表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水底の記憶  作者: (//∇//)もじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/17

6話 聞こえないラジオ


 次の日。

 朝から居間のテーブルの上に、届いた新しい部品を広げて。

 湊音は鉱石ラジオの修理に取りかかっていた。


 一つ一つの部品を確かめながら、新しいものに付け替えていく。

 黄鉄鉱は見つけた中でも、一番大きくて形の良いものを選び、木の板にしっかりと固定する。


 イヤホンを耳に押しこみ、細い針金の先を黄鉄鉱の表面に滑らせて。

 少しずつ角度を変えていくが、期待したはずの音は、耳には届かなかった。


 ネジを締め直し、コイルの巻き具合を確かめる。

 調べたかぎり、手順は間違っていないはずなのに、ラジオは変わらず黙りこんだままだった。


「……おかしいな」


 首をひねる湊音を見て、新聞を読んでいた祖父が思い出したように。


うちは山に囲まれてるから、場所が悪いんじゃないか? たしか父さんも、随分苦労してたぞ」


「そっか……場所かぁ」


 その言葉を口にした途端、湊音がぱっと顔を上げた。


「あっ、そうだ! あそこなら、近くに電波塔もあったし、いけるかも」


 ここじゃ駄目でも、あの場所なら……


「ちょっと出かけてくる!」


 慌ただしく出かける準備を始めた湊音に、祖父は目を細めた。


 山里に来たばかりの湊音は、青白い顔をしていて、どこか元気がなかった。

 それが今では、ラジオだの電波だのと目を輝かせ、元気に外へ飛び出していく。

 ここで過ごす時間が、少しでも湊音の心を軽くしているのなら。

 この夏休みは無駄ではなかったのだろう。


「行ってきまーす!」

「気をつけてな」


 祖父は縁側に腰を下ろし、遠ざかる足音に耳を澄ました。


 ◇ ◇ ◇


 祖父の家から坂をくだって通りに出ると、昨日のバス停があった。


 乗客の少ないバスの中は静かだ。

 エンジンの低い唸りと、窓越しに流れていく山道の景色だけが、ゆっくりと時間を運んでいる。


 一番後ろの席へ向かうと、そこにはすでに誰かが座っていた。

 麦わら帽子を膝においた、小柄な姿。どこか人懐っこい笑顔は、昨日と同じだ。


「あら、また会ったわね」


 野菜をくれた、あのお婆さんだった。


 湊音は少し迷ってから、ひとつ席を空けて隣に腰を下ろす。


「トウモロコシ、とても甘かったです」


 思い切って伝えると、お婆さんの目尻がふっとやわらかく下がった。


「それは良かったわ。今日はまた、山に遊びに行くの? その白い箱は、捕ったカブトムシを入れるのかしら」


 湊音が手に持っていたのは、紙の箱だった。

 元々はお菓子が入っていた箱の、蓋を外して。お婆さんに中を見せてあげた。


「まあ、ずいぶんと立派ね。これ、手作りなの?」


 身を乗りだして、興味深そうに箱の中をのぞきこむお婆さんに。

 少し照れながら、湊音は答えた。


「はい。鉱石ラジオです」


 せっかく直した鉱石ラジオは、リュックに入れると壊れてしまいそうで。

 困っていた湊音に、祖父がちょうど良い大きさの箱をくれた。


「懐かしいわねぇ。昔はこれで、民謡なんかを聞いたりしてね……」


 そう言って、お婆さんは懐かしそうにくすっと笑う。


「それで、どう? ちゃんと音は出たの?」


「……それが、まだなんです。家の中だと、どうしてもうまく聞こえなくて。だから今日は外に出て、少し高い場所から試してみようと思って。昨日行った山の高台から、ダムと大きな鉄塔が見えたんです。今日はそこで、チューニングをしてみようかなって」


 湊音がそう答えると、お婆さんは、


「まあ、そうなの……あのダムが、見える場所で……」


 と、視線を窓の外へ向けた。

 その横顔は、どこか寂しそうに見える。


 バスは低く唸りながら、山道を登り始めた。

 カーブを曲がるたび、木々の隙間から谷がのぞく。


 やがて、お婆さんは窓から視線を戻し。


「おばあちゃんの生まれた村はね、今はあのダムの底に沈んでいるのよ」


 と、静かに教えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