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【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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デート準備

 ジゼル・カーマイン。


 学園の副生徒会長、ディット様の愛人とも言われている私の姉。

 別邸にいる時間よりも研究室でディット様とともに過ごす時間の方が多い。


 そんな姉はレオン様の言いつけにより、ここ最近は別邸にいる時が多い。

 今夜は珍しく中庭でお茶を飲みながら何かの論文を読んでいた。


「ああもう、面倒ね……。レオン様の勉強会も面倒だし、研究の依頼は入ってくるし、生徒会の仕事も詰まってるし……」


 愚痴を言うジゼルの前を通っても私には何も言わない。挨拶さえもしない。


「ジゼル姉様、おはようございます」


「ん? あなたいたの? そっ」


 無関心――その言葉が一番しっくり来る。


 記憶が戻った私でも、いつから無関心だったかなんてわからないほど。


 姉にとって私はいないと同然の存在。

 常に姉と比較されて育ってきた。


『ジゼル様はあんなに学業が出来たのにあなたは……』


『公爵家はジゼル様がいれば安泰だな』


『聞きました? ジゼル様が魔法研究で賞を取られて』


 優秀なジゼルは…………あれ? 疑問が浮かび上がった。


 周りから優秀と言われているジゼルが何故『自由都市皇国の落ちこぼれ』と言われているセイヤ様と婚約を?


 皇族の婚約者を決めるのは女帝含む帝国上層部が行う皇族会議。

 ……わからない。何か理由があるの? 


 それに私は帝国の落ちこぼれと言われる存在。


 ディット様はあんな性格だけど、魔法研究の天才と言われるほどの功績を残している人物。


「あぁ、イライラするわ。なんで私ばっかり責められなきゃならないのよ。……別に私は悪いことしてないのに……、レオン様、本当にムカつくわ」


 誰に言うわけでもないただの愚痴。


 姉妹の会話をまともにしたのっていつだろう?


