7、リベンジウサギ 3
俺に爪が向けられた。
無数の兎が一斉に飛び込んできたため、俺は対処法も知らず慌てるしかなく、そのウサギを少しでも跳ね返すため腕を振っているだけだった。
兎は人形を殴るみたいに柔らかく、そこらじゅうに吹っ飛ぶ。その実力を知ったとき少し余裕ができた。
弱いやつだけかと思ったが、中には強い個体もいる。
一匹だけ動きが早くて吹っ飛ばせないやつがいた。目に大きく痛々しい傷の跡があるやつだ。
そいつは鳥のように、縦横無尽に駆け回っていた。どうやらバリアらしきものを張ってそこを足場にしてるようだ。俺は圧倒されてしまっていて、腕で顔を隠して動けなくなっていた。
今顔を晒したら確実に目や口などの弱点を突かれるかもしれない。その怖さでなかなか開けられなかった。
幸いなことに俺の体の皮膚はとても硬い鱗でできているので、濃い傷をつけられることはなかったが、いちいち攻撃されるごとに刃物を当てられるような恐怖がくる。
それにダメージが蓄積されるようで、腕がヒリヒリと痛んできた。
そこにさらに追撃がきた。
「きゅいいいっ!」
乱暴な鳴き声をあげながら、目の前からさっき飛ばしたであろう兎がこちらに向かって大きな光の刃を向けてきたのだ。
俺は焦り、慌てて右に転げた。
そしてそこでチャンスだと思い、俺は背中を見せて逃げることにした。端から見るととんでもないよわよわドラゴンだ。悔しい。
足を大きく開き、なるべく速くはしっていた。力強く地面を蹴ると土が抉られ、土煙となるほどの力で走った。
だが転けそうになるほど走っても、兎の速度は負けず劣らず、横並びに走ってくる。木の上を渡ってきたり地面を掻い潜ってきたり。いくら走ってもそのピンチな状況はかわらず、だんだん焦ってきた。
「し、しつこい!」
そう言ったらすぐに、兎の攻撃が飛んでくる。無数の方向から来る圧倒的な量の攻撃に反撃する方法も見つからず、俺はただ逃げるしかなかった。
せめてもの抵抗で鳴いて威嚇するくらいだ。これじゃあまるでぐずる子供じゃないか!
あぁ、魔法でも使えればいいのに!
空を高速で駆け抜けていくあの人みたいに!
俺は無謀に願いを天に捧げ、半分諦めていた。
するとそのとき、心臓が一瞬きゅっと閉まったかと思うと、次に体の中が熱くなった。
その熱さの部分が塊として感じられるほどはっきりしてくると、なぜか足が速くなった気がした。
実際、足は速くなっていたようで、兎たちがどんどん後ろに下がっていくように見えた。後ろを振り返る余裕さえできたほどだ。
これが魔法か?
あまり実感が湧かないが、実際に「足が急激に速くなる」というあり得ないことが起こっているので、たぶん魔法なのだろう。
だが、考えただけで魔法は起こせるものなのだろうか。それに走る速度を上げただけでこの兎たちに勝てるのか。
知らないことだらけでもう嫌になってしまいそうだ!
体の中の熱いものはだんだんと小さくなってきている。まだまだ巻き返せることもなく、まだ状況はかわらずだった。