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リビングに入ると朝食を作るためにエプロン姿でキッチンに立っている若い頃の母親と目が合った。
「あらあら、似合ってるじゃない」
母親は俺の姿を見るなり一言似合っていると言ってくれた。母の表情はどこか緩んでいて、恐らく息子の成長が嬉しくて仕方ないのだろう。
俺も一応娘がいるから親心は多少なりとも分かるようになってきたな。
そう思いながら俺は十数年食べていなかった母親の手作り朝ご飯を美味しく頂いていく。
懐かしすぎて途中涙が零れそうになったがなんとか我慢して無事完食する事が出来た。
「毎日ありがとう、母さん」
「あらあら大人びちゃって」
母さん、大人びちゃったと言うか中身は35歳なんだ……。
そんな事を思いつつ俺は自室に一度戻ってから私服に着替え軽く散歩に出かける事にした。
「服自体は母さんが買って来てくれてたからダサいわけでは無いんだよな」
高校時代の俺がダサく見えたのは身に纏うオーラが一番の原因だったのだろうと自己分析してみる。
その点、今の俺は高校卒業からの約20年で陰のオーラは完全に消えたはずなので別にダサくはないだろう。
「まずはこれからの方針を決めないとな」
夢じゃなければタイムリープしたのは確定だ。
なら俺はこの2度目の人生をどう使えば後悔の無い人生を生きていけるのかと言う部分を考える必要がある。
俺は1度目の人生を後悔だらけの状態で終えてしまった、だからこの2度目の人生はなるべく後悔の無いように生きていきたい。
「まずは車に轢かれない、これが一番だよな」
前の人生では恐らく死んだであろうタイミングを含めて2度車に轢かれている。そして俺は大学1年の頃にも車に轢かれそうになった事があるがその時は彩華のお姉さんが命と引き換えに俺を守ってくれたのだ。
「そして彩華を幸せにする。例えなんどやり直そうと、例えおっさんになってもこの恋心は本物だ」
彩華ともう一度結婚し、今度こそ彼女を幸せにする。
彩華ともう一度結婚すること自体は前世と同じ道を辿れば簡単だが、そのルートは彩華のお姉さんが俺を庇って死んでしまうルートでもある。
何故彩華のお姉さんの死と俺が彩華と結婚した事が繋がるのかと言うと、当時の俺は彩華のお姉さんに庇われ生き延びてしまった罪悪感から姉を亡くし気力の無くなってしまった彩華を自分がなんとかしないといけないと思っていた。
だから俺は自分に出来る事全てを彩華の為にやった。
その結果最初は俺の事を姉を殺した犯人と同じだと思われていたが、俺は彩華と結婚するまで関係を深めたのだった。
だからもう二度とあんなに落ち込んだ彩華を見る事のないように俺は前世と違ったルートで彩華と結ばれる必要がある。
「絶対上手にやりなおしてみせるっ!」
「ねえ、さっきから独り言うるさいよ?」
「へ、ふぇっ!?」
突然声をかけられ、反射的に変な声を出してしまった。
恐る恐る声のかけられた方向を見るとそこには俺の親友である中口芽衣がいた。
彼女はこんな陰キャな俺でも中学時代から友達として接してくれていた数少ない友人だ。
そして35になった今でもたまに一緒に飲みに行ったりしていた。
「卒業からまだ一か月も経ってないのに随分と印象が変わったね、川崎俊君」
「高校は青春も大切だからまずは見た目をって思ってね」
「だからさっきアヤちゃんの名前を口にしてたの?」
「な、何故それを」
「だって聞いちゃったんだもん」
アヤちゃんと言うのは学生時代の彩華のあだ名である。
そして芽衣と彩華もまた親友で、3人で飲みに行った事も多い。
「まあ俊君がアヤちゃんの事が好きだって知ってるのは私くらいだから安心しなって」
「俺はいつ自分の好きな人をお前に言ったんだ……」
「ん?言ってないけど見れば分かるでしょ。アハハ」
なんだか楽しそうに笑っている親友を見て、学生時代の自分の分かりやすさを後悔する気持ちは一瞬にしてなくなっていた。
「にしても俊君の服装、そして全体的な雰囲気。根暗だった俊君のくせに結構いいんじゃないかな、アヤちゃんの好みに近いと思うよ」
「それはありがとうな。ここまで辿り着くのに結構試行錯誤したんだ」
俺だって結婚してから10年以上彩華と暮らしてきたんだ、彩華の好み程度流石に把握している。
でも自分の事を褒められるのは例え簡単な事だとしてもいい気分になるものだ。
「そう言えば芽衣は高校でも吹奏楽を続けるのか?」
「俊君から下の名前で呼ばれるなんて初めてだなぁ」
しまった、この時代の俺は例え友達でも女子相手に下の名前で呼び捨てなんて出来なかったんだ。
「まあいいや、吹奏楽は面白そうだから続けるよ」
「本当か?」
「本当だよ。実はちょっと迷ってたけど俊君の恋路を応援したくなっちゃったので続けたいと思いますっ!」
芽衣は前世だと中学で吹奏楽を止め、高校ではバンド活動を始めていた。
そして俺は高校に上がってから芽衣のフルートを聞けなくなったのが結構寂しかったのだ。
だからダメもとで吹奏楽を続けるのかを聞いてみたのだ。
「また芽衣のフルートが聞けるなんて」
「そんな数十年も聞いてないみたいな表情はやめてよ、私のフルートなんて全然だよ」
「断じてそんな事はないと思うぞ。芽衣のフルートは本当に参考になっていたんだ」
主に芽衣が吹奏楽をやめてしまった後の高校時代に、とはタイムリープの事を話してないので流石に口に出せなかった。
「そんなに参考にしてくれてると嬉しいな。でも女の子の事を褒めるなら私じゃなくてアヤちゃんを褒めてあげなよ」
「分かってるよ」
そう言って俺と芽衣は二人で軽く笑った。
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