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水底の記憶  作者: (//∇//)もじ


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12話 格子越しの神楽舞


 奥の拝殿から。

 神主らしき男が、こちらに手を振っていた。


「ツヅミー、そろそろ出番だ。準備しなさい」


「えっ。もうそんな時間? はーい!」


 声を受けて、ツヅミが元気に返事をする。


「じゃ、みんな。また後でね」


 と手を振ってから、ツヅミはパタパタと社の方へ走っていった。


 残された少年三人は、気まずそうな顔で黙っている。


 そんな空気に耐えきれなかったカゲロウが、口を開いた。


「……お前、神楽って見たことある?」


 目も合わさずに、湊音に聞いてくる。


「ううん、ないよ。神楽って何?」


 素直な答えに、カゲロウは大げさに目を丸くした。


「はぁー? そんなことも知らねーの!?」


 呆れたように、はー。と息を吐きだして。


「しょーがねぇな……なら、見てけば?」


 そう言うと、カゲロウは先に一人で歩き出した。


 昭一と湊音は顔を見合わせ、慌ててその後ろに続いた。


 ◇ ◇ ◇


 いつの間にか、日も暮れかけていた。

 神楽殿の四方の松明には火が灯り、真っ赤な火の粉が舞っている。

 舞台のまわりには、すでにたくさんの見物人が集まっていた。


「ちっ、遅かったか」


 カゲロウが舌打ちする。


「……こっちだ」


 そう案内されたのは。

 神楽殿の裏手にある、衣装を整え、出番を待つための古い楽屋だった。


 強引なカゲロウに部屋へ押しこまれ。

 しかたなく、湊音は壁に設けられた格子窓の隙間から外をのぞいた。

 そこは舞台に最も近く、けれど観客からは見えない特等席だった。


 格子の向こうで、神楽が始まる。

 美しい篠笛の音に、太鼓の響きや手打鉦が重なる。

 染み入るような旋律が、神楽殿を満たしていった。


 舞台に現れたツヅミは、片手に神楽鈴。もう一方で鈴と繋がる五色鈴紐を握っていた。

 巫女装束の上には、薄く透き通った儀式用の上着である千早をまとっている。


 その表情は、つい先ほどまでとは、まるで別人のようだった。


 背筋を伸ばし、凛とした緊張感を湛えたまま、神楽鈴を振って舞う。

 シャンシャンと鳴る鈴の音に合わせて袖が揺れ、視線にも所作にも一切の迷いがない。

 引き締まった横顔は、神に仕える者の顔だった。


 格子越しにも、神楽舞の熱量が伝わってくる。

 息をするのも忘れ、湊音はその美しい舞を見つめていた。


 やがて舞が終わり、拍手と歓声が上がる。

 少年たちは、ぼーっと放心していた。


「あ、やば」

 先に気づいて、小さく呟いたのはカゲロウだった。


「こらー!!」


 楽屋の戸が勢いよく開く。


「ここは関係者以外、立ち入り禁止なんだからね!」


 舞い終わったばかりで、まだ息を弾ませているツヅミに睨まれて。


 三人は転がるように、その場から逃げ出した。

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