第1話 リチャード到着待ちのある日の朝
初めまして! あるいはお世話になっておりますm(__)m 夢ノ庵です。
今回の作品は、全体で10~20話程度の、そこそこ軽い作品になる予定です。
初日は3投稿、翌日2投稿、以降は流れで投稿していきます。
次の更新は本日正午になります。よろしくお願いします。
リチャード、まだ来ないのかなぁ……
いつもだったら、もうちょっと、うーん、10分は早く、教室に来るのに。
「あれアンルィ、今日も王子様待ち? ずっと教室の入口、じとっとにらみつけちゃって」
「えっ、わ、わたしそんな、にらんでる?」
言われて初めて、自分があまりに教室のドアを凝視していた事に気付けた。少し焦る。
ちょっと意地悪な笑みをこちらに向けてるリカ。わたしの返答・反応待ちって感じ。
「リ、リチャードは別に、その、わたしの、お、王子様なんてことはないわけだし……」
「あれ? あたしリチャードの話、した? それに『アンルィの王子様』なんて、一言も言ってないよ?
ねぇもうさ、いっそ、それだけ意識してるんなら勇気出してさ、バーンって告白したら?」
リカはわたしの事を少しからかう様に言葉を投げ込んできた。
リカは、そういう性格だ。
わたしと違って、思ったら行動に出るのが早い。
その点わたしは……あーあ、その部分はリカのことがうらやましいって思う。
わたしにとって、告白なんて人生最大の大ごとだし、リカに言われなくたって、リチャードが誰かに取られちゃう前に……って思う。
けどこればっかりは。
わたしばっかり盛り上がって、告白して……
『……ごめん、アンルィ……』
ダメっ!! それはすっごく嫌っ!!
それは本当に、どうしても勘弁して欲しい……
今は、クラスメイトとして、友達って関係で、いつもちょっと緊張はするけど、話せる。
それに授業も一緒だから、勉強教えて、なんて口実で二人きりになったりも出来る。その時は図書館が多いからお話しはあんまり出来ないけれど。
もし告白してそれが失敗に終わったら、きっと気まずくなって、リチャードはわたしから遠ざかる。
今の関係が、一番良い。
きっと、そう。そう信じたい。
少し遠くから、あのキラキラ輝く金髪を眺めて、たまにお話しする。その位で、満足しなくちゃ。
「おはようアンルィ」
「ひゃあ?!」
突然背中にリチャードの声を聞いた。思わず腰が浮いてしまった。
「おっとごめん。そんなに驚くとは思ってなかった」
「あ、う、うん。おはよう、リチャード。今日も御機嫌いかがですか」
「はは、まぁ僕は朝は強いから、いつもだけど朝の調子は良いよ」
少し苦笑い気味に答えてくれるリチャード。
御機嫌いかがなんて、そんな話がしたい訳じゃない。
けれど、リチャード本人を目の前にすると、思わず、淑女でなくっちゃ、って……身体が喉が、勝手に反応してしまう。
それで、いつも朝のあいさつは、御機嫌いかがですか。
直したいんだけどなぁ。
つい緊張しちゃって上手く行かない。
「ところでアンルィ、昨日も勉強見てくれてありがとう。少しだけど理解出来たよ」
「お礼なんて……あ、でもあの部分は、魔法陣学だと引っかかりやすいって聞くから、リチャード頑張ったよ!」
「そう? 僕はどうも座学は苦手だから。魔法陣使うなら、即その場で展開して、どーんと魔法使えば良いじゃん、って思っちゃうよ」
リチャードにとって、魔法陣学は難しいようで、かなり初歩にロールバックして、少し前から教えてあげてる。
苦手意識が先行しちゃって出来ないタイプみたいで、最初の方にあった最初の理論のつまづきを解消出来たら、基礎レベルまで一気に理解が進みつつある。
あそこまで理解が進めば、後はそれこそ自学自習でも、今の授業に追いつけるだろうと思う。
