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2-2 エスケープ


「ここはね、さっきの数式を使ってね」

「・・・あ、あの、すみません、もう一度お願いします、」

「大丈夫?ここがわからないと先に進めないわよ」

「ご、ごめんなさい、」


委員長は先生よりもずっと丁寧に教えてくれている。

それでも、初歩の初歩のような部分なのに、わたしは何度も何度もつまづいてしまう。

同じ数字を5回も、10回も見ていると、次第に目に涙が溢れてきてしまった。


「ご、ごめんなさい、ゆっくりでいいから」

「おいおい!もっと優しく教えてやれよ」

「ち、違うんです・・・」


わたしの涙を見て、委員長は何も悪くないのに謝ってくれる、

京さんはわたしの味方になってくれる、

とりあえず、なんとか、委員長のせいではない事だけでも伝えなければ・・・


「こ、こんなのもわからない・・・自分が・・・情けなくて・・・」

「そんなことないわよ・・・」


「わたし・・・何もできなくて・・・勉強も・・・運動も・・・でも、みんなに迷惑かけないように、ついていくのだけで精一杯で・・・」

「・・・」


少しだけ話すつもりだったのに、言葉とともにとめどなく涙が押し寄せてくる。

でるな、もうでるな涙、

そう思えば思う程、裏腹に体は反応してしまう。


それでも二人とも、黙ったままわたしなんかの嘆きを聞いてくれていた。

話を聞いてもらえることだけでも、ありがたかった。


「・・・二人が、羨ましい・・・」

「羨ましい?」


「委員長は勉強も凄くできるし、しっかりしてるし、先生や周りからの信頼も厚くて立派で・・・」

「・・・」

「京さんは運動神経が良くて、自分の考えをはっきり言えて、どんな人も恐れないくらい強くて・・・」

「・・・」


「あたしゃそんな大層なもんじゃねぇよ・・・」

「私も、そんなに立派な人間じゃない・・・」

ほんの一瞬だけど、二人の顔が暗くなったのを感じてしまった、


「おまえだってスゲェよ、周りの事ばっかり考えて、泣くほど努力してるじゃねぇか・・・あたしにはとても真似できねぇよ」

すかさず京さんがフォローをしてくれるが、いわれのない沈黙が、わたしたちを包んでしまった、

やっぱりこの季節の廊下は、まだ冷える。


・・・


「もっとちゃんとした所で勉強しようぜ!」

「え?」

「図書室でも行くの?勝手にどっか行ったらまた怒られるわよ」

「どうせ怒られんだから構わねぇだろ!」


沈黙を破るような明るい声が響くと、京さんは半ば強引にわたしと委員長の手を引いて歩きだしてしまった。


・・・


「ちょっと!どこ行くのよ!図書室は3階でしょ」

「こっちは、昇降口・・・」

「ほら!早く靴履き替えろ!」

「まさか!?学校抜け出す気!?」

「!?」


授業中に黙って学校を抜け出す何て考えもしなかった、

委員長にとっては尚更のことだろう。

ガランとした昇降口で、3人の声だけが響き渡る。


「本当に怒られるわよ!」

「いいじゃねぇか、怒られるくらい」


いいじゃねぇか・・・わたしは怒られないように取り繕うのがやっとなのに、

この人にとっては、怒られる事なんて大したことでじゃないんだ。

やっぱり、羨ましい、・・・憧れてしまう、


「じゃあ、あたしが抜け出そうとしたから二人で追いかけましたって言え!それなら問題ねぇ!」

「問題よ!ねぇ、姫野さん」


「・・・わたしも、一緒に怒られます、だから一緒に抜け出してみたい」

「姫野さん!?」

「今まで、怒られないように頑張っても、怒られた・・・だったら初めから怒られるってわかってた方が、怖くない・・・かも」

「はははっ、いいなそれ!っしゃ!一緒に行こうぜ!姫野!」

「はいっ!」


ちょっとだけ、京さんの真似をしてみたかった。

もちろん怒られるのは嫌だし気が滅入るけど、少しだけ・・・自分を変えられるのではないかと思った。


絶対、いい方法ではないのはわかっている。

わかっていても、頭や体が勝手に動くということが、たまにある。


「おまえも来いよ!一緒に立たされた仲じゃねぇか!」

「私は行くわけないでしょ!」

「ふふ~ん、抜け出そうとしたあたしらを注意しないで見逃したら、それはそれで委員長として問題なんじゃねぇのか~?」


外靴に履き替えた京さんは、両腕を腰に当て、下から見上げるようなに体制で委員長の顔をニヤニヤと見つめた、

当然、委員長は困惑した顔が隠せない。


「じゃあな~、行こうぜ姫野!」

「は、はい、」


京さんに手を引かれ、人気のない昇降口を小走りで駆け抜ける。

みつかったらどうしよう、絶対怒られる、わかっていても動悸が止まらなかった。

なのに、同じくらいワクワクの動悸も発動している。


「ま!待ちなさい!」

慌てて靴を履き替える委員長、

もうしょうがないという焦りの表情を携え、わたしたちを追いかけてきてくれた。

左足のかかとも踏んだままに。


初めて、委員長の眉毛が動いた気がした。


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