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【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)
一章

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手紙


「ピオネちゃん、最近張り切っているみたいだね! 冒険者ギルドでも大活躍しているみたいだし」


「ルアン様、はい。セイヤ様と隔日でダンジョンに挑戦しています! お陰様で魔法も徐々にコントロールする事が出来ました」


 充実した毎日を送ると月日が過ぎるのが早い。なのに一日一日がとても濃密で同じ日なんて一度もない。

 セイヤ様やみんなと会わない日はほとんど無かった。


 道場で剣を振るっていると無心になれる。ダンジョンで魔法の練習をしていると身体が魔力の使い方を覚える。


 護身用の剣の使い方も段々と分かってきた。

 セイヤ様とおすすめの本の交換会をした。


 道場でのお茶会は日々の生活の一部となっていた。

 そんな私は、学園が終わった後にルアン様に呼ばれておじ様のお店でお茶を飲んでいた。


「ははっ、普通は剣で魔法なんて切れないからね。そんなの帝国ではディンかセイヤ君くらいだよ」


「ですよね……」


 こんな毎日が続いて欲しい。そう思っているのに、理性がそれを否定する。


 何故なら薔薇会はもう間近に迫っている。


 なんてことはないはずなのに……、ただ婚約者であるディット様とお互い仮面を被って薔薇会をやり過ごせばいいはずなのに……。


 心の奥にある気持ちがそれを拒絶する。

 理性と本能が相反している。


 レオン様は薔薇会までにディット様とジゼルを教育する、と言っていた。


 極力私たちとは会わせない、言葉の通りこの数週間は私達がお互いの婚約者に会うことは無かった。


「もうすぐ薔薇会だね。懐かしいな〜、あの頃は今よりももっと貴族主義だったから大変だったよ。あっ、そうそう、ピオネちゃんに渡さなきゃいけないものがあるんだ――」


 いつもニコニコ顔のルアン様。


 今日は真剣な表情をしていた。その雰囲気はS級冒険者として相応しい貫禄。


 ……うーん、でもね、皇子様が冒険者ってやっぱり危険だよね。


「はいっ、これ。ずっと預かっていたモノ。やっと配達出来たよ……。全く皇子使いの粗い奴だね」

「これは……?」


 ルアン様が私に手渡したのは数十通のお手紙。様々な便箋には可愛らしいシールが貼ってある。少しボロボロになっているお手紙もある。封は閉じられたままだ。


「……ルアン様が今までもらったラブレター?」

「違うよ! ごほんっ、僕はそんなにモテモテじゃないよ。レオンの方がモテモテだったからね」

「そ、そうなんですか? 意外ですね。色々な国のお姫様とお噂が……」

「あれは……まあ、一部は否定できないけど、うん、いつか話せる時が来たらお話してあげるよ。レオンの薔薇会での初恋の話も一緒にね。それよりもこの手紙――、以前セイヤから預かっていたものなんだ」

「セイヤ様?」

「うん、セイヤが中等部に在籍している時の手紙。……いつかピオネちゃんの記憶が戻ったら渡して欲しいって言われていたんだ。もしかしたらセイヤは忘れているかもね」

 一番ボロボロのお手紙。手紙の後ろには薄っすらと残っている筆の跡。

「ピオネ様へ……」

「うん」


 手紙を書くという行為。それは貴族にとって特別な事。

 今は仕事で手紙を使う事はない。殆どは水晶通信という特殊な魔道具を使っている。 


 だから、手紙は想いを伝えるもの。


 交換手紙という貴族特有の文化。


 記憶を失っていた私がディット様に手紙を送っていたのも想いを伝えようとしていたから。


 中等部の頃の私は、幼い頃の記憶を失くしディット様への想いだけで生きていた。


 その頃のセイヤ様とは接点は何もない。


 セイヤ様から手紙をもらった事は一度もない。というよりもその可能性を考える余地も無かった。


 私は一番古い手紙を手に取った。


 ……読んでいないのに手紙からセイヤ様の感情が伝わってくる。それはあの自然公園でセイヤ様に射抜かれた感覚に近い。


「わたし……」


「確かに配達したよ! ピオネちゃん、読むも読まないもピオネちゃんの自由だよ。ここは帝国。世界中のどこよりも最先端を行く国だ。君等若者が自分で道を切り開く事ができる国だ。セイヤがどんな気持ちで手紙を書いたか僕はわからない。どんな決断をしたかわからない。でもね、想いを込められた手紙には魂が宿るんだよ」


 ルアン様が席を立つ。軽く手を振って工房の奥へと去っていった。


 私は手紙を見つめる。


 セイヤ様の気持ち、想い。


 この手紙を見たい、という気持ちが膨れ上がる。でも――それは……。


「……薔薇会が終わったら……セイヤ様、読ませていただきますね」



 ***



 週末に迫る薔薇会。


 学園ではその話題で持ち切りであった。


 あの子息様は誰と一緒に薔薇会に出席する、あの令嬢は婚約者とお揃いのアクセサリーをつけて出席する、あのブランドのドレスを発注した、料理は学食のシェフが腕を振るうらしい、とか色んな話が教室で飛び交う。

「ディット様が学園に復帰したらしいわね」

「あら私も御姿をお見かけしました。凛々しくなられましたわ」

「あの御姿で魔法の天才で皇子様ですもの、流石ですわ」

「……うーん、いまいちピンと来ないんだけどね。セイヤ様の方がカッコよくない?」

「カリンさんもいつかディット様の魅力がわかりますわ」

 朝から気持ちが重たいと思っていた。その正体は自分でわかろうとしなかった。わかっていたのに……。

 

 そう、ディット様が今日から学園に復帰している。

 

 今週末の薔薇会のために。

 

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