13
学校が始まってから1週間が経った。
俺も段々とクラスに馴染んできたし達也以外の友達を作る事が出来た。
「おはよう俊君」
「おはよう、陽太」
そう、俺の隣の席のゆるふわ低身長ハムスター系男子の八坂陽太君だ。
趣味はお菓子作りで、まるで女の子みたいに可愛い見た目をしているが彼は歴とした男子である。
「おう陽太。昨日のテレビ、お前も見たか?」
「うん見たよ! 達也君」
そしてこの最近は俺、達也、そして陽太の3人で話すことが多くなっていた。
席が近いのもあって授業中や休み時間によく話しているといつの間にかグループが完成していたと言う感じだ。
そして周りを見渡してみれば彩華と芽衣が後ろの方で二人で会話しているのが見えた。
「そう言えば俊君って吹奏楽部なんだよね?」
「そうだよ、ピアノとフルートが得意だな」
「実はこの最近カフェで流れているクラシック音楽にハマってて、良かったら今度生演奏とか聞かせてくれないかな?」
「別に構わないよ。なんなら今日は部活休みだから放課後とかどう? 多目的室にピアノがあるんだ」
「おお、ありがとう俊君! 放課後楽しみにしてるよ」
「俺も今日はオフだから少し聞きに行ってもいいか?」
「勿論、達也もウェルカムだ」
放課後俺らは3人で多目的室へと向かっていた。
「にしても楽しみだな、俊君の演奏」
「そうだな、俺は音楽とか全く分からないけど楽しみだ」
「ははは、期待に答えれるように頑張るよ」
軽く雑談を交わしながら多目的室に入ろうとすると心地の良いピアノの音色が聞こえてきた。
「なんだ先客がいたのか」
「達也、静かに。多分篠原さんだ」
「し、篠原さん?」
恐る恐る多目的室の扉を開くと、やはりそこには気持ちよさそうにピアノを演奏している彩華がいた。
そう言えば学生時代の彩華はよくここで練習をしていたなと今更になって俺は思い出した。
「あら川崎君じゃない」
「こんにちは、篠原さん。邪魔しちゃってごめんね、俺たちは帰る事にするよ」
「別にここのピアノって私の物じゃないから、少しくらいなら貸すわよ」
「いやいや、今日は遠慮しておくよ」
「なら、私が川崎君の演奏を聞きたいってい言ったら?」
「へ……? それならしょうがない、俺の負けだ」
突然の不意打ちに少し赤面してしまったのを誤魔化しながら、俺は達也と陽太を手招きで多目的室の中に招いた。
彩華がいるせいか少しぎこちない動きになっている2人が俺の所までやってきた。
「こんにちは、遠藤君と八坂君」
「こんにちは、篠原さん」
「こ、こんにちは。篠原さん」
達也は流石の陽キャオーラでいつもと変わらない表情をしているが、陽太は緊張しているのが顔に少々分かりやすく出ていた。
「なんでこんなにぞろぞろとクラスの友達を連れてきたの?」
「そこの可愛い陽太にクラシックの生演奏が聞きたいって言われちゃってね」
「男相手に可愛いって言ってるのは聞かなかったことにするわ」
俺は彩華が先ほどまで座っていた椅子に座り、一息ついた。
そのまま両手を鍵盤まで持っていき、ゆっくりと演奏を始める。
最初は誰もが知っている名曲であるバッハのメヌエットをチョイスした。
ゆっくりとした曲調なのでカフェからクラシックを知った陽太にはピッタリの選曲だと我ながら思う。
メヌエットが終われば次はそのまま運命などの他の誰もが知っているであろう名曲を数曲弾いていく。
「おお、吹奏楽部ってすげぇな」
「俊君のピアノ凄すぎるよ……!」
俺が曲を弾き終え、顔を上げるとそこには感動した表情の二人がこっちを見ていた。
俺は自分の演奏が褒められた事に対するよろこびを隠すことなく笑顔を作り、「ありがとう」と2人に返した。
「じゃあそろそろ俺らはお暇するよ」
「ねえ川崎君。最後にまた連弾、していかない?」
「れ、連弾? 別にいいけど……」
「合わせる時間はないから最初の部活の時にやった花のワルツでいいかしら?」
「そうだね、そうしよう」
俺は彩華に手首を掴まれ、そのまま引っ張られるようにピアノの椅子にもう一度座る事になった。
そんな様子を見てクラスメイトの男友達二人は少し驚いた表情をした後、二人して若干にやりと笑っているのが見えた。
「俊と篠原さんの連弾期待してるぞ!」
「ぼ、僕もとても楽しみです」
「川崎君と私のペアは最強だから任せて頂戴」
二人の声に俺よりも先に彩華が反応した。だけど最強ってなんだよ、少なくとも俺は名乗った覚えはないぞ。
鍵盤に手を置き、頭の中の雑念を振り落としてから演奏を始める。
前に二人で少しの時間だったが練習した曲だったので滑り出しは完璧だった。
後は俺が彩華の癖に合わせてそれをフォローするように演奏していけばよいのだが……前よりも椅子が狭く、滅茶苦茶体が当たっているせいで集中が乱れてしまう。
制服越しに伝わる彩華の肌の温もりに気を取られてしまい何度かミスタッチをしてしまいそうになる。
正確に言えば細かいミスは既に連発しているのだが、致命的なミスはまだないので首の皮一枚繋がっている状態だ。
そんな俺を見て彩華が演奏の合間に肘で俺の事を突いて来たのだが、誰のせいでこうなっているのかを自覚してほしい。
「ちょっと体当たりすぎて気になっちゃうんだよ」
「確かにそうね、少しずれるとするわ」
流石にこれ以上は心臓が持たないと感じてしまい小声で声をかけ、俺は少しだけ椅子の端側に座り直した。
それを見た彩華も俺と同じく椅子の端にズレようとした時、運悪く俺らの両肘が当たってしまった。
「あ……、きゃっ!!」
「おい、大丈夫かっ!」
そのままバランスを崩して椅子から落ちそうになってしまう彩華。
俺は彩華が椅子から落ちないように彩華の手を掴むが既に彩華の体制は完全に崩れてしまっていた。
俺の貧弱な体では彩華の手を掴んでも引っ張り上げる事が出来ずにそのまま彩華は床に倒れてしまい、俺も一緒に倒れ込んでしまう。
その結果俺らは二人して重なるように倒れてしまった。
目を開けると至近距離にあった彩華の顔が可愛すぎて俺の脳内が一瞬フリーズしてしまう。
「お、おい大丈夫か? 二人とも~」
達也の一言で俺のフリーズは解かれ、俺の脳は現実を段々と読み込んでいった。
仰向けに倒れた彩華の上に覆いかぶさるように倒れた俺。
そして少し顔を動かせばキス出来てしまうような距離感。
彩華の息遣いを顔の皮膚全体で感じ取ってしまうような密着度。
そして思い切り顔を赤くしている彩華。
顔が赤いのは俺もだと思うけど。
「ちょっと、そろそろどきなさいよ」
「あ、ごめん」
ここまで読んでくれてありがとうございます!!!
ブックマークと☆5評価を頂けたらモチベになるのでお願いいたします!!!
感想もくれたら嬉しいです……。
↓↓↓↓↓↓↓↓




