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【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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間章 学園レオン

のんびり更新していきます


 これは二人の少年少女の恋愛物語。

 幾重の世界が収束し、たった一つの幸せを掴みとる物語、だと俺は思う。


 だから予想通りと言っておこう。

 こんな困難は弾き飛ばしてくれ、と俺は思う。

 君たちならそれができると俺は確信している。君たちじゃなければ出来ないとも分かっている。


「根源魔法はこの世界で二人しか使えないものだ。もしもピオネが根源魔法の使い手だとしたら? ……女神教に狙われたのも納得がいく。セイヤ君、君は今以上に強くなる必要がある。心も身体も。ふぅ……、きっと大丈夫だ、と俺は思う」


 だが、この言葉をあの子たちに聞かせなければいけない俺の気持ちも考えて欲しいものだ……。


『――報告は聞いたわ。二人の婚約はこのわたし女帝マリア・フィルガルドが認めないわ』


 女帝マリア・フィルガルドからの水晶通信が届いた。

 帝国最強の魔法使いであり、未来を視る事ができる根源魔法の使い手。

 俺はそれを読みながらため息を吐くのであった――






 そして、手に持っていた水晶通信端末を「拒否ブロック」をかけて投げ捨てる。


「女帝、あなたには何が視えているんだ? 最悪の悲劇的な未来を回避出来たとしても、それは誰にも理解されないんだ。ただ……、あなたの心がすり減るだけだ」


 女帝はやり方を変えなければならない、と俺は思う。


「なぜなら、俺は学生の頃、あなたに救われた。だが、あなたは誰からも救われなかった」


 ピオネとセイヤ君。あの二人を見ていると、未来への希望が湧いてくる。不思議な子供たちだ。


 と、そこで理事長室の扉がノックされる。

 ひょっこりと顔を出してきたのは愛する妻のクローディア。


「レーオン、来ちゃった、へへ。一緒に御飯食べましょうよ!」


 あの頃と変わらない笑顔。……なんだか、無性に妻を抱きしめたくなった。


「ちょ、ちょ、駄目よ、こんな所で……、もう、なんか嫌な事あったの? 昔みたいな顔してたから」


「いや、俺はもう大丈夫だ。若い世代の力になれればいい、と思っている」


「あら、私達だってまだまだ若いわよ? さ、行きましょう。たまには学生みたいに学食で食べましょうよ!」


「生徒たちが困るだろ……。だが、それも悪くない」


 俺はクローディアに手を引かれ理事長室を出る。


 こうしてクローディアと手を繋いで歩いていると、あの学生時代の頃を思い出してしまう――



 ***



 帝国第三皇子レオン・フィルガルド16歳。

 帝都貴族学園一年の春。


「――愛の告白、だと? 俺の事が好き? 見え見えの嘘は結構。……俺は君の存在さえも知らなかった。申し訳ないが、この学園にいるうちは婚約者を作るつもりはない、と俺は思っている」


 少女の顔も一瞥する。『鑑定』が発動して少女の素性を丸裸にする。


「ひっ」


「失礼、別に睨んでいるわけじゃない。こういう顔で――あらら、逃げちゃったか」

 走り去っていく女子生徒。鑑定を使うとどうしても怒ったような顔になってしまう。まだまだ俺も修行が足りない、な。


 帝国第三皇子レオン・フィルガルド、思春期真っ只中である。

 学園にいてもため息しかでない……。全くもって人生がつまらない。

 問題児である俺と目も合わせない同級生と先生。


 友達なんて誰もいない。


 時折話しかけてくれる生徒は厄介な性質を持った令嬢や、権力目当ての輩のみば……。

 それと相まって、ルアン兄貴が年がら年中厄介事を持ってきてトラブルに巻き込まれる毎日だ。


 人は俺の事を駄目皇子と呼ぶ。自堕落で無気力でやる気無いのないように人から見える。学園の成績も運動も特段優秀ではない。


 それもそうだ。第二皇子ルアン(バケモン)兄貴や第一皇子と比べられたら俺はただの凡人だ。


 凡人は凡人なりの生き方をすればいいのさ。


「凡人は出来る範囲の事をやるだけだ、と俺は思う。さて、教室に行くか」


 高校入学して一ヶ月が経った。しかし、俺が通い始めたのは今日からだ。


 高等部入学前の休み期間、ルアン兄貴に頼まれてとある事件を調べていた。


『いやー、レオンは観察眼に長けているから、ちょっと手伝ってほしいんだ! ――ん? 役に立たない? 駄目だよ、自己評価はちゃんとしないと。レオンは俺よりもよっぽど優秀だよ。ほら、お小遣いもあげるよ! それに可愛い女の子もいっぱい――』


