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転生を果たした社畜

どこを切り取ってもビル、ビル、ビルのコンクリートジャングルには深夜特有の静けさと闇が広がっている。

そこには自然の美しさがなくとも、星月と信号の光があって、都会の夜景として十二分に美しい。

しかしそこに、深夜に見合わぬ光が一つ。

その光はどうやらビルから漏れ出る照明の光のようだ。

こんな夜分遅くに何をしているというのだろうか。


……とまぁ、そのビルの中にいるのが私である。

悲しいことに、新卒でブラック企業に就職してしまった私。転職しようにもそんな勇気はなく、現状を改善してもらおうにも取り合ってもらえない。

そんなこんなで今の状況をずるずると引きずって、今に至る。

ああ、勿体無い。私の貴重な二十代……!!

「おい、聞いてんのかっ!」

バシッと頭に鈍い衝撃が走る。

「……はい、何でしょうか」

「ちっ、この資料!明日までにまとめとけ。商談で使うから」

「……分かり、ました」

何故今更。もっと前から言ってくれれば。

どんなふうに思っていても、決して口に出してはいけない。上司の機嫌で明日の仕事が決まると言っても過言ではないのだから。

それに、どうせ社会の闇の部分の奴隷社畜たる私たちには決定権も拒否権もない。

感情を無にして、ただ耐えるしかない。

それが、ブラック企業での暗黙の了解(ルール)なのだ。


────チッ


電気も消され、パソコンの画面の光だけが光る空間の中に何かが弾かれたような音が小さく響く。

無論、私の舌がなった音。

忌々しい。

部下に仕事を押し付け自分だけ帰る上司も。

役に立たない労基も。

そこから抜け出そうとしようにもできない自分も。

怒りに任せてキーボードを打つ。

そうするとあら不思議、いつもの2倍の速度で打てます。

どうでもいい考えに囚われているうちに早速一つ目の資料をまとめ終わる。

積まれに積まれた仕事の山を見ながら、これが終わり家に帰れるのは一体いつになるのだろうと呆然としながら考える。


─────いったい私は何故こんな目に遭っているのだろうか。


何処にも誰にも当たることのできない焦燥とストレスが怒りを上回ってしまう。

キーボードを打つ手も止まる。

早く終わらせなきゃいけないのに。早く帰りたいのに。また怒られるってわかってるのに。

一度沈み込んだ気分はなかなか上がらない。


休憩でも挟もうと、スマホを開く。

迷うことなくタップしたのは、最近ハマっている乙女ゲーム。

友達に勝手にインストールさせられたアプリだったが、何しろ攻略対象の顔が皆んなしていいので、沼にハマってしまった。


ゲームに浸るのはいい。

嫌な現実をまるっと全て忘れさせてくれる。

何より眼福だし。

うっとりとしながらスマホの画面を撫でる。



「もしも、来世があるのなら、こんな華々しい場所がいい……そこで、社畜なんかとは縁切って、平和に、幸せに…」


そんな呟きは、意識と共に夜闇に溶けていった。






* * * * *






明るい。

信じられないくらい明るい。

もう朝か、もう少し寝ようかな、最近あんまり寝れてなかったし。

ひさびさのベッドのふかふかは心地いい。

と、そこまで考えてふと思う。


(私、家に帰ったか?そもそも退社したっけ)


サー……と体から血の気が引いていくような感覚。

急いで何とかしなければ、と思い体を起こそうとするが一向に起こせない。

そしてここはどこ。まさか記憶にはないけど移動したとか?そんなことがあったらやばすぎる。

あんな

私はブラック企業に就職して辞めようにも辞めれなかった社畜。クソ上司に仕事を押し付けられて、それでゲームしようとしてた。ゲームしようとして、それ以外は何もしていない、はず。

うん。思い出せる。大丈夫。まだ慌てなくていい。

ということは移動したことを覚えていない線は無くなった。

じゃあなんなんだ、この状況は。

摩訶不思議が過ぎる。

残る線は、仕事のしすぎで倒れたとか?

そうなるとここが病院ってことになる……けど、うん、ないな。

今時の病院がこんなに煌びやかなわけがない。

シャンデリアとか!天蓋付きベッドとか!ひらっひらのカーテンとか!あるわけないわ。

ふむ、ではどういうことだというのだ。

記憶もはっきりとしているし、視覚も問題ない。

手足は動くのだろうか?

手をかかげてみて……あれ、私ってこんなに腕短かったっけ?

いや、特段長かったわけでもないけど!

しかも手も何だか小さいような……



いったいどうなっているんだ……!!


「あー、うあー」

あれ私今なんて言った?誰かー、と言ったつもりだったんだが、うめき声のようなものが聞こえた気がしたんだけど。

喋らないの、私今!?助けも求められないの!?


「妹ってどんなのだろーなぁ!」

「ふふ、それはそれは可愛らしゅうございますよ」


声が聞こえてきた。

遠くからか近くからかわからない、くぐもった声。

人!人いたのか、ここ!

扉でもあるのか知らないが、どうかこっちに来てくれ。

そしたら安心、聞けばどうにかなるのでは!?

聞けるのかは別として。

てか妹って言った?

カチャリ、とドアが開く音がした。

途端に私に影が落ち、ずいっと誰かが顔を覗かせた。


「わ、!かわいい!」

きらっきらに瞳を輝かせて顔を覗かせたのはとんでもなくかわいいショ、いや、幼児!だった。

私の頬をつついてとんでひっぱって、好き勝手。


「坊ちゃま、お嬢様が嫌がっておいでですよ」

「いやがってないもん!ねー!」


いや喋れないんだが?そんな同意を求められても。


「ほんと、天使みたいだなぁ。…はっ」


突然何かとても重大なことに気づいたような顔で私を見つめてくる幼児。

そういや名前は?ねえ名前は?

妹ってなに?ねえ


「ね、ねえメイデっ、もしかしてシエルはほんとに天使なんじゃないの、?」

「どう言う意味ですか、坊ちゃま。」

「だからね!シエルは本当に天使で、間違ってこの家に来たんじゃないの!?早く隠さないと!神様に連れ去られちゃう!!」


……あ、このショタ兄バカだ。

ショタじゃない、幼児。この幼児、兄バカだ。

っていうか兄バカってなんだ、シスコンか。

シエルが私、メイデというのがこのメイドのことだよね?

お嬢様って言ったよね、

で、私はこの幼児の妹でどっかの家のお嬢様だと?



は?


いやは?


え、なにそれ。


《元社畜、どうやら転生したようです》

このノリ地味にむずいからさくっと終わらしたい……

話を楽しんでいただけていたら、ブックマークやいいねをしていただけると、嬉しいです!


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