ディナーにはご注意を
5年が経った。
時が経つのはずいぶん早かった。
ここでの生活にも慣れた、と思う。まだまだわからないことは多いけども。
もちろん慣れた、というのは“異世界での生活に慣れた”、“魔王の娘担った生活に慣れた”の、両方の意味である。
受け入れるのが早い、だの薄情者、だの言われそうだが、そもそもまだ出会って2ヶ月だった人を家族と呼ぶのも抵抗あったしね。
仕方のないことだ、うん。
魔界に来てからも5年経ったが、ここが乙女ゲームの世界だと分かってからも5年が経った。
前世でやっていた乙女ゲームに登場する悪役、
シエル・エトワール。
ヒロインを虐め、攻略対象たち媚を売りまくる。
ヒロインに嫉妬して、殺害までしようとする。
結局は、攻略対象にバレて処刑される。
なんとも間抜けな女。
に、転生してしまった。
この乙女ゲームは王道のストーリー。
ヒロインは平民の普通の女の子。
この世界で使える者が少なく、ゲームの舞台である学院がある国では王族しか使えないはずの光の魔法が使えることを除けば。
そしてそのヒロインは学院で生活を続ける中で攻略対象たちと恋に落ち、悪役や他の令嬢、様々な苦難を乗り越え結婚までたどり着く。
ありきたり、王道すぎるというなかれ。
こういう、変に奇をてらっていないストーリーにこそ、多くのファンがつくのである。
乙女ゲームでシエルは、確かに魔力を持っていた。
全くもって正しく懸命に使おうとはしていなかったが……
使うとしても、ヒロインを貶めるための道具として使っていた。
シエルが使えるのは、光の魔法と同じく使える者が限られる闇の魔法。
だが光の魔法と違い、その使い手が讃えられることはない、そんな魔法だ。
原作でシエルは学院の野外授業で魔王と出会い、闇の魔法の使い方などを学び好き勝手やっていたが最終的にはいい駒として使われていた。
そうなる前に、闇の魔法以外にも色々な属性の魔法を学んでおきたいと思っていた。
だから私は魔法を習得したかったのだが……
今の私には魔法が使えないらしい。
どうしたものかと悩んだ末、
「お嬢!何してるんすか〜?」
“この人”に剣を学んでいる。
名をアルム・コルテージュ。
お父様の配下の中でも特に剣術に長けている侯爵様だそう。
腕はいいのに性格が適当で知恵より武、頭を使うことがどうにも苦手で、それがなければもう少し上の階級につけるという。
「いえ、なんでも」
「そう?じゃ!始めましょうか。」
「ええ、よろしくお願いします。」
剣の習得、稽古は大体が彼と実践方式でやっている。
自分で言うのもなんだけど、私は意外と筋がいいと思う。
剣の稽古を始めて1年半。まだ剣を持っている時間は短いほうだが、アルムを相手に引き分けれるくらいにはなっている。
「ほんと、お嬢は筋がいいっすね〜、普通1年半でこんな上達しないっすよ?」
「そう?ありがとう」
「……ほんとに5歳か疑うレベルだなぁ」
当たり前だ、5歳じゃないのだから。
もうとっくに精神は30歳を超えている。
「どうも。」
微妙な顔をしながら、適当にお礼を言って稽古を続けようとまたアルムに向き直った。
「お嬢様〜!お食事のご用意ができました〜!」
遠くから声を掛けてくるのは私の専属メイドになってくれているラレーヌ。
今日も今日とて実に可愛らしい。
流石乙女ゲームの世界。この世界は主要キャラ以外も顔がいいらしい。羨ましい限りである。
「はーい」
「じゃ、今日は此処までにしましょうか!
お疲れ様です、お嬢」
「お疲れ様。また明日もよろしくね?」
「あぁ……はい、明日…明日。」
目線を逸らし、気まずそうな表情で頷くとアルムは去っていった。
(明日何かあるのか?無理なら無理って言ってくれないとなのに)
そんな呑気なことを考えていた私には、明日からまた忙しくなることなど考えてもいなかった。
♢
「なんか今日は一段と豪華だね〜」
「はい、ノワール様が指示されたのです。」
「そうなの?」
(何がしたいんだろ、あの人……)
まあいい。できる限り面倒ごとには関わりたくない。
あの人が何をしていようが私には関係ない。
美味しいご飯が食べれるのならなんだって構わない。
「おいしい……」
「よかったです!」
美味しい、美味しいが味が濃いような気がする。
まるで何かを隠すためにたくさんの調味料を入れているようだ。
なんだか、クラクラする。
動きすぎて貧血でも起こしたか?
いや、剣の訓練くらいで貧血など起こさない。
あ…ダメだこれ
この世界に来て何度目か、また意識を失ってしまった。
「これでよかったのですか?ノワール様」
「んん〜、いいのいいの、あの子も魔法が使えるようになりたいって言ってたし。」
「この方法ではあとでシエル様に怒られますよ?」
「大丈夫だって」
「はぁ、本当、貴方様のお考えは突拍子もなさすぎて困る」
「そんなにかなぁ」
「えぇ、
“人間に魔王の血を与える”なんて」