表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水底の記憶(ダムに沈んだ村)  作者: (//∇//)もじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

1話 田舎暮らしとWi-Fi


 駅前なのに、人の姿はまばらだった。


 電車をいくつも乗りついで、少年が降り立ったのは。背後に山がせまる、小さな田舎町。


 中学一年生になった湊音みなとは夏休みの始まりとともに、電車で二時間もかけて、祖父の住む里山へやってきた。


 改札を出ると、すぐに祖父の姿が目に入った。

 駅前にとめられた軽トラックの横で、手を振っている。


 野良仕事で日焼けした肌に、白髪まじりのグレーヘア。

 いつもの作業着に、長靴をはいている。


「よく1人で来れたな。大丈夫だったか?」


 湊音の大きな荷物を受けとり、軽トラックの荷台に載せながら祖父がきく。


「電車くらい1人で乗れるよ、中学生になったんだから」


 平気な顔で答えた湊音だったが。

 本当は電車に乗っている間ずっと、手のひらが汗ばんでいた。


「そうか、もう中学生か。早いもんだな」


 祖父は目を細めて笑った。


 ◇ ◇ ◇


 軽トラックのせまい助手席にゆられ、小さな町をぬける。

 のどかな田園風景が、目の前に広がった。


 道ばたの田んぼからは、風が稲の青い匂いを運んでくる。

 市道を外れて、小川にかかった小さな橋を渡ると、水面には夏の雲が映っていた。


 橋を越えた辻には石柱が立っているが、風雨に削られた文字は、ほとんど読めない。

 坂道を進むと右手には棚田、左手には古く大きな家がぽつぽつと建っている。

 さらに坂を上った一番奥に、祖父の家はあった。


 築百年近い、木造二階建て。

 大きな窓を開け放つとそのまま縁側になる、昔ながらの造りだ。

 家のすぐ裏手まで、山の木々がせまってきていた。


「おじいちゃん。家を出るときは鍵を閉めたほうがいいよ」


 湊音が着いたとき、玄関の鍵も、縁側の窓も開いたままだったのが気にかかる。


「いちいち閉めるほど、人は来んさ。心配せんでいいから。あがれ、あがれ」


 祖父は笑いながら、先に家の中へ入っていった。

 ため息をつきながら、湊音があとに続く。


 畳の匂いと、蚊取り線香の香りが、湊音の鼻先をくすぐった。


 ◇ ◇ ◇


 荷物を置くとすぐに、湊音はスマートフォンを取り出した。

 冬になればコタツになるテーブルと、テレビのある和室の居間を見回して。


「おじーちゃん、Wi-Fiは?」


 ふり向いて、お菓子とジュースを載せたお盆を運んできた祖父にたずねる。


「そんなものは、ないぞ?」


 なんだそれは、という顔で答えがかえってきた。

 スマートフォンを手に、湊音が固まる。


 そんな孫の様子を見た祖父は。


「画面の外にも面白いものはたくさんあるさ。薪割りに風呂焚き、少し前まではカブトムシが大好きだったろう。いろいろ探してみるといい」


 湊音の肩をぽんと軽くたたく。


「……えー」


 予想外な夏休みの始まりに、湊音は頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