せるかは完全に彼女の気分次第。気まぐれな女なのかもしれない。

 

 しかし彼女の本質は恋に恋する乙女なのであった。


「それでさ、園崎君。一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」


「いいよ。何でも頼んでくれ。」


 彼女が恋に恋する乙女であるのならば、一方で俺もしにしするお人好しの青年であった。困っている老婆、幼女、少女、お姉さんが居れば助けずにはいられない。そんな人間であった。もちろん、男性も範囲内だ。

 

 話は戻して。


「やった! ありがと! 頼みっていうのはね! ()()()()()()()()()()


 一瞬硬直するが、文、台詞、発言の文脈、性格から何となく察しは付いた。


「分かった。それで、どこに行くんだ?」


「流石園崎君! 察しがいいね! 今返した恋愛小説に実在する場所があってさぁ、そこに今日の放課後行ってみたいんだよね!」


 彼女が行おうとしていることはいわゆる、熱烈なファンなら一度は憧れる聖地巡礼というものであった。言葉だけは聞いたことがあるものの、実際にやってみることはなかった。


 立入禁止。宿泊が必要な程の遠出。面倒。インドア派であること。そんなことに時間を使うのならベッドでゴロゴロするという有意義な時間を過ごしたい。こんな感じで、言い訳のために様々な理由を使い実行したことがない。


 しかし、可愛い少女、ではなく、困っている人間。もとい頼み事であれば断る道理もない。


「分かった。それで、どこまでどうやって行くんだ? 電車か? バスか? 新幹線か?」


「そんなに遠くまではいかないよ。ここから徒歩で着くんだから」


「ふーん。ウチの近くにそんな聖地があるとはな。それで、場所はどこなんだ?」


「肝心の場所の名前なんだけどね」


 彼女は微笑みながら応える。


皆国みなぐに神社って言うところだよ」


 朝のHR(ホームルーム)のチャイムが鳴った。

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