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第39.5話 一方その頃、川咲日向は

「……今日から司先輩と会えないのかぁ。ヤダな~」


 昼食の時間にて。


 あたしは自分のクラスである一年一組で、親友の志乃と一緒にお弁当を食べていた。


 今日から二年生は『学習強化合宿』とやらに行くということで、校内はいつもより静か……な気がする。

 

 もっとも、二年生や三年生と関わる機会なんて部活を除けば全然ないわけで……。

 だから特別なにかが変わる……というわけではないんだけど。


 だけど!


 あたし、川咲日向には死活問題で!


「あはは……でも明後日には帰ってくるんだよ? すぐだよ、すぐ」


 彩り豊かなお弁当を食べながら、志乃は笑う。


 うーん、志乃は今日も可愛いなぁ。

 

 ……じゃなくて。

 危ない危ない。

 

 志乃のほんわかパワーにやられちゃうところだった!


「志乃は一緒に住んでるからいいけど、あたしは三日まるまる会えないってことなんだよー!? 三日だよ三日!」

 

 さん! と三本指を立てて志乃に見せつける。


 あたしなんて一日に一回は絶対に司先輩とお話しないと頑張れないのに。


 それが三日なんて……なんて……。

 

「志乃だって寂しいんじゃないのー? お兄ちゃんと会えなくなってさ」

「ふえっ!?」


 あたしの言葉に志乃は顔を赤くする。


 ニシシ、やっぱ分かりやすいなぁ志乃は。

 すーぐ顔に出るんだもん。


「そ、それは……そうだけど……」


 志乃がお兄ちゃんである司先輩のことが大好きってことは、流石のあたしでも見ていれば分かる。


 最初に出会った……中一のときから、志乃は司先輩にベッタリだった。

 

 どこに遊びに行くにも、絶対に先輩の隣を陣取っていたし。


 さすがに恥ずかしくなったのか、今はそういう姿をあまり見せてないけど……。


 それでもきっと、今も先輩のことを大事に想っているに違いない。


「だって考えてみなよ志乃~」

「……なにを?」

「晴香先輩や留衣先輩、あとはもう最強格の玲先輩とずっと一緒にいるんだよ?」

「う、うん。それはそうだよね。だって合宿だもん」


 志乃は首をかしげる。


 あーもう!

 なんでこの子は肝心なところで鈍感なの!


「ずっと一緒なんだよ!? そんなのもうなにかあってもおかしくないじゃん!」


 ひとつ屋根の下!

 

 年頃の男女!


「え? なにかって?」

「ほら! 合宿を機に仲が深まったりとか! そういうの恋愛漫画とかじゃお決まりなの~!」


 合宿なんて恋愛漫画の定番のイベントだ。


 それまで微妙な距離感だった男女が仲良くなったりとか、普段は仲良くなかったけど合宿を機に急速に仲を深めるとか……!


 そんなイベントに! 今! 


 司先輩は行ってるってことなの~! も~!


 私の言いたいことが伝わったのか、志乃はハッと目を見開いた。


「た、たしかに……!」

「分かったでしょ!? ただでさえ晴香先輩とか司先輩といい感じなのに~! もっといい感じになったらあたしどうすればいいのー!」


 思わず頭を抱えてしまう。


 今こうして呑気にお昼ご飯を食べている間にも、司先輩は誰かといい感じに仲を深めているかもしれない。

 しかもまだ初日だ。明日も、明後日もある。時間はたっぷりあるんだ。


 もしかしたら晴香先輩かもしれない。

 留衣先輩かもしれない。

 玲先輩かもしれない。


 それとも別の女子かもしれない……!


 考えれば考えるほど、モヤッとした気持ちが胸を覆う。


 あたしのほうが先輩と早く出会ったのに。


 学年が違うって……ホントに大きなハンデだ。

 それだけで先輩と過ごせる時間が減っちゃうんだから。


「はぁ……」


 落ち込む私は「で、でも」と志乃が声をかける。


「ほら、昴さんもいるんだよ? だからあまりそういう感じにはならないんじゃないかな……って」


 あー昴先輩かぁ。


 たしかに志乃の言う通り、あの人はいつも司先輩と一緒にいるし……。


 どうせ今もふざけたことばかり言って、ほかの先輩たちに怒られてるんだろうなぁ。


 あの人もずっと変わらないからなぁ……。


 うーん……。


「えーでもさぁ」

「でも、なに?」

「昴先輩だって、もしかしたら誰かといい感じになっちゃうかもしれないよ?」


 何気なく言った、そんな言葉。


 昴先輩ももしかしたら……本当にもしかしたらだけど……。


 誰かいい感じの女の子と仲良くなってるかもしれない。


 そうなったら……司先輩と一緒にいることも少なくなりそうだし。


 ――ま、あの人のことだ。そんなことありえないだろうけど。

 

