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入学式の日は殆ど俺の記憶通りに進行していた。
勿論クラスだって俺の記憶通りに彩華と芽衣は同じ1組だった。
ちなみに前世の俺はあまりにも陰キャだったため吹奏楽部のメンバー以外の人の顔を全く思い出せない。
だからもう一度同じクラスと言われても新鮮さを感じられるのだった。
そして入学式では彩華が新入生代表として壇上に上がって挨拶をしていた。
彩華が壇に上がった時は余りの可愛さに学年全体(主に男子)がざわめいていた。
どうだ、うちの元嫁の高校時代は滅茶苦茶可愛いだろうと俺は内心思っていたら入学式は終わり、新入生向けの説明をする時間になった。
説明と言っても簡単な校則の説明だったり、学校内の施設の場所を教えているだけなので二週目の俺にとってはあまり意味の無い物なので軽く聞き流した。
そしてそのような物が終わった後は部活の勧誘会が始まる。
勿論俺、彩華、芽衣は吹奏楽部に入る予定なので3人で吹奏楽部の活動場所である音楽室へと向かう事になった。
卒業後も数回は訪れた幌北の音楽室だが、入ると不思議と懐かしさが込み上げてきた。
そして音楽室にはよく知った先輩の顔が多く見られた。
例えば1つ上の今川先輩。
この人は中学でも先輩で彩華とは幼馴染の関係だ。
そして今川先輩は今後世界を股にかける天才ピアニストになる。
勿論高校生の現在も全国優勝経験がある程の神童だ。
「おお、今年の新入生は可愛い子が多いな!そして人数も申し分ない」
確か今話している先輩は3年生で現在部長をしている佐藤先輩だ。
フルネームは確か……
「俺は佐藤正則。幌北高校吹奏楽部の部長をしている。1年生のみんなよろしくな」
思い出しているうちに本人が自己紹介をしてくれたが佐藤正則先輩と言うらしい。
そしてこれから幌北吹奏楽部恒例の歓迎会と言う名の軽いコンサートが始まる。
オーディエンスは先輩方、そして演奏者は俺ら新入生だ。
当時自分のフルートに自信を持てなかった俺はこの歓迎会をただの地獄としか思えなかったので参加しなかった、しかし今の俺ならこの地獄を普通のコンサートに変えれるだけのピアノがある。
「さて、早速だが幌北高校吹奏学部恒例の新入生歓迎コンサートを開催したいと思う!準備時間は1時間で演奏者は君たち1年生だ!勿論参加しなくてもいいが腕に自信のある人は是非先輩に自分の音楽をぶつけて欲しい!」
佐藤先輩がそう言うと新入生の間にどよめきが起こった。
実は毎年恒例で行われている幌北の新入生歓迎コンサート、先輩が何故か口外禁止なので新入生でこのコンサートを知っている人は稀だろう。その為どよめきが起きるのは無理もない。
「ねえねえ、アヤちゃんと俊君はどうする?」
「私はピアノで出るつもりよ」
「そうだね、俺もピアノかフルートで出ようかな」
「アヤちゃんはいいとして、俊君が出るって言うなんて変わったね」
「私も同感だわ。中学時代なら絶対に逃げてたもの」
「二人ともよく昔の俺のをご存じで」
「一緒の部活なんだから当たり前じゃない」
芽衣は中学時代から交流があったので俺の性格を知られているのはいいとして彩華にまでそう思われていたのは少し意外だった。
彩華のようなタイプの人間は俺みたいな何もしていない陰キャの事なんて気にも留めていないと思っていたのだ。
「そうだ、アヤちゃんと俊君のピアノデュオってのはどう?」
「私と川崎君で連弾?」
「え、俺と篠原さん……!?」
突如として芽衣がニヤニヤしながら爆弾を真上から投下してきた。
彼女的には俺の恋路を後押ししているつもりなんだろうが、普通に余計なお世話である。
だって俺タイムリープしてから彩華がらみになるとドキドキしてばかりなので、連弾なんてまず心臓が持たない。彩華が隣にいる事による緊張で分かりやすいミスタッチなんてしてしまったら自分の中では大恥だ。
「やってもいいけど、川崎君の実力が分からないし1時間で合わせるなんて無理よ」
「一回二人とも弾ける曲でチャレンジしてみるのはどう?」
「そうね、芽衣がそこまで言うのなら少しチャレンジしてみましょう。確か隣の多目的室にピアノがあるのよね、行きましょうか」
何故か俺が会話に加わる前に話がまとまってしまった。
どうやら彼女達の行動原理に俺の意志は関係ないらしい。
取り敢えず俺も彼女達を追って音楽室の隣にある多目的室に入った。
そこにはかなり高価なグランドピアノが一台置いてあり、高校時代の彩華がよくそのピアノで練習をしていたのを覚えている。
「ピアノは誰も使っていないのね、都合がいいわ。早速だけど時間が無いから川崎君、実力を確認したいし一曲弾いて頂戴」
今更デュオは無理ですと言いだせる雰囲気ではなかったので俺は頷き、ピアノの前に座って息を整えた。
さて、何を弾いてやろうかな。
少し考えた末、俺は単純に実力を示すんだから超難しい曲じゃなく得意曲を弾いてやろうと思い一つの曲を選曲した。
俺が選んだのはショパンの幻想即興曲。
難所は最初と最後。
右手が8左手が6のリズムが特に難しく、昔の俺はこれを綺麗に弾くのにかなり苦戦したのを今でも記憶している。
でも今ではこの曲は俺にとって得意曲だ。
最初の難所を優美さを兼ね備えた美しい旋律を奏でながら抜けていけば、中盤は最初に比べてゆっくりとした綺麗な曲調になる。
そして終盤もまた最初と同じように早いスピードで曲が進んで行く。
そして最後の難所を乗り越え、フィニッシュ。
我ながらプロの中でも上位の演奏が出来たのではないかと自分の演奏を振り返ってみた。
そしてとても驚いた顔をしている彩華を確認し、俺は内心でガッツポーズを立てる。
連弾は俺がミスりそうだからそこまで乗り気では無いけど、彩華に自分のピアノを驚いて貰えたのは素直に嬉しいのだった。
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