1-2 まぐれの1点
「っしゃ!あたしから行くぞ~!」
「お、お願いします、」
体育館の一番隅っこに二人で陣取ると、京さん合図でラリーを始めた。
もう一緒にやるしかない流れになってしまった。
ペアになって練習を始めたはいいものの、持ち前の運動神経の悪さがそう簡単にラリーを続かせない、
大体の人ならスムーズに返せそうなシャトルも、わたしには一つ返すのがやっとの軌道なのだ。
またラケットが空を切る。
「あっ、また、ごめんなさい、」
「わりーわりー!変なとこ打った!」
「ごめんなさい、わたし、下手クソで・・・」
「気にすんな!ほら!次行くぞ!」
「は、はい!」
わたしが何度ミスして、スカして、明後日の方向にシャトルを飛ばしても、京さんは絶やさず笑顔を向けてくれる。
・・・
練習もほどなくして、休憩時間に入る。
いつもは隅っこで小さく座っているのはずなのに、今は隣には京さんがいてくれる。
あぐらをかいてドカッと、
「あ~!あっち~な!」
「・・・」
わたしよりも汗をかいて疲れている、
そりゃそうだ、わたしの明後日の方向へのショットを何度も必死に拾おうとしてくれたのだから・・・
「ど、どうして、わたしと組んでくれたんですか?」
「ん?あたしとじゃ嫌だったか?」
「い、いえ、全然、すごく、嬉しかったです・・・すごく」
「はははっ!じゃ良かった!」
「わたしなんかと組んだら、試合に負けて京さんの成績まで悪くなってしまいます、」
「あぁ?んな事どーでもいいわ!成績なんて興味ね~し」
「でも・・・」
「どうせバックレようと思ってたとこだしな!」
「え、」
「おまえが持ってるそのラケット、ガットが少し切れてるしフレームも曲がってるじゃねぇか」
「これは・・・たまたま手に取ったのが」
「おまえ、いっつもそうだろ、共有物を使う時は一番ぼろい奴を自ら使う、給食の時も一番小さいおかずを取るようにしてる、掃除のときは一番汚れる役を率先してやってる」
「・・・」
見ていたんだ、
この人は見ていてくれてたんだ、
誰かに褒めてもらいたいというわけではなかった。
ただ、「おまえがやれよ~!」なんてみんなに言われて、一番弱っちいわたしに押し付けられる位なら、率先して貧乏くじを引いた方がずっと気が楽だ、
そんなネガティブ思考の結果なだけなのに・・・
「おまえのそういう行動力のあるところ、嫌いじゃないぜ!」
「あ、ありがとう・・・」
まさか、わたしの存在になんて微塵も興味がなさそうなこの人が褒めてくれるなんて思いもしなかった。
自分の偏見の愚かさが恥ずかしい。
・・・
練習の後、他のペアと3回ほど試合をした。
結果はわかっていた通りの全敗、
ほとんどがわたしの絡んだプレーの失点のせいで。
でも、点を取っても取られても、京さんはずっと笑ってくれた。
京さんのフォローもあり、わたしも1点だけ取ることが出来た。
もちろん狙って取れた訳ではない。
力のないショットが、たまたまラインギリギリに入っただけのまぐれの1点だ。
その時、京さんは大声で「ナイス姫野!」と言ってくれた、
わたしはこの1点を一生忘れることはないと思う。