6話 聞こえないラジオ
次の日。
朝から居間のテーブルの上に、届いた新しい部品を広げて。
湊音は鉱石ラジオの修理に取りかかっていた。
一つ一つの部品を確かめながら、新しいものに付け替えていく。
黄鉄鉱は見つけた中でも、一番大きくて形の良いものを選び、木の板にしっかりと固定する。
イヤホンを耳に押しこみ、細い針金の先を黄鉄鉱の表面に滑らせて。
少しずつ角度を変えていくが、期待したはずの音は、耳には届かなかった。
ネジを締め直し、コイルの巻き具合を確かめる。
調べたかぎり、手順は間違っていないはずなのに、ラジオは変わらず黙りこんだままだった。
「……おかしいな」
首をひねる湊音を見て、新聞を読んでいた祖父が思い出したように。
「家は山に囲まれてるから、場所が悪いんじゃないか? たしか父さんも、随分苦労してたぞ」
「そっか……場所かぁ」
その言葉を口にした途端、湊音がぱっと顔を上げた。
「あっ、そうだ! あそこなら、近くに電波塔もあったし、いけるかも」
ここじゃ駄目でも、あの場所なら……
「ちょっと出かけてくる!」
慌ただしく出かける準備を始めた湊音に、祖父は目を細めた。
山里に来たばかりの湊音は、青白い顔をしていて、どこか元気がなかった。
それが今では、ラジオだの電波だのと目を輝かせ、元気に外へ飛び出していく。
ここで過ごす時間が、少しでも湊音の心を軽くしているのなら。
この夏休みは無駄ではなかったのだろう。
「行ってきまーす!」
「気をつけてな」
祖父は縁側に腰を下ろし、遠ざかる足音に耳を澄ました。
◇ ◇ ◇
祖父の家から坂をくだって通りに出ると、昨日のバス停があった。
乗客の少ないバスの中は静かだ。
エンジンの低い唸りと、窓越しに流れていく山道の景色だけが、ゆっくりと時間を運んでいる。
一番後ろの席へ向かうと、そこにはすでに誰かが座っていた。
麦わら帽子を膝においた、小柄な姿。どこか人懐っこい笑顔は、昨日と同じだ。
「あら、また会ったわね」
野菜をくれた、あのお婆さんだった。
湊音は少し迷ってから、ひとつ席を空けて隣に腰を下ろす。
「トウモロコシ、とても甘かったです」
思い切って伝えると、お婆さんの目尻がふっとやわらかく下がった。
「それは良かったわ。今日はまた、山に遊びに行くの? その白い箱は、捕ったカブトムシを入れるのかしら」
湊音が手に持っていたのは、紙の箱だった。
元々はお菓子が入っていた箱の、蓋を外して。お婆さんに中を見せてあげた。
「まあ、ずいぶんと立派ね。これ、手作りなの?」
身を乗りだして、興味深そうに箱の中をのぞきこむお婆さんに。
少し照れながら、湊音は答えた。
「はい。鉱石ラジオです」
せっかく直した鉱石ラジオは、リュックに入れると壊れてしまいそうで。
困っていた湊音に、祖父がちょうど良い大きさの箱をくれた。
「懐かしいわねぇ。昔はこれで、民謡なんかを聞いたりしてね……」
そう言って、お婆さんは懐かしそうにくすっと笑う。
「それで、どう? ちゃんと音は出たの?」
「……それが、まだなんです。家の中だと、どうしてもうまく聞こえなくて。だから今日は外に出て、少し高い場所から試してみようと思って。昨日行った山の高台から、ダムと大きな鉄塔が見えたんです。今日はそこで、チューニングをしてみようかなって」
湊音がそう答えると、お婆さんは、
「まあ、そうなの……あのダムが、見える場所で……」
と、視線を窓の外へ向けた。
その横顔は、どこか寂しそうに見える。
バスは低く唸りながら、山道を登り始めた。
カーブを曲がるたび、木々の隙間から谷がのぞく。
やがて、お婆さんは窓から視線を戻し。
「おばあちゃんの生まれた村はね、今はあのダムの底に沈んでいるのよ」
と、静かに教えてくれた。




