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第62.5話 川咲日向は生徒会長と遭遇する

「でさ、授業中に教室の扉がバーンって開いたと思ったら昴先輩が出てきてさー! しかもタンクトップ姿で!」

「う、うん……?」

「それでそれで、なにするのかと思ったら先生と急にダンスバトルを始めて! どっちもキレキレでさー! もうクラスは大爆笑!」

「あ、あのー……日向?」

「うぇ?」

「なんの話だっけ……?」

「え? だから昨日見た夢の話!」


 朝の登校時、志乃と合流したあたしは学校に向かいながら昨夜見た夢の話をしていた。


 天気は快晴で朝からすごく気持ちがいい。

 こんな日に運動したら最高だろうな~!


 やっぱり季節で一番好きなのは夏!


 これは譲れない!

 

「タンクトップ姿の昴さんが……? 授業中に先生とダンスバトル……? しかもキレキレ……?」

「そう!! ほんっとに面白くて! なんか昴さんなら現実でもやりそうじゃない?」

「いや流石にそれは…………否定できないかも」

「でしょー!?」


 面白い夢だったなぁ……。

 タンクトップ姿でキメ顔をする昴先輩……。


 実際にやりかねないから余計に面白い。


 これはぜひ本人に話さないと……!


「そういえば……」


 私の夢の話に戸惑っていた志乃が思い出したように話し始める。


 あたしは「んー?」と志乃の話に耳を傾けた。


「その昴さんたち、今日帰ってくるね」


 その発言に私はハッと目を見開く。


「そう! やっと司先輩と会えるな〜! 長かったよ……」

「長いって……たったの三日だよ?」

 

 呆れたように言う志乃に、あたしは「やれやれ」とため息をつく。

 

 あーもうダメだね。

 この子はなんにも分かってない!


「もー! 何回言わせるの? 好きな人と一日でも会えないと寂しいものなの!」

「それは……うーん、そうかもだけど……」

「でしょでしょ? 何時くらいに帰ってくるんだろうなぁ」

「そこまでは聞いてなかったかなぁ」


 やっぱり夕方くらいなのかな。


 だとしたら、あたしは部活だし……。

 え、それって今日は会えないってこと!?


 やだやだ! そんなのやだ!


 部活中コッソリ抜け出すって手は……流石に無理だなぁ。バレたら間違いなく怒られるし……。

 

 新入生のくせにそんなことしたら試合で使ってもらえないよ……それは困る!


 会いたいけど、会えない。


 そんなモヤモヤに悩まされていると――


「おや? キミたちは……」


 前方から聞こえてきたその声。


 曲がり角から姿を現した女の人が、首をかしげてあたしたちを見ていた。

 先ほどの声の主はこの人だろう。


 あたしたちは立ち止まり、目の前に立つ女の人をジッと見る。


 あたしたちと同じ制服。

 背が高い。

 スタイルが……めっちゃいい。

 美人。


 女のあたしでも思わず見惚れてしまうようなその人は――


「って、えぇ!? 生徒会長さん!?」

「わわ……! ビックリしました……!」


 あたしたちは同時に驚いた声をあげる。


 声をかけてきた人は、間違いなく生徒会長さんだった。

 学校でも有名人だし、よく集会とかで挨拶しているからみんな知っている。


 というか、一度見たら忘れない不思議な存在感を持っている人だ。


 絶賛驚き状態のあたしたちを見て、生徒会長……星那沙夜先輩はニコッと笑う。


「やっ、日向ちゃんに志乃ちゃん。おはよう」


 鞄を持っていない左手を振り上げ、先輩は気さくに笑った。


 あたしと志乃は思わず顔を見合わせる。

 多分……思っていることは同じだ。


 その後、志乃が先輩を見る。


「お、おはようございます! あの、生徒会長さん……どうして私たちの名前を?」


 志乃は緊張した様子で問いかける。


 やっぱり、思っていることは同じだった。


 入学してから星那先輩と話したことは一度もないのに――


 どうしてこの人はあたしたちの名前を……?


「フフ、生徒会長たるもの生徒の名前はちゃんと把握しているものさ。ましてやキミたちならば尚更だ」


 地面に付くほど長い髪を、先輩はファサーっと払う。

 

 サラサラの髪が指の間からこぼれ、あまりにも似合いすぎるその仕草に思わず目を奪われる。


 生徒会長すごー……。


 じゃなくて。いやたしかにすごいけど!

 それ以上に疑問に思うことがあったでしょあたし!


「あたしたち……? えっと、それってどういう……」

 

 あたしの質問に、先輩は柔らかな物腰で話を続ける。


「キミたちのことは司からよく聞いているからね」


 司。


 その言葉にあたしたちは「えっ!」と反応をする。


「優しくて可愛い妹に、いつも元気いっぱいで明るい後輩……とね。中学からの付き合いなのだろう?」

「か、かわ……!?」

「元気いっぱい……!」


 突然の褒め言葉に、顔が熱くなる。

 司先輩、あたしたちのことをそんな風に言ってるんだ……。


「えへ、えへへへ」


 あ、どうしよう。テンション上がって来た。


「ひ、日向……顔がだらしなくなってるよ……」


 そういえば、司先輩は去年から生徒会のお手伝いをたまにしているとか……なんとか、そんなことを言っていたような気がする。


 先輩たちはある程度親しい仲なのだろう。


 ――ん?