 と、ルアン兄貴に言われるがまま煉獄島と言われる島に出向いた。

 そこで起こった不思議な事件。途中で消えてしまった脳筋ルアン兄貴の代わりに事件を解決に向けて動いた俺。帰ってきたのは昨日の夜……。

 ……久しぶりに本当に死ぬかと思った。


「いやはや、あの事件のせいで入学が遅れてしまった……。皇子としてどうなんだ? 全く……」


 俺は子供の頃からトラブルに巻き込まれやすい。そのため、トラブルに対する経験値というものが人よりも高い。


 ――腕っぷしが強いわけじゃない。俺は、ただただ、人を観察して、話をするだけだ。魔法なんて補助魔法しか使えない。

 世間では俺の事を――


「落ちこぼれ凡人皇子と呼ぶ。まあそんなものだ、と俺は思う。所詮は凡人」


 自分で言って少し悲しくなってきた。だが、仕方ない、それは事実であって間違いではない。俺は落ちこぼれだからだ。


 ***


 学生が行き交う廊下。俺に気が付いても誰も話しかけてこようとしない。

 なぜなら俺はルアン兄さんではない、他の兄弟に比べて劣っているレオンだからだ。


「レオン様がやっと学園に来られましたわよ」

「婚約者がまだ決まっていないそうですわ。あなた、立候補すれば?」

「レオン様はちょっと……暗くて怖いですわ」

「やっぱりルアン様と同じ学園で通いたかったですわね。はぁ、レオン様じゃ、ちょっと、ねえ」


 小さなため息を吐く。こんな言われようはもう慣れっこだ。

 相変わらず貴族学園は皇子であっても容赦ない。完全なる実力主義の世界。まあ自由都市の魔力至上主義よりはマシだろう。


 俺は令嬢たちを一瞥する。

 彼女たちは青い顔になって一目散に逃げてしまった。


「どうやら俺の顔はやっぱり怖いらしいな。それにしても学園か……」


「はぁ、新しい教室は知らない生徒が多いから気まずいな……」




 自分の教室である一年A組。何やら貴族らしからぬ騒ぎの声が聞こえてきた。


「平民のあなたが盗んだんでしょ!! いい加減認めなさいよ! 魔法実技であなただけ遅れて来たのよ!」

「迷ってただけだわ! ああもう、話にならないわよ。そんなに大切なら修練所にもってって……、というか、学園にもってこないよ、普通は」

「う、うるさいわね、平民の分際で!」


 入口の扉から中の様子を伺う。数人の令嬢子息が一人の少女を取り囲んでいた。……平民? 確かに帝国は先進的だが、まさか貴族学園に平民を入れたのか?


「私は盗んでいないわよ。あんたの悪趣味な宝石なんていらないもん! ケバケバしい化粧だって似合ってないのよ!」


「ま、まあっ! 盗人猛々しいわ!! 絶対にあなたが盗んだんだわ!」

「そうだそうだ! 平民ごときが貴族に対してなんて口の聞き方だ!」

「いくら公爵家のカイン様の推薦だからって、あまりにも無礼過ぎる! 僕はこんな子と同級生なんて気が狂いそうだ」


 どうやら俺は面倒な時に登校したらしい。というよりも、俺の存在に気が付いていない。


「はぁ……、面倒だ、と俺は思うぞ……」


 低い声で教室の真ん中を歩く。俺の声で教室の生徒たちがざわつく。

 俺の席はどこだ? ……確かカイン理事長が席に目印つけたって言ってた。……あれか、ヒマワリの花の絵が飾ってある。


 俺の席の前、周りのみんなから責められている平民の女の子がいる。随分と怒っているのか、顔が真っ赤だ。近づいてきた俺の事をキッと睨みつけてきた。


 瞬間、教室の温度が下がった気がした。気の所為だろう。


「あんた何よ! 見ない顔ね。ていうか、あんたも私の事を疑ってるの! 私はエミリーさんの宝石なんて盗んでいないわ!」

「いや、そこ俺の席。邪魔なんだけど……」


「レ、レオン様……、い、いつの間にか登校を……」

「レオン様だ」

「レオン様がいらしたぞ! みんな静かにしろ」


 平民の女の子がきょとんっとした顔をしていた。……はぁ、この子がカインさんが言っていた女の子か。

 俺はゆっくりと教室を見渡す。見慣れた貴族の面々、知らない貴族の生徒たち。


「ひぃ!?」「な、なに?」「レオン様っ、何をそんなに怒っているんですか!?」「おい、先生呼んでこい!」


 ――スキル『鑑定』でクラス全員分の心の内側を観察する。最後に平民の女の子を鑑定……、な、に? 視えないだと? おかしい、スキル鑑定は自分よりも魔力が低い場合しか視えない。


