5.それからとこれから
「ご主人様、メナール様がいらっしゃいました」
「おう、ご苦労さん」
「あぁ。いや、今回苦労したのはお前の方みたいだな」
「苦労にそっちもこっちもあるかよ」
「だが、他者のルミネイト化に深度3のルミネイトだろう?まさか俺のいない間にそんな事件が起こるなんて……」
「見たかったか?深度3。頑丈だぜ、文字通り“刃”が立たねえ」
「よく倒せたな。お前ひとりで倒したっていうじゃないか」
「火力の勝利だよ。何件も続いたせいで警戒もしてたしな。ま、座れよ……なに飲む?」
「そうだな……。酒はあるか?」
「ルネ、“恋鴉”開けてくれ。あと油揚げ、焼いて醤油とトウガラシな」
「………彼女、少し変わったか?成長したのかな」
「ジェブラーニの方の報告書は、まだ読んでないのか」
「?先に起きた事件の方だな。概要しか聞いていない」
「………ま、色々あってな。ここの泊まりになったから。あと、お前の養子にはさせん」
「………そうか。じゃあ、あれは本当に叙爵の打診だったんだな。期待するなとも言われたが」
「お前が貴族に?大所帯が仇になったな。体裁を保つために、減った分をそろえようと声をかけまくってるんだろう」
「国都から視察が来るって話だな。さすがに大事になったな」
「コトは“他者のルミネイト化”“聖唱の改変”だからな。神聖協会のブラックボックスかもしれないとなれば、直接足を運ぶだろうさ」
「ふむ……。正直な所、どこまでわかってるんだ?変えた聖唱だけでは変化しないそうじゃないか」
「仕掛けが必要だって言ってたらしいな。実際、ベルナデットの家のキッチンにも出入りしてたらしいし、持ち物の中に妙な粉末があったらしい」
「大丈夫なのか?それは」
「厳重保管で俺も見てない。けど、それだけなら問題ないだろう。食事に混ぜられたなら来客含め、かなりの人数が口にしてる。だが異変が起きたのはあくまで聖唱を聞いた奴らだけだし………大勢に掛けるには必要な、あくまで“準備”って事じゃないか?」
「大勢……。スラムで兵士達がルミネイト化した時はどうだ?まとまって食事でも取ってたのか?」
「いや、これは俺の推測だが………ビスタ、お前スラムに行った事は?」
「あるぞ」
「あそこで妙な匂いがしたとして、わかるか?」
「無理だな。そもそもが匂いのきつい所だ。………撒いたっていうのか?」
「あるいは香のように焼いた、とか。そんな風に使えるなら、だけどな」
「そんな知識が……。その粉末、犯人である少年が用意出来たと思うか?」
「…………材料次第、ではあるか」
「客に貴族がいたのだろう?なら、そっちかもな」
「“英雄の弟子”を話のタネにしたのも貴族サマだしな。ありえなくないが、なんかひっかかるというか………」
「英雄の弟子と言えば。クレアはいないのか?」
「あぁ、修行に出してる」
「修行?…って、まさか“ドージョー”か」
「あいつ、剣より棒術の方が性に合うらしい。俺じゃ教えられないし、強くなりたいって言ってたからな」
「そうか…。しかし教練を受けて一年も経ってないだろう?しかもその前はただの農民だ。思い切った事をしたな」
「なに、元は農民だからこそなんとかなるだろうさ。貴族の御子息サマや、学生気分の抜けきってなかった俺よりも、よっぽど早く成果を得るだろうぜ」
「ぬぅ…。とはいえ一年、あるいは二年は戻ってこないだろう?」
「二年くらいじゃないか?……なんだ、見合いか?一歳二歳いいじゃねえか。だいたいこっちの婚期ってのは……」
「いや、……うぅむ。俺にはどっちがいいかわからんな。お前はどう思う?」
「なにがだよ」
「あぁ、そうか。今回の巡回でな、また襲われた村があった」
「……同じ手口か?」
「そうだ。エクシードのためだろうな、生存者はいない。これだけ続けば調査も本格的になるし、派兵も遠くないだろう」
「手掛かりが掴め次第……か。エピシア卿も厄介事を抱えまくったな。知ってるか?ルミネイト化、他の街でも数が増えてるらしい」
「なに?関連があると?」
「わからん。まったくの無関係って事はないだろうが、結びつけるってほどでもないかもな。でもまぁ、なんかひっかかるってのは確かだよ」
「ルミネイト化に村の襲撃、国都からの視察か。これはクレアの心配をしている余裕はないな」
「だから言ったろ?苦労にそっちもこっちもねえって」