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篠原さんをもう一度振り向かせたいっ!  作者: 柴木雨月
#1 タイムリープとオムライス
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4

「これは結構時間がかかりそうだな」


 ピアノ自体はとてもいいものだが長年メンテナンスがされていなかったせいで調律にはかなりの時間がかかりそうだった。


「そう言えば調律に必要な道具はあるのか?」

「うん、おばあちゃんが一緒にくれたのものならあるよ。ほらこれ」


 俺は芽衣が渡してくれた古い木箱の中身を確認する。

 確かに必要な工具、それに清掃道具も箱の中にしっかりと入ってあった。


「これなら大丈夫かな。結構時間かかると思うから終わるまで他の事しててもいいぞ」

「私のピアノになるんだから最後まで観戦させてもらうよ」

「俺は最初から長いって言ったからな、後悔しても知らないぞ」


 そう言って俺はテキパキと芽衣のピアノの調律を始めた。

 まずはピアノ内部の汚れを取り除いてから整調と呼ばれる作業を行う。

 そして次に調律を行っていく。

 長年磨き続けてきた自分の耳を頼りに音の高さを一つ一つ微調整していく。

 この作業が特に集中力を使うのでかなりの体力を消費してしまう。

 そしてそれが終わったら整音と呼ばれる最後の工程へと進む。

 整音は音色を調整することで音に統一感を持たせる作業だ。

 そして最後にもう一度全体の音を確認し、ピアノの外側の汚れを綺麗に拭きとってあげたら完了だ。

 約3時間、今の貧弱な肉体ではかなりの重労働だった。


「ふう、これで終わりだ」

「一切迷いなくできるなんて俊君ってすごいんだね」

「ま、まあな。調律自体は定期的にしてたから」

「へえ、そうなんだ。あのさ、一曲弾いてくれない?」

「芽衣が先じゃなくていいのか?」

「私はいつでも弾けるから先に弾いちゃってよ」

「俺だって家にピアノがあるからいつでも弾けるんだが、お言葉に甘えるとしよう」


 そう言って俺は椅子に座る。

 さて、何を弾こうか。

 単純に好きな曲でもいいし、思い入れのある曲でもいい。


 折角だし彩華の演奏を始めて聞いたときに彩華が弾いてた曲でも演奏するか。


「じゃあ、ショパンの夜想曲第2番。お聞きください」


 夜想曲第2番は恐らく殆ど全員の人が一度は聞いた事のある曲だと思う。

 難易度自体はそこまで高くなく、ある程度ピアノを触れている人なら大多数が弾ける曲だ。

 だから俺がこの曲を弾く時は表現を一番大切にしている。

 優しくまるで母親が子供に語り掛けるように弾いていくのが自分なりのこの曲の弾き方だ。

 まるで歌声のように自らの個性をピアノに乗せていく、そんな弾き方が出来れば最高だ。


 前世と違い、痺れの消えた俺の両手は思うように動きだし、ゆったりとした優しい旋律を奏で始める。


 そして演奏が終わる事には前世よりも更に完成度の高い夜想曲第2番を弾けたことに自分でも驚いてしまった。

 手が痺れてもずっとピアノだけは続けてきた成果がやっと出てきたような気がしたのだ。


「す、凄いよ。もしかしてアヤちゃんレベルの腕前だったりしない? なんで今まで秘密にしてたのさ」

「ははは、流石にそこまで上手い自信はないかな」

「いやいや、絶対にアヤちゃんレベルだから私が保証する」

「それはありがとう」


 確かに今の俺なら高校時代の彩華よりも上手い自信はあるが、結局大学生以降は彩華の方が上手くなるに決まっている。

 何故なら俺はもう成長が終わっているのに対して彩華のピアノは成長途中だからな。


「おっともうお昼過ぎか」

「ホントじゃん。どっかご飯食べに行く?」

「どうしよう、母さんからは帰ってこないならご飯は好きに食べなさいって言われてるけど」

「じゃあ美味しいオムライスの店を知ってるのでアヤちゃんも呼んでるから3人で行きましょう!」

「ちょっと待て。なんであや、篠原さんの名前が出てくるんだ」


 篠原と言うのは彩華の旧姓の事だ。


「え、だって俊君はアヤちゃんの事が好きなんでしょ? だから背中を押してあげてるんだよ。ピアノのお礼だと思って行くよ。今の状況だと拒否権は存在しないからね」

「り、理不尽だ」


 俺としては自分のペースで彩華との距離を詰めたかったんだが、おせっかいな友人を持ったせいで早速食事に行く事になってしまった。

 どうしよう、俺の記憶が正しければ中学、高校時代の俺は彼女にうっすらと嫌われているはずなのに早速食事って。


「胃が痛い」

「ん? なんか言った?」

「いや、何も」

「じゃあアヤちゃんとも連絡着いたし出発! いってきま~す」

「お邪魔しました」


 そう言って俺は芽衣に連れ出される形で中口家を後にした。

 北海道と言っても4月のお昼となればそれなりに暖かく、ちょっと汗をかいていないか心配になる。


「私は男の子汗なんて気にしないから」

「何故気にしてるのがバレた」

「秘密」


 軽く会話をしていると直ぐにオムライス専門店まで辿り着いてしまった。

 家の近くにこんな店があったのかと驚きつつ、若干昭和の雰囲気が漂う店内に足を踏み入れる。


「私たちの方が早かったみたいね」

「そうだな」


 4人用のテーブル席に案内され、俺らは彩華が来るまでメニューを眺める事にした。

 ほうほう、確かにこれは美味そうだ。

 写真だけで伝わってくるオムライスの美味しさに若干驚いてしまった。


「私のお勧めはこれ。兎オムライス」

「確かに面白そうなオムライスだな、じゃあ俺はこれにするか」


 芽衣がお勧めしてくれた兎オムライスと言うオムライスはご飯の上に乗っている卵が兎の頭の形をした中々ユニークなオムライスだった。


「あなた達って仲が良かったのね。意外だわ」


 そんな時ふと最近聞いたはずなのに懐かしいと感じる声が耳に入ってきた。

 視線をずらすとそこには高校時代の元妻、篠原彩華が立っていたのだ。

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