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公爵令嬢ピオネの初恋3

「ピピンちゃん、どうしよう!? 何着ていけばいいのかな?」


 高等部に入学して早二週間が過ぎようとしていた。この学園はイベントが沢山あり、小さなパーティーはそれこそ社交界並に頻繁に行われる。


 明日の夜に行われる高等部入学を祝う夜会。この夜会は一年生とその関係者だけで行われる比較的小規模なパーティー。


 今回の主催は侯爵家の面々。一ヶ月後には学園でも最大規模の『薔薇会』と呼ばれる生徒会主催の夜会が開催される。


「ピンクは子供っぽいよね? 赤がいいかな? うぅ……黒のドレスも素敵だけど私の体型には似合わないかな……。で、でも、勇気を出してエレガントなドレスを選んで……。服装だけでも大人っぽくなろうね、ピピンちゃん!」


 久しぶりにディット様からの夜会の誘いがあった。

 私は嬉しすぎてピピンちゃんを抱きしめて、お部屋で踊ってしまった。


 しばらく身悶えしてから落ち着きを取り戻し、どんなドレスを着ていくか悩みに悩んでいる最中。

 ピピンちゃんをベッドの上に座らせて、色んなドレスを試してみる。


 本来なら公爵令嬢として相応しいドレスを着なければならないけど……、この夜会は貴族の学生が主体。比較的緩い雰囲気の夜会となっている。


「ふふん、エメラルドグリーンのドレスもあるんだよ。えっと、コサージュも可愛らしすぎなくて大人っぽい……うん、薔薇と水晶柄にしてみようかな」


 決めなきゃいけない事は沢山ある。

 今回のテーマは大人っぽさ。

 背が小さいから少し高いヒールを履いてみようかな。……うぅ、ヒールはちょっと苦手だけど大人っぽく見えるなら練習しなきゃ。


 髪型も帝都で流行りのゴージャスな巻き髪にしてみて――


「ん、そうだ。お喋りの練習をしようね、ピピンちゃん。私、ディット様の前だと緊張しちゃうし、どもっちゃうから……。ごほんっ」


 私はピピンちゃんに向かって話しかけようとした。


「えっと、あの……、その……」


 何を話せばいいかわからない。……うぅ、本の事とか演劇や美術、戦術書の事だったらいくらでも話せるのに……。


「ま、魔法の研究はいかがですか? い、今どんな研究をしてらっしゃるんですか?」


 魔法……か、私は幼い頃で止まってしまった成長。ディット様とジゼルが話している内容はさっぱり理解出来ない。というよりも、なんだろう、泳げない人が泳げるっていう感覚がわからないのと似ているかも知れない。


 ――時間が過ぎるのが早かった。恋をしていると盲目っていうのは後からじゃないと理解できないんだなってこの後実感する事になったんだ……。


 そして夜会が行われる夜があっという間に訪れた。私は遠足の前の子供みたいに興奮して眠れなかった。

 今日こそはちゃんと婚約者としてディット様のおそばにいるんだ。


 とっておきのドレスに身を包んだ私。鏡の前で何度もチェックした。慣れないヒールは練習したから大丈夫。靴擦れが少しだけ痛いけど我慢する。


 期待している自分……不安がどうしても心の奥にこびりつく。


 ……貴族令嬢は本来なら夜会へ行く際に婚約者と同伴して向かうんだけど――


 私の隣にいるのは専属侍女のアンリさんが一人だけ。姉のジゼルは朝から屋敷にいなかった。それが不安を増大させる。

 それでも――


「ピオネ様、遅れてしまいます。……ドレスお似合いです。きっとディット様もお喜びになると思われます」

「ええ、行きましょう」


 いつもよりも大人っぽい返事をして不安を吹き飛ばそうとした。


 まるで別邸とは思えないほどの豪奢な屋敷を構えている侯爵家のお屋敷。


 夜会の制する者は貴族界を制すると言われている帝国では、どこの貴族も夜会に力を入れている。

 屋敷の入口には従者たちと侯爵家の子息令嬢が受付で挨拶をしていた。


 入口の少し先には人だかり……。胸の奥にあった不安が顔を出す。心臓の鼓動が早くなる。

 子息令嬢と和やかに挨拶をしているディット様と……姉のジゼル。


 頭の中では『なんで?』という言葉と、『いつもの事、仕方ない……』という諦めがせめぎ合っている。


 それでも、今日の私はいつもよりも姿も心も大人っぽくなっているんだ。


 私はありったけの勇気を振り絞ってディット様にお声がけをした


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