 俺は攻撃魔法を使えないが、魔力量だけは化物たちとかわらない。


「……まあいい、か。さて――エミリー嬢。静かにしてくれないか? 貴族なら貴族らしく」


「で、でも、あの、私のネックレスが……」


 俺は机をバンッと強く叩いた。クラス全員の視線がこちらへと向かう。

 そして手を差し出す。その上には――


「このネックレスか? 廊下に落ちていたぞ。エミリー嬢、落とさないように気をつけるんだ」


 エミリーの後ろにいる子息が青い顔をしていた。


「あ……、そ、そうですか……。廊下に……。えっと、どうして?」


「そんな事さっき登校した俺が知るわけがない、というよりも――もう一度みんなに言うぞ。……静かにしろ」


 教室は静寂に包まれる。重く、暗い雰囲気へと変わるのであった。

 ……ごめんね、俺は明るいルアン兄さんじゃないからさ。



 ***


「……あんた、なんであの子息がエミリーさんのネックレス持っているってわかったの?」


 昼休み、学食で定食を一人で食べているとあの平民の女の子が俺の席の前に座った。片手にはパンを持っている。


「別にただ『視た』だけだ。あとは補助魔法『強奪』をかけて奪い取っただけだ。俺は平穏な学生生活を送りたいんだ。学園にいる時くらいはトラブルはゴメンだ、と思っている」


