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暖かな陽の光に刺激され、俺はゆっくりと目覚めた。
視線の先にはどこか見た事のある天井が広がっていて、俺はベッドの上にいた。
どうやらあそこから生き残ったらしいと思った俺だが、ゆっくりと起き上がり辺りを見回すことで違和感に気が付く。
まず車に轢かれたはずなのに俺がいたのは病院ではなく、ただの一般家庭だったのだ。
そしてやたらと既視感のある室内。
俺は既視感の正体を探るために首を動かし、部屋の中をしっかりと観察する。
「間違いない……ここは俺の実家だ」
もう久しく訪れていないはずの実家にある自分の自室に俺はいたのだった。
でも何故東京で車に轢かれたのに地元の札幌にいるのかは疑問である。
意識を長時間失っていたにしても札幌の実家まで移動しているのは不自然だし、いるとしたら俺の家のはずだ。
「そうだ、今日は何月の何日なんだ」
そう言って俺はベッドの奥に置いてある電子時計を手に取りそこに書かれてある日付を確認した。
「2007年4月8日、日曜日だと……」
そこに書かれていた文字列はしっかりと2007年と書かれていて、俺は目を擦ってからもう一度時計を確認したがやはり時計にはしっかりと2007と言う数字が表示されていた。
俺が車に轢かれたのは2027年だ。
この時計はバグで20年前から日付が変わっていないと一先ずは思う事にして、一応勉強机に置いてあるカレンダーも確認してみる事にした。
「う、嘘だろ……。教科書がピカピカじゃないか」
カレンダーを確認しようとした矢先、俺は高校3年間でボロボロにしたはずの教科書がピカピカの状態で置かれている状況に気が付いてしまう。
『タイムリープ』や『死に戻り』と言ったワードが頭をよぎったが、まだ確証は無いので一度頭の中をリセットして俺はカレンダーを手に取った。
「これも2007年4月か。それに明日は入学式って書いてあるな。質の悪いドッキリはやめて欲しいだが」
そこで俺は起きてから最大の違和感に気が付いてしまった。
「なんで俺は杖も無しに歩けるんだ……?」
そう、俺は大学卒業後すぐに車に轢かれ右足が殆ど使い物にならなくなっている。そして残った手足にも若干の痺れが残っていてプロとしての音楽活動は諦める事になったのだ。
しかし何故か今の俺は杖が無くても自由に歩けるし、物を持つときに感じた違和感がすっかりなくなっている。
「もしかして本当に俺は20年前に戻っているのか……?」
肉体の変化、これが最大の決め手だった。
俺は現実味が無さ過ぎると思い、先ほどまで過去に戻っているわけはないと考えていた。しかし怪我がなくなっていると言う事実が俺にタイムリープ説を認めさせた。
俺は急いで部屋を出るとそこには眠そうな顔をした妹の香奈がいた。
「ん、どうしたのそんな怖い顔して」
「い、いやなんでもない。ちょっと寝ぼけてただけだよ」
「そう。お兄ちゃんの割には随分とはっきり喋るんだね」
もう30歳を超えているはずの妹がどう考えても中学生のような見た目をしていた。いや、実際妹は中学生なんだろう。ここは20年前、俺が高校一年生なら妹は中学2年生のはずだ。
そして今思い出したのだが俺が高校生の時は髪はボサボサだし、喋り方もボソボソしていて何事にも大してやる気のない、今風の言葉で言うなら所謂陰キャと言うやつだった。
正直当時の俺は教室にいるだけで若干場の空気を悪くするレベルだったと言えばどのくらい陰キャか分かるだろう。
今なら分かるが高校時代はそんなタイプの人間だったので彩華にも若干嫌われていたと思う。
「さて、まずはこのボサボサの髪をどうにかしないとな」
俺は懐かしい実家の洗面台へと赴き、案の定長く伸びていてボサボサだった髪をなんとかしようと試みる。
自分でも何故これで青春の高校生活を送っていたのか謎が生まれてくるレベルの身だしなみだった。
「若いからか肌は意外と綺麗だな。これなら髪と服をなんとかするだけで見た目は大丈夫そうだ」
母譲りの肌の強さと若さの相乗効果で何もしていないはずの肌なのに肌荒れは無く、髪を良い感じにセットするだけでそれなりの見た目を簡単に獲得することが出来た。
それでも髪が長すぎたので次の週末に切ろうと思いながら洗面所を後にする。
すると丁度洗面所に入ろうとしてきた妹とすれ違い、妹が俺を見た瞬間まるで幽霊を見たかのような表情をしていた。
「どうだ? 少しはマシになったかな?」
「ほ、本当にお兄ちゃん? 中身はどこかのイケメンさんだったりしない?」
惜しいな、中身は20年後の俺だ。
それにしても俺が大学生の時にお洒落に目覚め、始めて妹と顔を合わせた時の妹の表情と今の妹の表情が似すぎていて少し笑ってしまった。
「中身が変わっているわけないだろ。高校はちゃんと青春したいと思って髪を少しセットしてみたんだ、それだけだよ」
「喋り方も変わってるし、微笑み方もなんか違う。やっぱり中身はどこかのイケメンなんじゃ……」
「な訳あるかっ」
そう言って軽く妹の肩に手を置いてから、俺は朝食を食べる為にリビングへと向かう事にした。
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