最愛
最愛
私と彼は中学で出会い、同じクラスで意気投合。高校も一緒で何をするにもどこへ行くにも一緒。
でもお互いに「好き」だとか告白とかは無く、ただなんとなく息のあう相棒って感じだった。
化学系が得意だった彼はその方面の大学へ行き、学部は違うが私も同じ学校へ。
もう周りは周知していたのでゆくゆくは・・という雰囲気はあった。お互いの家にも遊びに
行ったし・・そう、もうその頃には身体の関係もあった。
近頃は私からおねだりした事もあった。けれど・・ある日を境に極端に会える日が減った。
連絡をしても返事が遅い。
・・・まさか・・ね。
そんなある日の事、急に私の部屋に来た彼は酷くやつれていて、まるで別人だった。
聞けば彼のしていた画期的な研究を教授の名前で発表され、横取りされたとか。
「・・・急で悪いんだけどさ・・俺、学校辞めるわ・・・」
「・・・・」
「・・・それで友人の知り合いが造り酒屋やってて、そこで俺のやってた研究が活かせるみたいなんだ・・・」
「・・ふーん・・・」
「・・・それでさ・・・・」
「・・・・うん・・・」
「・・・・・」
「・・・・何?・・・・」
「いゃ・・・半月後にはここを発つんだ。」
「・・・そう・・・・」
「・・・見送りには来ないでくれ・・・」
「え? 」
「・・決心が鈍りそうだからさ・・」
「・・・・・・」
「・・じゃあ、俺・・行くわ。」
そう言って彼は出ていった。 彼が居なくなった後の私は抜け殻みたいだった。
何をしても、誰と会っても心が暗く沈んで動かなかった。
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そう、彼には「好きだ」とも「待っててくれ」とも「一緒に・・」とも言われてなかったから。
そしてお互いに連絡を取り合わなかったから。
(都合のいいだけの女だったのかな・・・) そう思い始めた数年後、高校の同窓会があった。
(彼は来るのかな?・・) と期待とも不安とも言えない感情を押し殺してホテルの会場に入る。
けれどそこには彼は来ていなかった。
同級生がなんとなく気を使ってくれているのが判る。とめどもない話をして私は会場を後にした。
帰り道、ふと入った本屋のある雑誌を手にして、唐突に私は彼の所在を知る事になる。
彼の就職した造り酒屋で彼の研究していた事が花開き、業界で表彰される事となったらしい。
そしてそこに乗っていた写真には彼と、その隣には造り酒屋の娘で今は彼の奥さんになっている
綺麗な人・・・。
(・・・・あれ? なんで涙なんか・・・)
あの時、「私は?」って聞けば良かった? 一緒に付いていけば良かった? それとも・・・・
いまさら・・・ね。
雑誌を置いて店を出たところで声を掛けられた。
「あれっ? 先輩じゃないですか? どうしたんですか? こんなとこで。」
声の主は私の会社の後輩君。
「あら、奇遇ねぇ。私は同窓会の帰りなんだけど・・ちょっと飲み足りないから付き合う?」
「え? 僕でよければ喜んで。」
・・・そう、まだ人生は始まったばっかりよ・・・・。
おしまい。