2-4 オカマバーで学ぶ
独特の雰囲気に包まれる中、委員長に苦手の数学を教えてもらう、
京さんは一つ後ろのソファー席で横になって寝てしまった。
「そうそう、だんだん出来るようになってきたわね」
「うん、ありがとう」
違う環境で学習すると頭に入ることがある、テレビか何かで聞いたことがあったが、あながちウソではないようだ。
ほんのちょっとだけ、勉強が好きになったかもしれない。
「さぁさ、みんなでお昼にしましょ!」
「おっ!待ってました!」
勉強もひと段落し、時計の針も重なろうとしたころ、カウンターからアイリスさんが4人分の食事を運んできてくれた。
良い匂いが空腹に刺さる。
「あの、私お財布もって来てませんけど」
「わたしも・・・」
「いいのよ~!遠慮しないで食べて頂戴!大勢でお昼なんていつぶりかしら」
目の前に並べられたのは鮮やかな2色のおにぎりとお味噌汁、メインには目を引く豚の角煮、副菜にポテトサラダと小皿のお漬物、
お店で出すメニューの一部なのかもしれないが、薄暗い店内の中どれも輝いている。
「あ、ありがとうございます」
「美味しそう」
「アイリスちゃんの飯うまいんだぜ!」
「それじゃ、遠慮なく」
「いただきます」
「どうぞ~、食べて食べて!」
普段ならいつものルーチンで、特に何も考えることなく出された給食を食べている時間のはずなのに、
わたしの舌も胃も、予想外の味に驚きを隠せない。
「とっても、美味しいです」
「なぁ!うめぇだろ!」
京さんもアイリスさんもニコニコしてわたしたちの反応を喜んでくれる、
わたしも委員長も、垂れ下がる目尻を隠せなかった。
こんなに楽しい食事はいったいいつぶりだろう・・・
いや、わたしが普段の食事を当たり前に考えていて、有難みを失っていたせいも大きいのだろう・・・
「アイリスさんって、京さんの知り合いなんですか?」
「まさか!ここにお酒飲みに来てるんじゃないでしょうね!」
「ちげーよ!」
「あたしの母親は昔からここの地下のスナックで働いてんだよ、それで仕事が終わるまでよくここで待たせてもらってたんだよ」
「小さい子にスナックはあまりいい環境じゃないかね」
オカマバーはいい環境なのだろうか・・・
「小さい頃の叶子ちゃん可愛かったのよ~!ここのお客さんたちのアイドルだったのよ~!もちろん今でも可愛いわよ!」
「余計な事言うなっ!」
意外だった、
いつもの強気な京さんが、ほんのり赤くなって照れていた。
アイリスさんの言う通り、可愛い。
・・・
「京さんのお母さんが働いてるビルだったんだ」
「だからこの辺の地理に詳しいのね」
「あたしの母親はな、小さい頃どっか行っちまった親父の借金返すために昼も夜も働いてくれてんだ、あたしを育てながらな」
「・・・そうなんだ」
「・・・」
二人とも相槌を打つのがやっとだった、
こんなに話をするまでは、好き放題生きてるな~って思ってた。
本当に申し訳なかった。
そのような家庭環境だったから、京さんは擦れた性格になってしまったのかな・・・
「かっこいいだろ!あたしの自慢の母親だっ!」
ああ、また偏見で人を見てしまった・・・
お父さんが借金を残してお母さんと京さんに苦労をかけている。
なんて可哀想な運命の親子なんだと思ってしまった。
でも京さんはそんなことちっとも思っていない、むしろそんな状況でもがんばっているお母さんを誇りに思っている、
辛い話ではなく、楽しい話だったんだ。