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第5話 伏魔殿・『サロン』に至る

 そうこうしているうちに、西棟最上階に至る階段まで来た。

 このフロアには来た事がない。サロンの他に、先生達が使う会議室とか、資料室がある、と以前図面で見た。



「ここを上がれば、すぐの部屋がサロンだよ。どう? 心の準備は」



 リチャードが少しだけいじわるそうな笑みを浮かべて私に聞いてくる。

 私は、リチャードがそういう言い方をしてくるのが意外で、それが寧ろ可愛くて、思わずにやけてしまった。



「準備は、うん、出来てるわ」

「じゃ、行こう」



 リチャードが先にフロアに上がった。私も少し遅れて、階段の最後まで上がっていく。

 見えてきたフロア。横一線、廊下の真ん中に、赤い絨毯が敷いてある。

 もちろんここ以外の所で、こんな豪勢で贅沢な仕様はない。



「あらリチャード様。今日はお連れ様とご一緒ですか?」



 目線が床に落ちていたわたしは、その澄んだ女性の声に、飛び上がりそうな程びっくりした。

 声の方向を見ると、実用というより装飾の多いメイド服を着た女性が二人、大きな扉の前に立っていて、その手前側の女性が声を出したようだ。



「やあリリー。今日は僕の先生と一緒に来たんだ」

「先生?」



 リチャードの言葉に、リリーと呼ばれたメイドさんが私のことを目をよく開いて見てくる。



「あ、あの、先生って言っても、り、リチャードの苦手分野の克服のために、そ、その」

「教えてくれる友達がいるのは、とても良いことでございますね、リチャード様。お嬢様、お名前をお伺いしても?」

「あ、アンルィと申します!」



 き、緊張する……!

 メイドさんなんて、遠くに眺めたことはあってもこの距離で話したことなんてない、しかも名前を聞かれたっ!

 ま、まだサロンに入ってもいない、それに噂のメイド長さんに会ったわけでもないのに、こ、この緊張……



「アンルィ、緊張しなくて大丈夫だよ。リリーたちメイドさんは、僕たちのお世話をしてくれるだけだから。怖いことは何もないよ」

「そ、そうだけど、でもわたし、め、メイドさんなんて今まで出会ったこと無いから、見た事はあるけど、でもやっぱり目の前にすると」

「あはは、まぁ、そうか、そうだよね。ねぇリリー、緊張のほぐれるハーブティーなんてあったりする? アンルィにはそれを、僕にはいつものを。アフタヌーンティーで頼みたい」

「かしこまりました、リチャード様。それではどうぞお入りください」



 メイドのリリーさんがペコリと頭を下げ、すぐに向こう側にいる対のメイドさんとタイミングを合わせて、大きな扉を開いた。



「さあ、中に入ろう、アンルィ」

「う、うん!」



 自分の中に、明らかに要らない力みがあるのが分かる。メイドさんだけでなく、サロン入口の扉もまた別格の代物だ。

 明らかに手が掛かった彫刻の入った、重厚感のある色合いの木の扉。扉の取っ手の上には、金属の鳥が乗っていた。

 リチャードは、頭を下げたままのメイドさんたちの前を、さも自然に通り越して、サロンの開かれた入り口の前に立つ。

 私も急いで、リチャードに駆け寄った。リチャードが中を見ているので、私も視線を移したが……



「す、すごい……」



 目に映ったサロンの中は、まるで美術館の様に思えた。

 右手の壁に大きな、とても大きな絵画が飾られ、いくつもあるほとんどが窓向きのソファーの、それぞれの近くにも、小さな額入りの絵が飾られている。


 青の強い紫の絨毯が部屋全体に敷かれ、それもまた様々な幾何学模様が描かれ、絨毯であるのに巨大な絵画の様だ。

 サロンの中心には、見るからに良い石で出来ている白い丸柱があるが、これも天井近くには女神なのか女神をたたえる女性なのか、裸婦の胸から上の像が掘られている。


 と、一人の小柄なメイドさんが、私たちの方へと向かってくる。

 その微笑みは自然で、こちらさえ和ませてくれる様な瞳と顔つきだった。



「リチャード様、サロンへようこそ。お連れ様のアンルィ様も、ここでのいっときをごゆっくりお過ごしください」

「やあ、ローズ。アンルィは外で名乗っただけなのに、あの分厚い扉でもここまで聞こえるものなの?」

「いえ、耳で聞いている訳ではございません、リチャード様。簡単な魔法で、情報のやりとりをしているのです」



 リリー、ローズ……ここのメイドさんは、花の名前が付けられているのか。

 この小さ可愛い子がローズなんて、ちょっと大仰な気もするけど……



「アンルィ。ローズはここの仕切り役、メイド長さんなんだ。ローズに言えば、大概の無理も実現してくれるよ」

「まぁリチャード様ったら。私たちで出来る無理の範囲に留めて置いて下さいましね。それで今日はどんなご無理を?」



 リチャードの言葉を受けて、談笑、という感じで言葉が行き来する。



「今の時間からだけど、アフタヌーンティーでお茶を楽しみたい。けれど夕飯に響くのも良くないから、目でも味でも楽しめるけど重くないものが良い」

「かしこまりました。ご用意致しますね。お席はいつものお席ですか? それとも、向かい合いのお席をご用意しますか?」

「うーん、僕のお気に入りの景色をアンルィに一緒に見て欲しいから、席はいつもの、森側のソファーで。あとアンルィに、リラックス出来そうなハーブティーを、ってさっきリリーが言ってたけど、そういうのってあるの?」

「ええ、ございますよ。こちらは急ぎでお出ししますね。リチャード様のお茶が少し遅れますが、ご容赦ください」



 小柄で小動物系な、上品でかわいい系のメイドさん。と思ってたら、メイド長。

 つまり、この人物が、あの噂の公爵家でおつとめの、超敏腕メイド。そして私たちのここでの素行の監視役……



「アンルィ様。初めての場所ですし、ご緊張なさるお気持ちはお察ししますが、リチャード様はよく来られている場所です。あなたもどうぞ、リラックスなさって下さい」

「は、はぁ……」



 リラックス出来ないのは、もちろんこのサロンの圧倒的豪華絢爛さに押されてるのもあるけれど、リラックスを促すあなたに緊張しているのに。

 と、ローズと呼ばれたメイド長さんが、不意にクスッと、口に手をやりつつ笑った。目もしっかり笑っている、うん、間違いなく笑っている。



「なんだか私に緊張されてるみたいですね。サロンのメイド長と言っても、和気あいあいとしたものですよ?」

「いやそこで無くて……」



 つい。そう答えてしまった。

 答えた後で、じゃどこなんだという問いが来たらと考えたら、冷や汗がにじむのを感じた。



「あらあら、そんなに固まってしまって。怖がられちゃってるみたいなので、私は下がりますね。お二人のお世話は、他の者に」

「分かった。じゃアンルィ、僕のいつもの席はあそこの……アンルィ? 大丈夫かい?」

「あ、う……ん。大丈夫、だと思う。えっと……サロンって、椅子じゃなくて全部ソファーなの?」

「椅子も用意してもらえるけど、基本的にソファーだね。さ、行こう。こっちだよ」



 リチャードがわたしの顔にニコッと笑みを投げつつ、サロンの奥へと進んでいく。

 左側に、バーカウンターの様な、大理石作りのテーブルはある。そのカウンターの中に、3人のメイドさんたちが立っていた。


 皆、自然に見える微笑みをたたえて、動かない。

 悪い言い方だが、何だかそういう人形か何かの様にすら思えてしまう。

 あまり見ない様にしながら、リチャードの背中を追った。

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