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我こそは四天王最後の1人

崩れかけた玉座の間。

黒曜石の柱には無数の亀裂が走り、かつて荘厳だった天蓋は半ば崩れ落ちている。


その中心に、魔王がいた。

かの存在は未だ悠然と玉座に座し、深紅の瞳で娘を見つめている。


「──よくぞ戻ったな、リュシア」


魔王の声は、凪のように静かだった。


「四天王二柱を失い、城も半壊したとはいえ……勇者を撤退させたのは、そなたの戦あってのこと」


 「誇るがよい。何なりと望む報酬を申せ」


歩み出たリュシアは、全身に返り血と焦げ跡を纏いながらも、涼やかな眼差しを保っていた。

背には三本の大鎌。いずれも刃こぼれし、魔力を吸い尽くされていた。


「……私が勇者に及ばなかったのは、力ではなく、武器の差です」


そう言ったリュシアの言葉に、魔王の眉がわずかに動いた。


「勇者の剣に匹敵する武器があれば──私に敗北はない」


魔王は記憶を探るように目を閉じ、いくつかの名を口にした。


「魔神剣を所望か?」


「否」


「では、破壊の斧か。あるいは、天を貫く月の槍──」


「……否」


魔界に伝わる神話級の武具が次々と列挙されていくが、姫は一度も頷かない。

魔王の声に、わずかに苛立ちが混ざる。


「ならば、何が必要だと言うのだ」


リュシアは、一歩、玉座に近づきながら静かに言った。


「──お父様の命を」


大鎌が霧を裂いて抜き放たれる。

魔王の双眸が、鋭く細めらた。


「お前……」


「魔界最強の魔族。その命から創られる大鎌こそ、勇者の剣に匹敵する」


その言葉に、魔王は短く息を吐き、そして。


「……愚かな」


片手でリュシアの魔力を掴むように掲げた。

次の瞬間、リュシアの全身に走った魔紋が蒸発し、魔力の奔流が霧のように消えていく。


「お前の力は、我が与えたもの。その根を絶てば、ただの小娘よ」


空気が震える。


「──殺せ」


命令とともに、王の背後で待機していた最後の四天王、石の巨兵が動き出す。

七尺の体に刻まれた魔法陣が光り、岩の拳が姫に向かって振り下ろされた。


だが──


砕けたのは拳の方だった。


「……確かに、最初の魔力はお父様に与えられたものでした」


リュシアは静かに立ち上がる。

全身からは、先ほどまでとは比にならぬほどの魔力が滲み出ていた。


「でも、それは“足場”だったに過ぎない。私が長年鍛え、練り、練磨し、積み上げてきた魔力は──あの時の数十倍です」


巨兵の巨体が吹き飛ぶ。残骸が壁にめり込み、魔力が霧散する。


そして、王座の前に──リュシアが立った。

彼女の鎌は、あの時よりも重く、深く、何かに飢えていた。


王と姫が睨み合う。


たとえ魔王が、神にも等しき存在であったとしても──

リュシアの心には一片の恐れもなかった。


その瞳の奥には、ただひとつ。


──彼女をに、会うために。


そのためなら、世界の王すら屠ってみせる。


 




数時間後。

玉座の間には、血の匂いと焼け焦げた空気が満ちていた。


そこに立つ少女の右腕と左脚は失われ、黒翼は焦げた羽根を断続的に落とし続けている。


だが──


その手には、首があった。

──魔王の、首が。


 


静かにその場に跪くと、リュシアは首を膝に抱え、息を整える。


「……これで、武器は揃った」


彼女の身体が崩れようとも、その意志は折れなかった。


──魔王の死。それはすなわち、次なる王の誕生を意味する。


この瞬間、魔界の次代を統べる者が決まった。


名は──リュシア。


彼女はもう、魔王の娘ではない。

ただひとりの少女に会うため、王冠さえ踏み台とする、

新たな魔王として、歩き始めるのだった。


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