学園の氷の公爵令嬢4
セイヤ様と学食を出ようとした時――
「やあ、君たち。俺は二人と話そうと思っていたんだ。正直、面倒だけどこれも仕事だから仕方ないと、俺は思う。悪いが理事長室まで来てくれないか?」
「レオン様!? ご、ごきげんよう……」
「畏まりました、レオン第三皇子」
突然現れた第三皇子レオン・フィルガルド様。帝国の政を取り仕切りながら皇族の問題を解決する役割を担っている。
その広い知識とバランス感覚の良さと勇気は『帝国の懐刀』と言われている。
ちなみに第五皇子ディット様は『天才魔法研究家の皇子』と言われている。
「相変わらずセイヤ君はクールだね。そのクールさの半分をディットにあげたい、と俺は思う……。ああ、授業に遅れても大丈夫だ。なんなら早退してもいい。ちゃんと先生方には説明しておいた」
そう言いながらも私達に選択の拒否権はない、と言わんばかりの威圧で廊下をどんどんと進む。
そうして、理事長室へと私達は向かうのであった。
「――というわけで、二人とは薔薇会までなるべく接触しないようにしてほしいんだ」
「はぁ……別に構いません」
「そうか……俺も同意する」
レオン様の話はこうだ。
ディット様とジゼルが魔法研究しかしていなく、皇族としての教育が進んでいないとの事、そして、私達婚約者を蔑ろにしすぎているのが目に余ったみたいだ。レオン様は二人をみっちり教育するために『薔薇会』まで待っていて欲しいとの事だ。
レオン様の大きなため息。
「はぁ〜〜、全く……本当ならこの時期はいつも妻と旅行に行けるはずだが仕方ない。大事な若者たちのためだ、と俺は思う」
「あの、話はそれだけですか?」
「まあまて、せっかくだから二人と話したいと思っていたんだ」
そうして、レオン様との会話は小一時間続くのであった。
***
レオン・フィルガルド三十歳、妻を最も愛する男だ。
……俺は第三皇子としてこの国を支えている。敬愛している母親である女帝マリア。
自分の能力が低くても、他者の能力を見抜く力をつけろ、と言われていた。
実際に俺はそっち系の魔法の熟練者だ。
生まれ持ってのスキルは『鑑定』。
帝国で『鑑定』持ちは確認しているだけで二人しかいないレアスキル。
それに合わせて俺は補助系魔法、人心掌握魔法を極めている。
魔力だけでは人を判断しない。スキルだけでは人を判断しない。
魔法とスキルと今までの人生経験により、人を見抜く力がある。
伊達に外務担当していない、と俺は思う。
ディットは確かに魔法の天才的な発想力、膨大な魔力量を持っているが、人格的な問題を抱えている。
いつまで経っても大人として、皇族としての自覚が芽生えない。
帝国貴族総合TIER評価レオン版としてはDランクもいいところだ。
ジゼルは論外。ランク外だ。
俺はAだ、自分を客観視できる事は重要だ。第二皇子であるルアンは……しゃくに触るがSSランクだ。
俺がこの学園の理事長を務めているのも、学生に自分の中で貴族学園TIER評価をつけて、優秀な者を探している。
人材は国の宝だ。未来を担ってくれるんだ。人生なんてたかが100年。次の世代につなげるのが俺の仕事。
……自由都市皇国の化物どもに対抗できる戦力はうちに無い。帝国には女帝マリアと第二皇子ルアン、ディンさんがいるからこそ戦争にならないだけだ。あと俺の外交努力もな。
「ふぅ……、おじさんは少し疲れた……」
一人、理事長室でソファーに深く沈んで深呼吸をする。
ピオネとセイヤ君と無駄話していたのは、彼らを時間をかけて『鑑定』『品定め』するためだった。
机の上に置いてある猫の人形ニャンスケに話しかける。返事が返ってくるわけは無いが、こいつは俺が高等部の頃からずっと一緒にいた友達だ。
妻が初めて俺にプレゼントした思い出の人形だ。
あの時の薔薇会は……おっと、思考が外れてしまったな。
「ディットとジゼルが婚約者を変えて、二人で婚約してもいいと、俺は思っている。それでピオネとセイヤ君が新しく婚約してもいい、とも思っている。本人たちの意志はどうだかわからんが、な」
どっちつかずと言われても仕方ない。
何故なら俺は帝国が最良の道に進むのを優先するだけだ。
「若者の心はわからない……。時代も変わった……」
セイヤ君は『自由都市皇国の落ちこぼれ』と向こうの国で言われている。