「え? 強奪って補助魔法なの? 絶対違うでしょ!? ていうか、誰も気が付かず一歩も動かずものを奪うなんてありえないわ……」


「別に普通だろ。というか、君こそ俺の行動が見えたのか?」


「うーん、はっきりとは見えなかったけど、勘ってやつよ。というか、やばいわね、あんたの魔法技術。それって学生レベルじゃないわ」


「そんな事どうでもいい。それよりも、君はわかってるだろ? 俺は根本的な解決はしていない。これから先も君はクラスメイトから差別による攻撃を受ける、と俺は思う」


 眼の前にいる少女は首をかしげた。


「ん? そんなのどうでも良くない? ねえ、あんたレオンって言うんでしょ? 暗そうだし、友達いなさそうだから私が友達になってあげるわよ」


 思わずむせてしまった……。


「ごほっ、君は俺が落ちこぼれ皇子だって知ってるのか?」


「ん? そうなの? あんたが落ちこぼれならこの学園中の全員が落ちこぼれだよ。ていうか、どうでもいいよ、肩書なんて。ほら、友達になるのならないの?」


「むむ、非常にとても厄介な事態になりそうだが……、まあいいか。カインさんのお願いでもあるし……」


「おっ、カインおじさんの事知ってるの!? あははっ、私の友達なんだよ! カインさんって渋くてかっこいいね!」


 俺はってゆっくりと頷いた。


「ああ、彼は俺の尊敬する人だ。……ところで君は名前は?」


「あっ、ごめんね、まだ名乗ってなかったね。私はクローディアよ苗字は無いんだ。よろしくね!」


「……なるほど、俺はレオンだ。よろしく頼む。ところでそのパンはとてもうまそうだと、俺は思う。一口くれないか?」


「あげないわよ、バカ!」




 これが俺と妻との初めての出会い、だ。

 そして、俺は学園生活三年間、一度も平穏が訪れる事はなかった……。



「だから、なぜあなたはいつもそうなんだ! 俺の婚約者を勝手に決めたり、あの平民とは友達になるな、と言ったり――」


 俺、レオン16歳。珍しく感情が高ぶってしまった。

 会話の相手は母様である女帝マリア。


「やれ遠足には行くな、王国には行くな、薔薇会には出るな、ルアン兄貴とは関わるな……。一体なんなんだ? なぜあなたは否定ばかりなんだ!!」


「今はわからなくていい。いずれきっと分かる。……レオン、あなたがあの平民と仲良くなると、三年生の薔薇会で大変な事が起こるわ」


「また未来視か……。だから、それは一度も訪れたことの無い未来じゃないか? 誰も見たことがない……と俺は思う」


 少し頭が冷えてきた。普段の俺に戻る。自分を客観視する喋り方は重要だ。なぜなら、全てを俯瞰する事によって見えないものも視えてくるからだ。


「ええ、最悪は全て回避しているわ。……だから、レオンお願い。あなたが留学せずに貴族学園に入ったことによって未来視のバランスが――」


「母様、その話はもう終わった事だ。……俺は母様を愛している。だが、その未来視によって……父様は……、あの結果も最悪じゃないのか?」


 違う、こんな事をいいたいわけじゃない。父様が病気なったのは母様のせいじゃない。あれは……俺のせいだ。


 ふと、温かいぬくもりを感じた。

 いつの間にか、母様が俺をそっと抱きしめていた。まるで時を止めたような感覚。


 ……母様の思いは伝わる。この人は、ただ、優しい人なんだ。

 大好きなのに素直になれない。

 ははっ、本当に俺は思春期だな……。


「……学園、遅れるわよ。ちゃんとご飯食べてしっかり勉強して立派な皇子になりなさい。……あなたの事を見守っているわ」


 俺は小さく頷くだけだった。それでも心に刺さるなにかがあった。


 ***


「レーオン!! 放課後にさ、中央区に行こうよ! なんか裏路地にすっごく面白そうな道場があったんだ! え、っと「ディン剣術道場」だったかな?」


「ちょっと待つんだ、クローディア嬢。放課後まで君と付き合うつもりはないぞ」


「嬢? あははっ、普通でいいわよ。あんた、結構猫かぶってるでしょ?」


「待て待て待て、俺は剣術はからっきしだ。全くもって興味がないんだ。クローディア嬢、いやクローディア、少し落ち着こう。今は魔法実技の時間だ」


 クローディアは非常に男勝りの令嬢であった。一応、名誉男爵という爵位を与えられているが、あれは平民と変わらない。


 そして、平民であるクローディアと関わろうとする子息令嬢は誰もいなかった。

 いくら先進的な帝国だからといっても、階級の差別格差はある。


「いいか、クローディア。俺はこの国の第三皇子だ。平民の君が俺にちょっかいをかけると周りが面倒だ、と俺は思うぞ」


「確かにちょっと面倒だけどさ、なんかあんたの事放っておけないのよ。だって今にも壊れそうみたいじゃん。あははっ、私は絶対あんたに惚れないからそこだけは安心してよ」


 ……勘が鋭い、だけか。なにかのスキルな訳では無いか。


「いやはや、俺もクローディアと一緒になる未来は絶対に見えないな」


 正直、クローディアと話していると気が楽だ。俺の事を皇子としてみていない。本当にただの友人として接してくれている。

 まあ、構わないか。


 ***


「レーオン、あのさ、ちょっと知恵を貸してよ」


 放課後になって、クローディアがいきなり俺の手を掴んで引っ張った。


「ま、待つんだ!? 淑女がみだりに男性の手を触れるのは――どこへ行くんだ!? 俺は帝都に新しく出来たにゃんにゃん喫茶に行こうと――」


「あとで一緒に行ってあげるからさ。ちょっと知り合いが困ってるんだ」


 連れて行かれたのは、戦術対抗戦部の部室。

 部室に入ると、部員が三人しかいなかった。三人は俺に気がつくと青い顔に変わった。


「ほ、本当に連れてきたぞ!?」

「レ、レオン様だ! ……これで本当に大丈夫なのだろうか?」

「僕緊張しちゃうよ」


 見るからに新入生とわかる子息三人。特徴的な体形は覚えている中等部で見たことがある生徒たちだ。確か太っちょは男爵、ガリガリは子爵、ちびっこも男爵の子息だ。


 クローディアが俺に状況を説明し始めた。


 戦術対抗戦。四人一組のチームとなり、相手チームと模擬戦闘を繰り広げる一般的なスポーツだ。

 帝国のみならず、この世界各地で流行っている。各国の代表チームが争う選抜戦というのもあるくらいだ。これのお陰で戦争が回避されていると言っても過言ではない。それに経済効果も恐ろしく高い。

 プロは毎シーズン熾烈な争いをし、全国で水晶放送で中継をされているのだ。ルアン兄貴が大好きな競技。ただ、ルアン兄貴は特別すぎるから、絶対に出てはいけないとされている。


