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第40.5話 朝陽司は交流を深める

「昴のヤツ……まーたふざけてみんなの邪魔してるなぁアレ」


 昼の部の自習時間にて、俺は何気なく昴たち青葉班の様子を見ていた。

 そしたら案の定、昴がなにやら適当なことを言ってみんなの邪魔をしているようで……。


 ホントになにしてるんだアイツは……。


 朝の人数確認のときもそうだったが、班長という立場を利用して好き勝手遊んでいて……流石に蓮見さんたちに同情してしまう。


 ほかの班が勉強しているなか、明らかに青葉班だけは勉強している様子が無い。


 先生に怒られても知らないぞ……?


「はぁ……ホントにね。晴香と月ノ瀬さんは一回本気で怒ってもいいと思う」


 俺の隣に座り、一緒に国語の勉強をしていた渚さんが呆れたように呟く。


「実際さ……青葉がいるってだけでデバフだよ。敵じゃなくて仲間にデバフを振り撒く最悪のキャラだしねアイツ」


 昴、お前デバフ呼ばわりされてるぞ。


「でもほら、たまーにバフ撒いてくれるだろ?」

「たまに、でしょ? 九割デバフで一割バフの超運ゲーキャラ。そんな外れキャラ……パーティーに入れたいと思う?」


 なんともゲーム好きの渚さんらしい評価に苦笑いを浮かべる。

 

 たしかに今見ている感じ、明らかに昴の言動は青葉班にとってデバフっぽい感じではある。

 班長になのにデバフ要員って最悪じゃないか……?


 あ、でも待てよ?


 超運ゲーの外れキャラ……。

 

 普通であればそんなキャラをパーティーに入れることはないだろう。


 だけど、いつも渚さんが言っていることを考えると――


 俺は渚さんに顔を向け首をかしげる。


「そう言うけど渚さんはさ、いつもその()()()()()を使ってゲームクリアしようとしてない?」

「え……」


 渚さんは予想外といわんばかりに表情を固まらせた。


 青葉とゲームの話をしているとき、いつも渚さんが言っていることだ。

 

 『強いキャラを使ってゲームをクリアできるのは当たり前。弱いキャラを使ったほうが楽しい』……と。


 その理論で行くと、外れキャラである青葉は渚さんにとってはもうドストライクのキャラクターなのでは?

 

 あれ? ひょっとして俺、すごいことに気が付いてしまった……?

 なるほど……どうりで……。


「だから渚さんはあんなに昴をコントロールできるのか……納得納得」


 渚さんというプレイヤーが、癖のある昴というキャラクターを上手く操作しているのだろう。

 

 キャラクターはプレイヤーの操作に逆らえない。

 だからこそ昴はいつも渚さんに弱いということなのでは?


 これは……大発見……!?


「……し、知らない」


 バツが悪そうに渚さんは顔を逸らす。

 

「やっぱ渚さんがいないと、昴の暴走を止められる人がいないから大変そうだなぁ」


 月ノ瀬さんがある程度抑止力になっているとはいえ、やはり渚さんには劣っているように見える。

 

 もし青葉班に渚さんがいたら、昴は大人しく自習していることだろう。


「でも俺の気持ちを言えば、渚さんが一緒の班になってくれて良かったよ」

「あぇっ……!?」


 おぉうなんかすごい声出してる……!


 渚さんが凄い勢いでこちらを見ていた。


 同時に『パキッ』という音が聞こえた。


 疑問に思って音がしたほうを見てみると、渚さんが手に持っているシャーペンの芯が折れている。


 なんだ……? うっかり力入っちゃったのか?


 それに、こちらを見る渚さんの顔は少しばかり赤くなっているように見えた。


「ん? どうかした?」


 どうして赤くなっているんだろう?


「い、いま、いまのその……どういう意味かな……って」

「今の?」

「そ、その……一緒になって……ってとこ……」


 あーなるほど……?