はぁ……わたしが教えてあげられる教科、減っていくなぁ。
2人になる口実が、どんどん無くなっちゃう……。
「アンルィ? 何だか気が重そうだけど、どうかした?」
「ん? ううん、んー、リチャードがどんどん勉強出来てくから、わたしの役目も終わっちゃうなぁって」
「はは、そうかな? 多分その日は来ないよ、授業聞いても、僕、理解してないから」
「えっ? そうなの? いつも真面目そうに黒板睨んでるけど……」
「分からないから睨むんだよ。テストの点は取れなくても、評価点の方は、家の都合もあって是非欲しいから、寝る訳にいかない。結果ああなったのさ、睨んでるうちは眠気も来ないからね」
あー……凄く真面目そうに黒板にらめっこしてたのって、眠気対策だったんだ。
評価点。そうよね、リチャードは男爵家の次男だから、成績が悪いと家の世間体の問題もあるだろうし。
成績が取れないのなら、先生からの評価点を上げる、と。うん、次善策としては、良い線行ってると思う。
「リチャード、ひょっとしてだけど、他の教科も……もしかして、あんまり点取れてない?」
「う、うん……正直に言うとね。魔法陣学ほど訳分からないって程じゃないけれど、点数は低いね」
はっ。
不意にリチャードが言った『他の教科も点数低い』発言に、わたしは自分の頭に、まばゆい光が満ちたのを感じた。
成績上がらなくて困ってる人に、この感情って。
わたしって性悪なのかなぁ、そうはありたくないんだけど……
「魔法陣学は、もう少しで留年ラインが見えるところだったんだ。アンルィがとても丁寧に教えてくれて、本当に助かったんだ」
「リチャードさえ良ければ、他の教科も教えてあげられるけど……」
「おおっ。いや、でもそれはさすがに……アンルィの負担にならないかい? 頻回に図書室に引き留めては、アンルィが友達と遊ぶ時間すら……」
「んー、そこは上手いことやるから気にしなくて良いよ。もちろんわたしの教えられる範囲はせいぜい中の上までだから、その範囲で良ければ」
「それは正直助かるよ! いつか必ずお礼はさせてもらう。今は僕の成績の為に、アンルィ、助けて欲しい!」
リチャードがその両手を、端正で小顔な、その愛おしい顔の前でパンと合わせた。目はぎゅっとつむっている。
わたしは思い切り動揺した。思わず大きくのけぞった。
けれどリチャードは目を閉じていたので、それを見られることは無かった……ように思う。
「う、うん! そしたら、週3か4でしっかり詰め込もっか。少しキツいかも知れないけど、分かる様になれば、後は楽だから」
息が弾む。声が裏返りそうになった。なんとか理性で抑え込んだ。
目をゆっくり開けたリチャードは、その良い色の唇を開き気味にしながら、少し乾いた小さな笑いの後で言った。
「週3、4で『勉強』か……考えるだけでも眠くなってくるな。アンルィ、僕が寝ていたら叩いてでも起こしてくれ」
「ふふ、叩かないけど、課題は積み増そうかな」
「うぐっ」
リチャード相手に少し上から話が出来たのは、ちょっとだけ気持ちが良かった。
と思っていたら、リチャードの背後でリカが口に手を当ててニマニマしてる。
わたしは。
あくまでリチャードに『勉強』を教えるの。
『もしかする』チャンスなんて……貴族様相手に、そう上手くは行かないわよ。
今にも吹き出しそうな顔をしてるリカに、リチャードには気付かれない様にジロリと睨みの視線を一瞬だけ送ったら、駆けて教室から逃げていった。
うん。
これでわたしは、放課後の少しの間、リチャードを独占出来ることになった。
眺める事ばっかりに集中しない様にしないと……勉強を教えるのが口実……じゃなくて、目的だからね!
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