 親しい仲……!?


「ほほほ星那先輩!」

「ん? なんだい?」

「せせ、先輩はその……! 司先輩のことを……!?」

「ふむ……?」


 あたしが最後まで言わなくても、先輩は理解したようで「ああ」と声を上げた。


 そして――


「フフ……」


 なにも言うことなく、笑った。


 あ、あぁぁぁ!!

 分かる!


 あたしには分かるよ!?


 これって……そういうことですよね!?


「せせ、先輩!?」

「おや。私はなにも言っていないぞ?」

「もうなんとなく雰囲気で察しますからぁ!」


 あたしは思わず頭を抱える。


 こ、これは……とんでもないライバルがいるぅ!

 

 ただでさえ月ノ瀬先輩とかいう爆弾みたいな人がいるのに!

 

 こんな美人でカッコいい人もぉぉぉぉ!!

 

 ホントにもうあの人は~~~!

 

「おっと、昴のことを忘れていたな。正しくは司と昴の後輩……だったね」


 いや、そうですけど。

 そうですけど別に今は昴先輩のことは――


「昴――?」


 はぇ?


 隣から小さな呟きが聞こえてくる。

 これは志乃の声だ。


 志乃は先輩の発言に対してピクリと眉を動かした。


「志乃?」


 あたしが声をかけると、志乃はハッとしてこちらを向いた。


「えっ、なに?」

「あ、いやどうしたのかなって」

「……?」


 コテンと小さく首をかしげる志乃。可愛い。可愛いなぁ。


「む……?」


 前を見ると先輩が目を細め、興味深そうに志乃を見ていた。


「そ、その」

「なんだい志乃ちゃん?」

「生徒会長さんは兄さんだけではなく、昴さんとも仲がいいんですか?」


 あー、それはたしかにちょっと思ったかも。

 

 昴先輩も、星那先輩のことをよく知っているような感じだったし……。

 

「うむ。昴は私にとって便利……頼れる後輩だからね。何度も手伝ってもらっているよ」


 この人、今便利って言おうとしてなかった?

 便利な後輩って言おうとしてなかった?

 

 サラッと流してるけど絶対言ってたよね?


 昴先輩かわいそうに……。


「そう……なんですか」


 まだ疑問に思ってそうではあるけど、志乃はその答えに頷いた。

 そして胸に手を当て、ホッと胸をなで下ろす。


 まるで先輩の言葉に安心したような表情を浮かべていた。


 ……ホッと?

 安心するようなところあったっけ……?


 うーん……あ、昴先輩といえば!

 せっかくだから聞いておこうかな!


「あ、先輩先輩」

「なにかな?」

「昴先輩はあたしたちのことをなんて言ってるんですかー?」

「キミたちのこと?」

「はい! 司先輩が言ってたように、さぞ褒めてくれてるんじゃないかと!」


 ワクワクした様子で尋ねると、先輩は思い出すように顎に手を添える。

 

 さっきから思ってるけど、先輩の一つ一つの仕草がとてもカッコいい。

 あのフッて笑い方もそうだけど、動作も正に『生徒会長・星那沙夜!』って感じがする。


 なんて言うのかなぁ。


 女子からモテそうな女子……的な?

 

 ちょっと憧れるかも。


「うるさい後輩」


 ……んぇ?


「いつも騒がしくて、うるさい後輩だと言ってたな」

「え、えっとー……明るくて元気いっぱいではなく……?」

「うむ。騒がしくて、うるさい後輩だ」

「アイツマジで絶対許さない」


 意地悪そうに笑ってそう言っている昴先輩が容易に思い浮かぶ。


 あの人さぁ!!!

 いやたしかに言ってそうだけど!?


 むしろあの人があたしのことを良い感じに紹介してる姿が思い浮かばないけど!!


 ぐぬぬ……帰ってきたらこらしめる。今決めた!


「で、志乃ちゃんは――」

「は、はい!」


 先輩は次に志乃に視線を向ける。


 志乃はドキドキしているのか、ピシッと背筋を伸ばした。


 あー、志乃のことはなんて言ってるんだろうなぁ。

 あの人なんだかんだで志乃には甘いしなぁ。


 超可愛いとか言ってそう。それにはもちろん全肯定だけど。


 じゃあ、あたしのことを可愛い後輩とか言ってくれてもいいでしょ!


「怒るとこわ――」


 先輩は途中まで言うと、言葉を止める。

 そのまま視線を斜め下にズラすと、二秒ほど考え込んだあとに頷いた。

 

 志乃は不思議そうに目をパチパチとさせている。


「……コホン。さて、そろそろ学校に向かわないとな。あとは本人に直接聞くといい」


 先輩はそう言うと、あたしたちに背を向けて颯爽と歩き出す。

 姿勢良くキビキビと歩く先輩に合わせて、青みがかった綺麗な髪がフワフワと揺れる。


 後ろ姿もしっかりカッコよかった。


「せ、生徒会長さん……!?」


 先輩から答えを貰えなかった志乃は慌てて後を追う。


 あたしも同様にその凛とした背中を追いかけた。


 ――あたし、分かったかも。先輩がなにを言おうとしたのか。


 なんとなーく……だけど。


 うん。


 昴先輩。


 それにはあたしも全面的に同意します。 


 そして思った。


 星那先輩って、実は結構面白い人なんじゃ……?

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