 ……全然覚えていない。


「ピオネ、そこで突っ立っていると邪魔よ。どっか行きなさいよ。ああもう、ディットがいないから研究は進まないし――」


 自分の精神に余裕が出来たからわかる。


 子供の頃から変わっていないジゼル。他者を思いやる気持ちや共感性が全くと行っていいほど存在しない。


 そんな姉を見て、少しだけ悲しくなった。


 私は気を取り直して自室に戻るのであった。


 ***


「ピオネさんはチグハグな動きをする。剣筋が見えているのかな? だが、身体がそれに対応しきれていない」


「はぁはぁ……、はい」


「正直、予想以上に優秀だ。師範が言っていた基礎は完璧に出来ている。今日はここまでで、この後お茶をしよう」


 あのパーティーの日から数日が過ぎた。


 私はセイヤ様のお言葉に甘えて毎日のように道場へと来ている。


 まるで自分の部屋のように落ち着くことができる。


 少し前までの自分からは考えられない楽しい毎日を送っている。


 カーディスおじ様のお店へ寄る時もあれば、ルアン様やみんなが道場へ訪れてお茶会を開く時もある。


「はいっ、着替えたら準備しますね! セイヤ様はダイニングで待ってて下さい」


「いや、俺も手伝おう」


「いいです、これも弟子の務めです」


 汗を拭いて手早く着替えを済ませる。ダイニングへと向かうとアンリがお辞儀をして迎え入れてくれた。


「ピオネ様、お湯と食器のご準備は出来ております。それでは失礼いたします」


「ありがとう、アンリ! えっと、今日はおじ様のお店で買ったミントティーにオレンジの皮のすりおろしを入れて……」


 アンリがいつの間にかいなくなっていた。


 道場の事は私自身でやりたい、という事をアンリに伝えてある。


 アンリは『侍女としての仕事が……』と言っていたけど、私の好きなようにさせてくれた。


「いい匂いだ。ミントティーか?」


 朝稽古の掃除を終えたセイヤ様も着替えてダイニングへとやってきた。


 道場の稽古も大事だけど、このお茶の時間もとっても大事。


 私達は毎日欠かさずお茶を飲みながら軽い朝食を一緒に取っている。


「はいっ! 素敵な香りですし、疲労回復にも良いんですよ」


 和やかな時間。一日の始まりはこの道場から始まる。


「ピオネさんは毎日稽古に来るとは思わなかったぞ。身体がキツかったらいつでも言ってくれ」


「セイヤ様がいつ来てもいいって言いましたよね? ふふっ、これからもよろしくお願いしますね」


「ああ、ところで――」


 ここ最近、セイヤ様が何か言おうとして言い淀む時がある。


 セイヤ様のクセが少しだけ分かってきた。大切な事を言おうとする時、頭の中で色々考えてしまうんだ。

 真剣な眼差しで私を見つめるセイヤ様。


「……帝国世界図書館と魔導遊園地のどちらへ行きたいか?」

「ほえ?」


 あまりにも予想と違っていたから思わず変な声が出ちゃった。


 セイヤ様はお茶のカップを持ち上げて顔を隠しながら私に言う。


「もし予定が合えば今週末にピオネさんの剣を買いに行きたいと思っている。そのついでと言ってはなんだが、どこか行きたい所があれば一緒に、と思って」


 頭の中で浮かんだ言葉は『デート』!


 あの時、約束はしていたけど詳しい話はしていなかった。


「は、はい……、じゃあ……今回は世界図書館がいいです?」


「何故疑問形なんだ? よし、では週末の予定を決めないか?」


「は、はいっ!」


 そうして私達の朝食は週末の作戦会議の場となる。


 どこに行きたい、アレをしたい、これをしたい、何を見たい、色んな事を話し合った。

 そんな日々が週末まで続く。


 もちろん本番当日が一番楽しみだけど、まるであの日の『ロイヤルブラッド』の前みたいに……待ち切れない楽しさが溢れるようだった。


 ***


「ピピンちゃんっ! セイヤ様とお出かけだよ! えへへ、何着ていこうかな!」


 私は椅子の座ってピピンちゃんと抱き上げていた。


 待ちに待った週末の前夜。お部屋には沢山の私服が並べられてある。


 元々私服は全然無かったけど、昨日アンリが――


『ピオネ様、こちらが最新の帝都の流行服です。これさえ着れば殿方もイチコロでございます』


 と言って大量の服を私の部屋に置いていった。


 かれこれ数時間私は鏡の前で試着を繰り返している。


「このお洋服すごく可愛い……、少し大人っぽいけど……うん、これにしようかな」


 鏡の前にいる私はとても公爵令嬢には見えない。


 ほんの少しだけ背伸びした、ただの女の子がいるだけ。


 無理に着飾ろうとしない、自然のままの自分を欲しい。


「アクセサリーもあった方がいいかな? ……あっ、ピピンちゃん、これちょっと借りるね」


 ピピンちゃんのお洋服の胸元につけていた『うさぎのブローチ』。


 おじ様のお店でひと目見て気に入って購入したもの。


 私はそれを胸につける。


「思った通りだね。うん、可愛い」


 自分自身の事を可愛いなんて思ったことはない。


 それでも、鏡の前にいる女の子はとても可愛らしく見えたんだ。


 足元を確認する。帝都の若い女の子たちに流行っているブーツ。


 とても履き心地が良くて動きやすいのに可愛らしい。


 これで明日の準備は大丈夫。


 道場の稽古はお休みで、セイヤ様とは帝都中央駅前で待ち合わせ。


 明日の事を思うだけで嬉しくなってくる。


「ピオネちゃんね、明日は世界図書館に行くんだよ! あそこって一部の人しか行けないんだよ! あとね、鍛冶屋さんに行って剣を作ってもらうんだ!」


 なんだかピピンちゃんの顔が優しい表情に見える。笑って喜んでくれているみたい。


 うん、愛情を注ぐと魂が宿るって言うもんね。


 いつかピピンちゃんもアリスさんみたいに話し出したりしてね。


「そうだ、今度アリスさんに紹介しなきゃ。それにセイヤ様と再会しなきゃね」


 セイヤ様が私にピピンちゃんを手渡してくれなかったら、私はどうなっていたんだろう?


 記憶を失った私にはピピンちゃんしか友達がいなかった。


 ずっとずっと一人ぼっちだった。


 自室に帰るとピピンちゃんが待っていたから私は頑張れたんだ。


 ピピンちゃんを優しく抱きしめる。

「……ありがと、ピピンちゃん。……わたし、前に進むね」


 なんだか、眠たくなってた……あした、早いから、もうすぐ寝なきゃ……。


 お休み、大好きなピピンちゃん。



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