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【連載版】そんなに姉が大好きで、私に興味が無いのでしたら私も無関心になりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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努力で全てを乗り越えようとした男3

 

 手の中には灰しか残らない。


 何も感情が沸かない。自分の浅はかさの罰だ。


 そして俺はブローチを取り出す。


 うさぎの形をしたブローチ。特殊な魔道具として仕上がったそれはジゼルにとっても魔法研究の役に立つはずであった。


 ブローチが俺の魔力を吸収してほんのりと朱く光る。綺麗な朱だった。


 大きく息を吸って――それを遠くへ投げ捨てようと決意した。

 だが、


「……何故手から離れない。……もう必要ないんだ。いらないんだ!!」


 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も


 ――投げ捨てようとした。


「なんで捨てられないんだ……。なんで……、愛する人は……他の人を愛しているんだ……」


 どうしても捨てる事も出来ないブローチ。


 知らず知らずのうちに、ピオネさんを想って作ってしまった大切なモノ。これを捨てるのはピピンを投げ捨てるのと一緒だ。


 そんな事俺には出来なかった。


 それでも自分がこれを持つと愛する人を思い出して苦しくなるんだ。


 ……俺の足はカーディスさんのお店へと向かう。


 自分で処分出来なければ誰かを頼るしかない。


 こんな時間では閉店しているはずであったが、明かりが付いていた。


 俺の来訪に驚いたカーディスさんは無にも言わずにブローチを受け取ってくれた。


 ――何も思い残す事が無くなった。


 多分、この時なのだろう。俺の心が心底冷え切ったのは。

 身体の中から妙な言葉が聞こえてきた。


『スキル「感情消去」の取得条件を達成しました。任意の選択で発動できます』


 俺は空を見上げた。

 あれだけ望んでいたスキルの取得。


「ははっ……」


 サクラのように舞い散る雪を見上げる。


 ……ピオネさんを愛する気持ち。この感情が無くなれば――苦しみから解放される。


「もうこんな感情、いらない。……消せばいいんだ」


 恋心が自分を苦しめる。

 この初恋は二度と実らない。


 俺は――次の夜会の後、消そうと心に決めた――


 ***


 帝都公園のベンチ。


 眩しい光により意識が現実へと引き戻される。気がつくと辺りは夕焼けに包まれていた。


「……結局あの時も夜会の後も俺はスキルを使えなかったな」


 ジゼルを信用しようと思った。


 それでも、ジゼルは来てくれなかった。きっと俺にも落ち度がある、そう思いたかった。


 俺のスキルは特定の感情を消す事ができる。恋心や良心、悲しさや喜び、怒りさえも消せる。


 狂戦士としての才能、なのだろうか? これがマシマ家の血筋なのだろうか?


 まさしく戦闘のみに特化したスキルとも言えるだろう。


 スキルを使えば苦しみは消える。


「……違うんだ、この気持ちを壊しては駄目なんだ」


 夜会の後、俺は何度も何度もこの苦しみを消そうと思った。


 感情を消せば思い出さえも色褪せて、やがて全て消えてしまう。それが分かっている。


 ピオネさんとの思い出。俺にとってそれだけが生きる糧なんだから。


 いくら辛い事があったとしても、全部ひっくるめて俺の経験なんだ。


 俺はベンチから立ち上がる。


「ピオネさんは記憶を取り戻した。身体と心は成長したとしても……俺にとって本来のピオネさんが戻ってきたみたいだ。もしも愛情を消していたらピオネさんの性格は激変していたはずだ」


 中等部以降のピオネさんはまさに可憐で儚い令嬢であった。


 何かが欠けていた。彼女はディットに幼い頃から好意を持っていたが、その好意とは違う感じがした。盲目的な恋心。


「スキルで成長をして無駄な感情が消える、か。……いつか調べる必要がある」


 感情消しスキル持ちとしての感覚が訴えかける。


 ピオネさんは感情を消したわけではない。成長した過程で好意を無くなったのか、記憶を取り戻して好意をなくしたのか?


「……浅ましいな、俺は。そんなに喜んでいいのか?」


 ピオネさんの婚約者はディット。


 俺の婚約者はジゼル。


 その事実は変わらない。

 だが――


「自分が動かなければ何も始まらない――」


 身体が熱く燃え盛るようであった。寒さを微塵も感じない。

 吹き荒れるような力が俺の身体の中から湧き上がる。

 スキルになんて頼らない。俺は俺の努力で全ての乗り越える。

 それが、セイヤ・マシマの誓いだ――。



「――俺が全て壊す」



 俺の身体から漏れ出した炎が嵐となって舞い上がる。

 やがてそれは収縮し俺の中で確固たる意志へと変化する。


 それを胸に抱き俺は前に進むのであった。


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