 あの人、加減が出来ないスキルの持ち主だからだ。

 結界防御バリアも効かないし、どんな相手でも攻撃が通じてしまうから、選手を殺してしまうからだ……。


 ルアン兄貴の事はどうでもいいとして、今週末に帝国貴族学園と遥か東の国の超大国との戦術対抗戦の親善国際交流試合が行われる予定であった。


 超大国の選手はすでに帝国入りをしており、帝都を観光したり、貴族学園の修練所で練習をしている。


 交流戦には各々の国のお偉い様もいらっしゃるとの事。


「……なのに、貴族学園の戦術対抗戦部はこの新人三人しかいない、という事か?」




 ***


 現代、学食――


「あははっ、そうよあなた。あの時は面白かったわね。ヨワヨワな三人しか残ってなくてね」


 俺とクローディアが学生時代を懐かしみながら学食で遅いお昼を食べている。生徒もちらほらいて、俺達を見て驚いていた。


「全く、あの時は本当にまいったものだ。最弱の三人を勝利に導くために、俺は最善の手を尽くしたはずだ」


「ふふ、学園レオンの誕生だもんね。『――それは間違っている、と俺は思う』っていう決め台詞をいっつも言っていたね!」


「よしてくれ……、学生時代の若気の至りだ」


 あの親善対抗戦はなんとか乗り切る事が出来た。3日間の特別特訓レオンブートキャンプと俺の補助魔法「遠隔指揮」によって。

 だが、問題の本質はそれではなかった。親善対抗戦はある程度見栄えがすれば負けても勝ってもどうでもいい。


 なぜ、三人しかいなかったのか? ということだった。


「でもさ、まさか、対抗戦部の部長が敵に毒を盛って、間違えて自分たちで食べちゃったって……、ちょっとおバカさんだったよね」


「そうでもないと思うぞ。あの場には『悪意(女神教)』が潜んでいたからな」


「え、そうだったの?」


 高等部は様々な事件と関わった。というより、事件が向こうからやってきた。

 クローディアと解決するのが日常になっていて、感覚が麻痺していたが、明らかに俺の学生生活はおかしかった。通称『学園レオンの事件簿』。


 事件を通して、友人も出来た。感謝されたりもした、自分の性格が柔かくなっていったのがわかった。

 いつしか、クローディアと一緒にいるのが当たり前になっていた。



「ん? どうしたの? あっ、薔薇会の事思い出しているんでしょ? ……あのね、私ね、実は戦術対抗戦の事件の時にさ、レオンが流れ魔法から私の事庇ってくれたでしょ? あの時、初めてときめいちゃったんだよ」


 流れ魔法じゃない、誤射じゃない。あれは超上級魔法が明らかにクローディアめがけて飛んできたんだ。俺は咄嗟に全魔力を使ってクローディアを守った。


「それは……初耳だ、と俺は思う」


 ごほんっ、と咳払いをしてクローディアから視線を外す。全く、この年になっても俺は妻に惚れているんだな。


 だから、俺は……女帝の言う事を背いてまで――クローディアと一緒にいたかった。


 ……あの最後の薔薇会。

 クローディアの命が狙われた事件。

 あれは、本当に解決できたのだろうか?


「あなた――」


 ふと、気がつくと対面で座っていたクローディアが俺の横に移動していた。

 まるで、恋人同士みたいに腕を組む。


「お、おいおい、流石に生徒たちの前で――」


「……私はあなたの妻です。あの時、あの時間、あの場所で出会ったから、あなたと出会えたんです。例え、それが仕組まれていた事だとしても……私の気持ちは動かせなかったですよ。どんな事があろうと、あなたを愛していました」


「クローディア……」


「レオン、あなたは私の大切な旦那様です」


 俺もクローディアの言葉に答える。


「ああ、俺も愛している、と()()する。ごほん、久しぶりに歌劇でも観に行くか?」


「あら? お友達が脚本家だから贔屓にしてるものね。ふふ、まさかエミリーさんが脚本家になるなんて思わなかったわね。あなたの話ばかり作ってちょっと妬けちゃうわ」


「は、ははっ、今度の新作歌劇は女帝マリアの話だ。きっと素敵な歌劇に仕上がっているだろう、と俺は思う」




 幾つかの疑問があった。

 あの時、母様は薔薇会で悲劇が起こると俺に言った。


 実際、三年の薔薇会の時に『女神教』幹部、リゼ司教というオネエ言葉の化物に襲われた。

 というよりも、女神教は学園に、帝都にいたるところに潜伏していた。

 俺が学園の生徒だと思っていた友達は女神教の司教だった。


 あの時の薔薇会で俺達が死ななかったのが不思議なくらいだった。

 あんな化物はルアン兄貴だけで十分だ、と思った。


『あら、ルアンよりも余程いい男ね。悔しいけど私の詰みね。それに、この「器」じゃなかったわね。間違えちゃったわ。ふふ、三年間面白かったわよ』


 ……きっと大丈夫だ。

 俺はあの時から帝都で何が起ころうと対応できる人材をスカウトし続けている。

 帝国はあの時とは違う――


「あっ、レーオンッ、そのプリン食べていい!?」


 少女みたいな笑顔のクローディアを見て、思わずほころんでしまった。

 ……ああ、俺はもう独りじゃない。


 君に出会えて、人生の宝物が出来たんだよ――



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