 

 俺の言葉が気になっちゃったのか。

 顔を赤くする理由は良く分からないけど……。


 俺は渚さんを見てフッと笑う。


「だって、渚さんがいなかったら俺だけ除け者になっちゃうだろ? 流石にそれは寂しいって」


 俺以外が全員同じ班になってしまったら、いくらなんでも寂しすぎるしな。


 関わりのあるメンバーがこうして一人でもいてくれただけで嬉しい。

 もちろん、理想はみんなが同じ班になることだったけど……流石にそれは難しいことは分かっていたし。


「あ、あぁ……そういう……そういう……ね」


 「……ま、分かってたけどさ」と渚さんはなにかに納得するように何度も頷いている。

 それに、ガッカリしたように小さくため息もついているけど……。


 あれ? 俺、変なこと言った……?


 まだ話は終わっていないため、「それに」と俺は話を続ける。


「渚さんとこうしてちゃんと話す機会、少なかったからさ。そういう意味でも渚さんが一緒で嬉しいよ、俺は」

「べ、別に……わたしと話しても面白くないでしょ」

「いや? そんなことないよ? 現に今楽しいし」

「……っ」


 息を呑む音が聞こえた。


「まぁ……渚さんがどう思ってるかは分からないけどね?」


 これはあくまでも俺の気持ちであって、渚さんの気持ちは分からない。


 少なくとも、親友である蓮見さんと一緒になれなかったことは、残念に思っていることだろう。


 そんな中、俺が一緒になってしまって申し訳ない気持ちは……正直ある。


「あぁ……もう。ずるい」


 上手く聞き取れないくらい、小さな声で渚さんが呟いた。

 先ほどまで慌てた様子の表情だったが、今は穏やかな表情を浮かべている。

 

「ホントに、朝陽君の()()()()()()()――」


 しかし。


 その言葉を言い終える前にハッと目を見開き、左手で口元を抑えた。


「な、なんでもない……! ごめん、変なこと言って……」

「えっと、別に変なことなんて言ってなかったような……?」

「い、いいの! 朝陽君は忘れて……!」

「お、おう……?」


 忘れてもなにも、結局なにが言いたかったのか分からないままなんだけど……?

 

 小さい声だったからあまり聞き取れなかったが……俺がどうこうって言ってたような……?

 気のせいかな。自意識過剰だったりする?


 でも……まぁ、忘れてと言うのなら仕方がない。


 大人しく忘却の彼方にポイすることにしよう。


「だけど……その」


 渚さんは俺から顔を逸らし、話を続けた。


「別に、朝陽君と一緒になって残念とか……そういうことは……その、思ってないから」


 お、おー……。

 

 渚さんもそう思ってくれていたのか。

 それはそれで素直に嬉しい。


 徐々に早口になっていく渚さんを見て、思わず笑みがこぼれる。


「なら良かったよ。改めてよろしくね、渚さん」

「……ふふ。よろしくって……今更すぎない?」

「それは……あー、たしかにそうだな?」


 俺たちは顔を見合わせ、笑い合う。


 俺と渚さんは同じ班である以上、合宿が終わるまで関わることが増えていくだろう。

 今日だって授業や昼食の時間、そして今の自習時間にもこうして交流を深めることができている。


 特に昼食の時間なんて、いろいろ話をすることができた。

 青葉の話をしたときなんて……結構食いつきが良かった気がするし。


「あ、なら班長さんさ。せっかくだから勉強のこと聞いていい……かな」


 渚さんは申し訳なさそうに俺に尋ねる。


「なんでも聞いてよ。……あ、でも確実に教えられるって自信はないぞ? なんならこっちが逆に教わるパターンかもしれない」

「そのときは……うん、二人で頑張るしかないね」

 

 だね、と頷き合う。

 そして渚さんは「ここなんだけど……」と問題集を俺に見せてきた。


 彼女……渚さんは普段、いつもみんなの輪から一歩引いた場所にいる……気がする。


 話を振ったら会話に入ってはくるけど、自分から話を振ることは少ない。

 いつも静かに話を聞いているイメージだ。


 それこそ、昴がふざけた言動をして初めて積極的に会話に混ざってくるような……。


 その昴がいないときは、それこそ俺や蓮見さんが話しかけないとなにも言わないほうが多いのだ。


 もちろん、蓮見さんと二人きりのときはそんなことないんだろうけど……。


「どれどれ……俺に分かるかな……」


 少なくとも今は、こうして俺に話しかけてくれる。

 

