2話 鉱石ラジオ
Wi-Fiのない家では、やることがすぐに尽きた。
暇を持て余した湊音は、祖父の家の探検を始めた。
手始めに、母屋の横にある蔵の鍵をあける。
蔵の中は昼間でも薄暗く。引き戸を開けると、ひんやりした空気と土や鉄の混ざった匂いが流れてきた。
土で汚れた耕運機に、鍬や鎌、さびた工具。カゴには農業用のネットが乱雑に入っている。
それらの奥にあった手作りの棚で、湊音は変なものを見つけた。
木の板に、銅線や金属片が取り付けられた、単純な機械の塊。
気になった湊音が、蔵からそれを持ちだして見せると。
祖父は、懐かしそうに目を細めた。
「これは、お前の父さんが子供の頃に作った鉱石ラジオだな」
「鉱石ラジオ? えっ、お父さんが作ったの!?」
思わず聞き返す。
最近は、仕事がいそがしくて帰りも遅く、疲れた顔をしている父。
そんな父が、子供時代にラジオを手作りしていたなんて。
湊音には想像がつかなかった。
「昔の子どもは、何でも自分で作るのが当たり前だったからな。これは電源がなくてもラジオが聞ける、なかなか画期的な装置だぞ」
木の板に取りつけられた単純な部品の集まり。
それが「ラジオ」という見慣れた精密機械で、しかも電力を使わずに音を出すなんて。
退屈を持て余していた湊音の好奇心が、急速に膨らみ始めた。
電気も使わず、どうやって電波を拾うのか。
そこから、いったいどんな音が生まれるのか。
湊音は、この変なラジオを自分の手で直してみたいと思った。
◇ ◇ ◇
スマホの通信マークがかろうじて一本立つ環境で。
湊音は、貴重なモバイルデータ通信を使って、鉱石ラジオの仕組みを調べ始めた。
コイル。ビニール電線。イヤホン……
図を見ているうちに、何となく形が見えてきた。
「これなら、僕でも作り直せるかも!」
修理に必要な部品を探して、湊音はその日のうちにネット注文した。
◇ ◇ ◇
翌日には宅配便が届いて、祖父を驚かせていた。
居間のテーブルに、湊音が部品を並べていく。
そこには一つだけ、足りないものがあった。
要となる、鉱石だ。
人工の代用品もあるが、湊音はどうしても本物の鉱石を使いたかった。
父も昔、山を一つ越えた先にある鉱山跡へと、採掘に行ったらしい。
「歩いて山を越えるのは無理だから、バスに乗って、裾をぐるっと回るんだ。夏は蛇がでるから、行くなら必ず長いズボンを履いていけよ」
蛇と聞いて、湊音は息をのんだ。
それでも、あきらめる気にはなれなかった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
いつもより早く目を覚ました湊音は、台所で大きな水筒に麦茶をなみなみと注いだ。
氷がぶつかる音が、心地いい。
昨日のうちに、採掘用の道具は蔵からかき集めて、祖父に借りた大きなリュックにつめてある。
少し早めの朝食を終えると。
それまで孫の様子を静かに見守っていた祖父が、口を開いた。
「途中まで車で送ってやろう。それから、山の夕暮れはふもとよりもずっと早い。昼を過ぎたら、すぐに下山することだけは忘れるなよ」
「うん。わかった」
湊音は真剣な顔でうなずいた。