魔法原理主義と言っていいほど魔法を重要視する自由都市皇国。
それは魔法という限られた分野の話しだ。帝国は魔法以外の分野も正当に評価する国だ。
「彼は優秀な人材だ」
セイヤ君が落ちこぼれなんてとんでもない。彼は原石だ。しかもこの数日で何があったか知らないが、とんでもなく実力が向上していた。
あの剣神ディンを師事して修行に励んでいるとは聞いていたが、高等部一年生で出せる覇気ではなかった。
「セイヤ君はAに近いBランク」
セイヤ君は自己評価が低すぎる、ということは自分の能力を100%理解していない。よってAから少し落ちる。
そもそも学生の身分で自分の帝国貴族TIER評価に入れられる事態異常な事だ。ディットは性格を差し引いても天才的な魔法の能力がある。
それに、ディットが眼の前にいても、セイヤ君みたいに背中がひりつかない。
「セイヤ君、俺と話していてもどんな時でも瞬時に対応できるようにしていたね? 俺の事いつでも殺せるって感じだった、と俺は思った……。はぁ……怖いね……、しかも文武両道か」
学業の話ではない。もちろん学園の勉強もできるし、冒険者としての知識量も豊富だ。
鑑定はその人の能力だけを見るものじゃない。歴史、称号、スキル、特性等々、色んなものが視えるんだ。
まあフワっとした感じで視えるだけだけどな。
あの称号の数には驚いた。
共和国上級ダンジョン制覇、王国上級ダンジョン制覇、竜殺し、ジャイアント・キリング、心眼、上級アイテム調合習得、上級調理習得、剣術免許皆伝、魔法高耐性、剣術物理系力学――
特性、『炎の覇王』……。
高等冒険者の知識、貴族の嗜み、その全てが上級レベルを超えている。
すぐにでも実践に出せるレベル。
天才的なのは才能ではない。血の滲むような努力と凄まじい経験が彼を形成していた。
今代の帝都の『十の刃』に入ると思う。
魔法が少ししか使えないのにその実力は驚愕に値する。
「というか『炎の覇王』ってなんだ、小さな頃はそんなの無かっただろ。……。誰もそんな特性持ってないぞ。はぁ、若い頃のディンさんみたいだ、と俺は思う。だが、それ以上にピオネの変わりようにもっと驚いた……、いや、戻ったと言うべきか?」
スキル『成長』という特殊な手段で成長を遂げたピオネ。
極めて特殊なスキルだが、世界で事例が無いわけではない。
幼い頃は才能の塊だった。内向的な本人の性格によってほとんどの人は知らなかったと思うが……。
彼女は魔力が強すぎて逆にうまく使えなかったんだ。身体が勝手にセーブして魔法が使えないようにしていたんだ。
それに、あの事故があって記憶も失ってしまって……。
どんな方法にせよ、記憶が戻って良かったと俺は思う。
ヤブ医者のウォーロックではなく、ちゃんとした医者の問診を聞いたらせいぜい3年程度の成長具合だったらしい。
子供の三年というのは大きいが、まあ見当が付く範囲内だ。
が、ピオネは違った。
何かの『枷』が外れたかのような強大な魔力。三年では計算が合わない力。
本人は自覚していないが身体能力も以前とは段違いだ。
何よりも――俺の『鑑定』で何も視えなかったんだ。おじさんちょっとショックだな……。
「他人が乗り移ってるわけじゃない。……ループ? それも違う。ループはこの世界では女神によって禁止されている。まあいいか、何にせよ、有望な若者たちだ」
ピオネはランク不明だ。よく見定める必要がある。
「……下級魔法が超上級魔法を超える、か」
魔法修練所での出来事。俺の部下からの報告。
防犯水晶レンズから確認した。
確かに驚くべき威力だが、重要なのはそこではない。
魔法術式の異常なまでの展開速度、高威力の魔法の反動に耐えられる身体。
無詠唱に近いそれは伝説の中でしか存在しない。
俺はまたため息を吐いた。
「……大人の事情は大人が対処する、か。……誰を婚約者にするにしろ、若者らしく恋をして欲しいものだ。貴族のしがらみ、皇子のとしての責務、様々な苦労もあるが、今しかない青春楽しんでくれ、と俺は思う。なあ、ニャンスケ。俺達も青春したからだ」
レオン・フィルガルド三十歳。来月の三十一歳の誕生日は妻が祝ってくれるのを楽しみにしている。
机の上に置いてあるニャンスケを持ち上げて懐かしい青春の思い出を振り返るのであった。