 それだけでも嬉しい気持ちを感じてしまうのは……俺が単純だからなのだろうか。


 この合宿で、少しでも彼女を知ることができるように頑張ろう。

 なんとなく……俺はそう思った。


 ……。


 ──だけど。


 なぜだろう。


 『彼女たち』と交流を深めれば深めるほど……。


 言葉にできない……『嫌な感じ』がするのだ。

 嫌で……どこか『怖く』なる。

 

 この『感じ』は……初めてじゃない。

 中学時代から……何度か経験してきた。


 最初は……女子と話しただけで『嫌な感じ』がした。


 たしかそのとき一度……昴に相談した記憶がある。

 そのときのアイツの返事は……たった一言で。


 『――りょーかい』。


 そんな、軽い返事。


 けれど、それから時が経つごとにその『感じ』は少なくなっていって……。


 決して蓮見さんたちのことが嫌いなわけではない。

 すごく……優しくていい人たちだと思う。

 むしろ好感を持っている……はずだ。


 この『感じ』がなんなのか……。


 俺には……まだ、分からない。


「――朝陽君? どうかした?」


 気が付くと、渚さんが心配そうに俺を見ていた。


 おっと……危ない危ない。

 今は自習の時間だもんな。


 まぁ、分からないことを考えても仕方ない!


 とりあえず今は勉強しておこう!


 補習なんてことになったら、昴にありえないほどバカにされそうだ。


「ううん、ちょっと今日の夕食なにかなって考えてた」

「なにそれ。朝陽君ってそんな食いしん坊キャラだったっけ?」


 ……断じて違うが、今はそういうことにしておこう。


「……あ、そういえば朝陽君さ」

「ん?」


 渚さんはチラッと一瞬昴たちに目を向けて、俺にそっと身を寄せる。

 そのまま声を潜めて話し始めた。


「晴香から……なにか聞いた?」

「蓮見さんから?」


 なにか、とはなんだろうか。

 朝の移動時間を除き、蓮見さんとは今日まだ全然話していない。


 それこそ昼食の時間に昴が変なこと言っていたから、そのときに少し話したくらいだ。


 俺は首を左右に振る。


「いや、なにも……。というかなにかってなに? 俺が聞いていいことなのかは分からないけど……」


 俺の質問に渚さんは視線を落とす。


「……なんか、今日の朝くらいから晴香に避けられてるような気がして。それこそ昼のときなんか声をかけても──」


 そこまで言って渚さんは口を閉ざす。


「あ、いや。気にしないで。わたしの勘違いかもだし……なにも聞いてないなら大丈夫」

「……そっか。でもなにかあったら言ってよ? 俺にできることがあるなら、なんでも協力するからさ」

「……うん。ありがとう」


 蓮見さんが渚さんを避ける……?

 そんなことありえるのか……?


 俺が見ている感じではそんな風に思わなかったけど……。


 だって二人は親友で、いつも一緒にいる。


 渚さんがああ言うってことは、心当たりなどはないのだろう。


 それなのに、避けられているかもって感じたってことは……もしかしたら本当になにかあるのかもしれない。


 もちろん、渚さんの勘違いの可能性もあるけど。

 蓮見さんは意味もなくそんなことをする人じゃないだろうし。


 うーん……。


 俺もそのあたりは注意して見ておくとしよう。


 場合によってはアイツに相談したほうがいいかもしれない。


 × × ×


「……はっ。いい感じにやってんじゃねぇか。――蓮見? お前、司たちのほうを見てどうしたんだよ?」

「……ぁ、う、ううん、なんでもないよ! ほ、ほらいい加減ちゃんと勉強しよ!?」

「………おん?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分で種蒔いといて、バランサーのお陰で助かってる自覚無いのは救えないなぁ……
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