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ふと目を開けると俺は薄暗い病室の中にいた。
そして俺の隣には泣いている彩華、そして娘の美咲がいた。
また目線を少しずらせば重い顔をした医者のような人物が見えた。
その瞬間俺は今までのやり直しが夢だったと悟った。
死んだと思ったらいきなり高校生に戻っているなんてやっぱり現実味が無さ過ぎた。
でも夢ならばせめてもう少し高校時代の彩華を知れたら良かったなんて思うのは欲張りなのだろうか。
もう少し楽しい高校生活のやり直しをしたいと思うのはこれまた欲張りだったのだろうか。
現実は常に冷たく、俺の体はもう言う事を聞かない。
隣で泣いている元妻と娘に手を伸ばしたくても手は手は動かないし、目を閉じようとしても瞼は動いてくれない。
「せめてこれからはクズだった俺の事なんか気にしないで自由に生きてくれよ」
ああ、俺の最悪の人生。本当にやり直せたらよかったのに……。
▽▼▼▽
目を開ける。
既に朝陽は昇りきっていてカーテンの隙間から部屋に光が漏れ出していた。
「夢だったのか」
俺は自らの手を握ってから離してみたり、頬をつねってみたけど全部現実の感覚だった。
取り敢えず悪夢を見たせいかシャツがびっしょりと濡れていたので着替える事にした。
「にしてもまたこの制服に袖を通す日が来るとは」
国立幌北高校。それが俺がこれから通う学校の名前だ。
特徴を言えば文武両道の超エリート校。
勉強面は毎年東大京大それぞれで20人近い人数を輩出しているし、スポーツも多くの部活が全国常連の強豪校だ。
普通に当時の俺が滑り込みでも合格できたのは奇跡とか愛の力としか言えないレベルの高校である。
そんな幌北生の象徴である、ちょっと奇抜なデザインの制服を着て、顔を洗い、念入りに身だしなみを整え、朝食を食べ、俺は入学式に向かった。
「お兄ちゃん今日は昨日よりも気合入ってるね」
「今日は入学式だからな。初対面の印象は大切かなと思って気合入れたんだ」
「それは良い判断だ、お兄ちゃん」
「ありがとな、香奈」
そう言って俺は家を出ていく。
学校までは地下鉄を使って40分くらい。
初日から遅刻する訳には行かないので、遅刻常習犯の俺だが割と余裕を持って出発することが出来た。
「お、俊君じゃん! おはよう!」
「なんだ、芽衣か。そして篠原さんも。おはよう」
地下鉄を待っている間に後ろから声をかけられたと思ったらそこには芽衣と彩華が立っていた。
どうやら二人で一緒に行くつもりだったらしい。
「どうせなら同じ中学の3人組で行くとしますか」
芽衣の一言で俺は3人で高校まで行く事になった。
久しぶりに見る彩華の制服姿に思わず見惚れてしまった俺はやってきた地下鉄を危うく乗り過ごしそうになるがぎりぎりの所で満員電車に乗り込んだ。
するとこつんと頭を芽衣に叩かれ「アヤちゃんに見惚れんなよ」と言われてしまった。
恥ずかしい限りである。
電車に揺られる事25分。
俺らは最寄りの駅を降りて学校に向かって歩き始めた。
周りには同じ制服を着た人が多く歩いている、みんな幌北の新入生なのだろう。
ふと周りを見渡すと凄く視線が集まっているように感じた。
「おい、あそこの二人滅茶苦茶可愛くないか」
「ああ、だよな。特にロングの子。可愛すぎて一瞬アイドルかと思った」
「いや俺は隣のボブの女の子の方がタイプだな。ここまで伝わってくるあの明るい空気感がたまらない。そして普通に顔も可愛い」
「後その2人の隣にいる微妙にイケメンな男は誰なんだ? まさかどっちかの彼氏な訳ないよな」
「馬鹿を言え。あいつが釣り合う訳ないだろう」
「それもそうか」
確かに彩華と芽衣は誰もが認める超絶美少女だ、注目を集めても仕方ないだろう。
彩華は言葉で表すのが難しいほどの可愛さを解き放っているので町を歩くだけで自然と注目される。
そして芽衣もかなり可愛い。
未来では髪を伸ばしていたが高校時代はボブカットで陽気な女子って感じだ。
そして会話の最後に俺が凄くディスられていたのは聞かなかったことにしよう。
「なんだか注目されてるみたいだね」
「そうね。芽衣が可愛いからでしょ」
「いやいやアヤちゃんが可愛いからだって。俊君もそう思うでしょ?」
「え?俺?」
「うん、俊君だって私と同意見でしょ?」
凄い悪そうな顔をした芽衣がこちらを見てきた。
そして彩華も芽衣に釣られてこっちを見ている。
これは正直に答えるべきなのか……?
「まあ俺も篠原さんは特別可愛いと思うよ」
「だよね! 俊君は分かってる男だね」
「そう、なのね。参考になったわ」
自分で言って少し顔が赤くなってしまった。
まだ彩華とは恋人どころか知り合いにすらなれているかも怪しいのにあの発言は少しやりすぎたかもしれない。
「じゃあそんな特別可愛いアヤちゃんが注目されすぎて困ってるので早く学校に到着しちゃいますか」
「ちょ、走らないでよ芽衣」
「え、また走るの?」
「あははは、ついておいで~」
昨日同様また芽衣が走りだしてしまった。
それについて行く形で俺と彩華も走り始める。
なんだか楽しい学校生活が始まりそうな予感のする入学式前の時間だった。
学校まで走ったせいで入学式前に肩で息をしてたのは1週間ネタにされちゃったけどね。
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