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【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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帝都の偶然1

 ――夢を視ていた。細部まで鮮明なそれはまるで現実で起きているかのような夢。


 あの自由都市皇国での誘拐事件。私たち全員は結果的に助かった。記憶を失ったけど、誰も失わずに済んだから良かったんだ。


 そう、それが現実。

 今回の夢は現実と沿っている。


 でもね、時折違う夢も沢山視るの。

 平民として生まれた私、ディット様ではない皇子様と婚約している私、ジゼルが存在しない世界、色んな夢を視た。


 セイヤ様はどの夢でも必ず私の前に現れた。この夢は起きたら忘れてしまう。

 それでいいの。私は夢に逃げる必要がない。


 私は――

 ……

 …………


「……んん……、私、寝ちゃってたのかな……?」

 自室の天井が見える。私は手を伸ばして何かを掴もうとしていた。

 胸の上に温かみを感じる。ピピンちゃんを抱いたまま寝てしまっていたんだ。

「夢、見ていたよね……。全然覚えてない。ん、気にしないでいいかな? 道場に行こう」


 レオン様との面談(お茶会?)の後、学園が終わり一度別邸へと帰宅した。


 ベッドの上で少し休んでいたらいつの間にか眠ってしまった。時間はほんの数分しか立っていない。


 侍女のアンリにはこれから道場へ通う事を伝えてる。両親には内緒にして欲しい旨も伝えた。


 自分が好きな事をするためには学生としての、公爵家令嬢としての責任を果たせばいい。学業も実習も両親が満足する結果を出せばいいんだ。


「アンリが怒られないように学園のテストも頑張らないとね。よし、ピピンちゃん、行ってくるね!」

 私は私服に着替えて帝都の街へと出るのであった。


 道場に行く前に行きたかった所がある。


 帝都貴族中央区中央通りにある『カーディス茶屋雑貨店』。


 ちょうどディン師範の道場の通り道。


 別邸から中央通りまではそんなに距離はない。歩いて二十分もかからない。


 この時期だともう少ししたら夕暮れ時になる。他の国は知らないけど、夕日に照らされた帝都はとても綺麗で観光ガイドに載るくらい有名なんだ。


 少し肌寒いけど春の陽気が気持ち良い。


「あっ、ここね。……うん、やっぱり可愛い」


 カーディス茶屋雑貨店の前に着くと感嘆の声が知らずに出ていた。

 可愛いものは正義。


 じっくり外観も見たいけど、この後に道場にいかなければ行けないから早く入らないと。

 お茶屋さんの扉を開けると、花のような甘い香りと香ばしい匂いを全身で受け止める。それだけで私は今日のストレスが吹き飛んでしまった。


 奥の工房でお茶を仕込んでいる。その香りだ。作業している店主らしきおじ様が私に気がついてウィンクをして手をひらひらとさせる。作業する手を止めない。白髪と口ひげがとってもお似合いのおじ様。

 店内を見渡すと可愛い物だらけでため息が出た。


「あっ、このハーブもお茶にできるんだ……。薔薇のお菓子も美味しそう。雑貨も沢山ある……。あれ? この水晶写真ってカーマイン公爵領地?」


 壁に掛けられている水晶写真。魔力でその場を切り取り水晶に保管する特殊な魔法技術。近代魔法研究の成果と言われている。


 そんな水晶写真に映し出されていたのは、カーマイン公爵領の街に『カーディス雑貨店』という看板がかかっているお店が写っていた。


 店主であろうおじ様と……これって第二皇子ルアン様? それにちっちゃいセイヤ様と……うさぎのぬいぐるみ?


 ……頭がはてなマークで一杯になる。


「もきゅ、もきゅっ、もきゅもきゅっ〜。あれれ? その写真が視えるの? それは知り合いしか視えないようにしてるのね」


「……え?」


 振り向くと写真の中にいたうさぎのぬいぐるみさんが歩いていた。周りのお客さんは誰も気にしていない。


「え、ええ?」


「僕の事もわかるんだね。えへへ、ちょっとお昼寝するからまた今度なのね。ばいばいね〜」


「えええっ!」


 うさぎさんは干した人参をかじり、眠そうに目をこすりながらトコトコとお店の奥にある工房へと歩いていく。そして、おじ様に挨拶して奥の扉へと消えてしまった。


 ……えっと、なんだったんだろ? いまうさぎさんが歩いていたよね? もふもふしてたよね?


「お初にお目にかかります。わたくし店主のカーディス・バルバトスと申します。バルバトス卿と呼ぶ方もおりますが、わたしの事はお好きなようにお呼び下さい」


「ふわっ!」


 今度は違う意味で驚いた。気がついたら私のすぐ目の前に店主のおじ様が立っていた。


「……ふむ、これは突然失礼いたしました。お詫びにお茶占いでもいかがですか?」


「お茶占い……気になります。でも、この後道場に行く予定があるのでまた今度でいいですか?」


「もちろんでございます。では、楽しんでご覧になって下さい、ピオネ様」


「え?」


 おじ様は店内の他のお客様の所へと接客へと向かってしまった。


 ……公爵領で会ったことあるのかな? 詳しく聞きたかったけどまた今度にしよう。私の事知ってるような感じだったね……、子供の頃だと思うし、成長して姿が変わってるのにわかるんだ。


 気を取り直して店内を見渡す。


 雑貨の棚には所狭しと髪飾りやブローチ、ネックレスなどの装飾品が置かれている。


 薔薇のブローチが目に入った。とてもかわいらしい作りだけど、ちょっと私には似合わないかな。


 ……薔薇を見ると薔薇会を思い出しちゃう。薔薇会、か。学生が主体で新入生を歡迎する夜会、全生徒が出席し学園の最大規模の夜会。


 ――ちょっと面倒だね……。頭を振って薔薇会の事を追い出す。


「あっ、あっちにお茶がある! すっごく良い匂い……」

 お茶の棚には密封された沢山の種類のお茶が所狭しと並べられている。帝国だけじゃなくて王国、共和国、果ては超大国のお茶まで取り揃えている。


「これオリジナルブレンドなんだ。……うん、今日はこのハーブティーにしよう。……お茶にあうお菓子も必要だよね」


 今度はお菓子の場所へと移動する。


「うわぁ……、すごい、これ全部ここで作ってるのかな? 全部全部可愛いし美味しそう」


 保存が効く焼き菓子を中心にチョコレート菓子や乾燥菓子が沢山並んである。


 ショーケースには生クリームたっぷりの宝石みたいなケーキ達。


 店内に数席あるテーブルではお洒落な私服を着た令嬢たちがケーキとお茶を楽しんでいた。


 印象的な笑顔。美味しい物を食べると優しい気持ちになれるんだよね。


「うぅ……、生ケーキは時間がある時に……、あっ、オレンジチョココンフィだ」


 シロップ漬けをされたオレンジにチョココーティングしたお菓子。

 大好きなお菓子だけど帝国では売っている場所が少ない。


 私はオレンジチョココンフィを手に取る。


「オレンジチョココンフィを買って……あっ、ピピンちゃんにお土産買おうかな」


 再び、雑貨が置いてある棚に移動する。


 色んな種類のアクセサリーは見ているだけでワクワクしてくる。

 価格もお手頃の商品が多い。


「このサクラの花びらの形をした髪飾りはピピンちゃんに似合いそう。うん、これにしよう!」


 髪飾りを手に取った時、奥の棚にひっそりと置かれているブローチが目に入った。


 ――心臓を貫かれたような衝撃が走った。


 

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