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閑話 二人の王子

○セドリック視点

○短めです


 王宮の西翼――正午を回った時刻、淡く陽の光が差し込む回廊を、セドリックは静かに歩いていた。


 しばらくぶりに剣を握った疲労が身体に残っている。だが、それ以上に心の奥に残るざらついた思考が、彼の歩みを重たくしていた。


(……なぜ、あの令嬢と令息を王宮に入れた者がいる? あれほど明確な敵意と目的を持った者を)


 リリアナの姿が思い浮かび、胸の奥に微かな痛みが走る。


 あのとき、もう少し遅れていたら――。


「……セド!」


 低く落ち着いた声に、セドリックは足を止めた。


 振り返れば、長身の男が壁際に寄りかかって立っていた。黄金色の髪を後ろで束ね、鋭くもどこか余裕を漂わせた蒼の瞳。

 王太子であり、異母兄であるアルフォンスだ。


「兄上……」


「やっと病が治ったというのにずいぶんと難しい顔をしているな。剣の稽古で痛めつけられたか?」


 そう言いながら、アルフォンスは軽く歩み寄ってくる。その表情は穏やかだが、何かを測るような目の奥の光を、セドリックは見逃さない。


「少し気晴らしをしただけです」


「なるほど。気晴らしね……そういえば」


 アルフォンスは意味ありげに口元を緩めた。


「最近、素敵な侍女がそばについているんだって?」


 その一言に、セドリックの肩がぴくりと動いた。


「……どこでお聞きに?」


「王宮に噂は流れるものだよ。人を寄せ付けない君が、その侍女だけは近くに置いているそうじゃないか。そりゃあ他の者たちが気にするのは当然だろう。私もお目にかかりたいものだね」


「……彼女は、そういった存在ではありません」


 少しきつめの声音になったことに気づき、セドリックはわずかに眉を寄せた。


 アルフォンスは笑ったまま、両手を軽く上げる。


「冗談さ。でも――セド。君が誰かに強い興味を示すことは、珍しい」


 セドリックは返答をしなかった。ただ、兄の目をまっすぐに見返す。


 王太子は小さく息を吐き、わずかに視線を外すと、何気ない口調で続けた。


「第二妃、アデライド様のことは、よく覚えているよ」


「……」


「貴族の出ではあったが、王に嫁ぐには身分が足りずに王宮に馴染むのは難しかった。君も、苦労していたよな」


「今さら、何の話です?」


「いや。第三妃――クラリス様の存在も含めて、いろいろと懐かしくなっただけさ」


 わざとらしく笑いながらそう言う兄の目に、ほんの一瞬、鋭さが混ざった気がして、セドリックは警戒を強めた。


「さて、私はこれから王妃に報告に行く。またそのうち、話そう」


 それだけ言い残して、アルフォンスは軽い足取りで歩き去っていく。


 セドリックはその背を無言で見送った。


(兄上……)


 どこか腑に落ちない会話の端々に、何か意図を感じながら、セドリックは一つ深く息を吐く。


 先日、エリオットとの昼食会に第三妃クラリスが顔を出したことも意外だったが、その時もわざわざ母親であるアデライドのことを引き合いに出していた。


 王妃の元侍女で、王に見初められて妃になった令嬢。セドリックが三歳の頃、病で亡くなったとされている。


 妃となることが母にとって幸せだったのか。そう考えることは少なくない。


 それに、兄はリリアナの存在についても言及していた。



(……なにかあるのは間違いない。黒幕は誰だ)


 兄との会話が終わったというのに、胸のざわつきは、いっそう深まっていた。


本日夕方もう一話更新します(*^^*)

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■ 『空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~』
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