ピオネの探索
リオナ先生との研究が一段落して、私は屋敷内を歩きセイヤ様を探した。セイヤ様も訓練が終わっているはずだ。だから、セイヤ様が屋敷の広間で見つかった時は思わず駆け出したくなっちゃった。
今日の夕飯はアンリが作ってくれるから、簡単なデザートだけ作ろうと思っている。
この屋敷に来てから、一緒に住んでいるのにセイヤ様と二人っきりになれる時間がなかった。それでも、充実しているから毎日がとても楽しい。
「……ピオネっ!?」
私は今までの寂しさを埋めるように、セイヤ様の胸の中に飛び込んだ。突然の事でセイヤ様は驚いていたけど、優しく私を抱きしめてくれた。セイヤ様の匂いがどこか懐かしく感じられる。
「もきゅきゅ」
ハーティが嬉しそうに飛び跳ねていた。私たちの包容を歓迎しているみたいだ。それに広間にいるこの屋敷の方々も温かい目で見てくれた。
「俺も……寂しかった。ああ、そうだ。すごく寂しかった。言葉にするとすごく実感が湧く。陳腐な言葉になるかもしれないが――愛おしい」
「セイヤ様……、あ、あの、お願いがあります! こ、今夜、セイヤ様のお部屋に伺ってもよろしいですか? 色々お話したい事がたくさんあります! この前、私が倒れてしまった時、お身体を拭いてくださったお礼もしたいですし、訓練でお疲れのセイヤ様を癒やしたいです」
「……あ、ああ、わ、わかった。お茶を用意して待っている」
「もきゅきゅ」
カチコチに固まっている私たちの手を引っ張るハーティ。どこかに案内しようとしている。
そのまま屋敷の廊下を歩く。たどり着いたのは、倉庫みたいなお部屋だった。
「ハーティ? ここになにかあるのか?」
ハーティは「もきゅい」と言いながら頷く。その仕草はとてもかわいらしい。セイヤ様に懐いていて、まるで弟さんみたい。
倉庫は綺麗に整頓されていた。色々なものが置かれてあった。ハーティはなにかにかけられている布を取った。
「こら、ハーティ、遊んじゃ駄目だ……ぞ? これは、見たことがあるような……」
「素敵……」
そこにかけられてあったのは――ウェディングドレスとタキシードだった。
うしろから気配を感じて振り返った。
アリスさんが懐かしそうな顔をして立っていた。
「懐かしいのね。えっと、あったあった、ほら、この写真をみるの」
アリスさんが魔法でホコリを払い。写真立てを私たちに見せる。
「親父……、母さん……」
そこには、セイヤ様のお父様とお母様の結婚式の写真だった。お父様はセイヤ様がそのまま成長したような姿で、歌劇のときに見えた幻影と全く一緒だた。その二人がここにあるドレスとタキシードを身にまとっていた。
「……ピオネは知っていると思うが、俺の母さん……皇后は、俺が子供の頃に亡くなった。元々病弱だったんだ」
「セイヤ様……、無理しないでください。またいつかお母様のお話を聞かせてください」
「……ああ。しかし、なぜここに?」
アリスさんはハーティの頭をポンポンしながら答える。
「ここが自由都市で一番安全だからなのね。僕もビビアンもハヤトの結婚式には出席したの。ふふ、女帝だけは不貞腐れた顔をしていたのね。あのね、セイヤのお母さんはね、すっごく素敵な人だったのね」
「ああ、今でもはっきり覚えている。俺は……母さんが大好きだった」
「あの娘は悔いがない人生を送れたのね。最後の大恋愛をセイヤにも見せてあげたかったのね」
「……親父と母さんの恋愛か。見たいようなみたくないような……」
「へへ、湿っぽいのは苦手なのね」
「同感ですね。私も親父からさんざん聞かされましたよ。さて、ふたりとも面白い物を見つけましたね」
リオナ先生も倉庫へとやってきた。
なんだかいつもよりも優しい顔付きになっている。
「……アリス、今でも裁縫は得意ですか?」
「もちろんなのね! アリス印のお洋服は帝都でも最先端の流行りなのね! 魔法じゃなくて、手作業なのが売りなのね」
「ふふ、なら私からお仕事を依頼してもよろしいですか? 報酬は『コバ地方超高級干し人参詰め合わせセット』を十箱でいかがでしょうか」
アリスさんは飛び上がってリオナ先生とハイタッチをする。
「何でもいうのね!」
「では、このドレスとタキシードを……この二人のために直してください」
私とセイヤ様は顔を見合わせた。
***
「と、話がそれてしまいました。セイヤ、クレハが探していましたよ。あなたと温泉に行くって言っていました」
「セイヤ、僕も一緒に入るのね! もちろんハーティも一緒なの」
「温泉は構わないですが……、その、なぜ俺達にその服を?」
私も疑問に思い、頷く。
「それはね、ハヤトとパネトーネのお願いだからなのね。そんなに深く考えなくていいのね。夏休みの最後には修繕が終わるのね。あっ、サイズは鍛冶屋の時に測ったから必要ないのね」
セイヤ様が私の手をぎゅっと握る。嬉しいけど、寂しさが溢れている表情。きっとお母様の事を思い出しているのね。
「……見てみたい。ピオネがこのウェディングドレスを着ている姿を」
「はい、そこはいちゃいちゃしないでください。セイヤ、さっさと温泉行きますよ」
「おっ、ちょ、ちょっとまってください――」
と、リオナ先生はセイヤ様の手を引っ張り、廊下へと出てしまった。
セイヤ様は手を振って私にお別れを告げた。
「じゃあアリスさん、一緒に温泉入ろうか?」
「だ、駄目なのね! 僕も一応男の子なのね! ビ、ビビアンに怒られるの! セイヤ、待つのね――」
照れたアリスさんも可愛らしい。倉庫で一人になってしまった私はウェディングドレスを見つめる。
……セイヤ様のお母様をこれをどんな気持ちで着たんだろう?
婚約、結婚。令嬢にとって、政治の道具としての意味合いが強い。現代化が進んだ今日でもそれは変わらない。
「……失礼します」
私はもう一度布を被せて、お辞儀をして倉庫を出るのであった。