 だけど。


「――ぇ」


 聞こえてきたすごく小さな声。


 目の前に座る志乃の表情は……予想とは全然違くて。

 

 まるでそのことを想像して、悲しんでいるような顔……だった。

 

 あれ……?

 これ、昴先輩の話……だよね?


 司先輩の話じゃないよね……?


「志乃? そんな顔してどしたの?」

「えっ! 私、なにか変な顔してた……?」

「変な顔っていうか……うーん、悲しい顔? みたいな」

「私が……?」


 うん、と頷くも志乃はあまり分かっていなさそうだった。


 えぇ……まさかの自覚無し……?

 

 どうしたんだろう?

 やっぱアレかな?


 司先輩が誰かに取られちゃうことを想像して悲しくなったのかなぁ?


 うんうん、あたしもその気持ち分かる! 同じ気持ちだもん!

  

 大丈夫だよ志乃、よーく分かるから。


「あーあ、あたし電話しちゃおうかなー」


 頭の後ろで手を組み、背もたれに寄りかかる。


「さ、流石にそれは迷惑だよ日向」

「えー? 夜の十時とか十一時とかならいいんじゃないのー?」

「時間的にもどっちにしても迷惑だと思うよそれ……」


 ダメダメダメって志乃は~! 


「やだやだ~!」

「子供になっちゃった……」


 志乃の言ってることは分かる。


 分かるけども!


「いい? 恋する乙女はね、そんな障害を乗り越えてこそなのっ!」 


 ビシッと志乃を指さす。


 ふっ……あたし、決まったぜ。

 これはかっこいいこと言ったね、あたし。


「誰かに取られて後悔してからじゃ遅いの! ただでさえあたしたちは学年が違うんだから……だからこそグイグイいかないと! 若さを利用して!」

「若さって……たった一歳差だよね……?」


 志乃が呆れてるけどそんなこと気にしない!


 せっかくあたしには『後輩』という立派な属性があるんだ。

 持ってるものはとことん利用しないとね!


 大抵のことをしても『まったくしょうがないなぁ』って許してくれるし! 


 これぞ後輩キャラの特権!


 ふっふっふ……。


「だいたいさぁ」

「ん?」

「志乃も電話すればいいじゃん」


 仮に志乃が相手だったらなにも言われないだろうし。


「えっ……!」


 志乃は驚いた顔であたしを見た。


 どうしてそんなに驚いてるんだろう?

 別に電話くらい志乃だったらなんてことないはずだ。


 だって志乃は家族で――


「――す、昴さんに?」


 そうそう、昴先輩はお兄ちゃん……。


 ……。


 え?


 はぇ?


「は? す、昴先輩? なんでここであの人が出てくるの? 司先輩に電話すればいいんじゃないって話だったんだけど……」

 

 思わず困惑してしまう。


 話の流れ的に司先輩に電話……ってことじゃなかった?

 さっきもこんな感じのことあったけど……。


 あれ? あたし? あたしが悪いの?


 なんか、よく分からなくなってきた……。


「……あっ。そ、そうだよね……! 兄さんだよね! なに言ってるんだろう私……!」


 志乃は恥ずかしそうに頬を赤く染める。


 そして気まずそうな表情で首を左右に振った。


「――私、なんで昴さんの名前を……」

「いやそれあたしが聞きたいよ?」


 ホントに。

 その言葉をそっくりそのままお返しする。


 志乃は「うーん」と納得していない様子ながらも食事に戻っていった。


 うーんって言いたのはこっちなんだけど……!?

 

 あたしってそんな会話下手だった……!?

 分かりづらかったかな……!?


 むむむ……。

 

 そういえば最近の志乃、昴先輩の話をすることが増えたような……そうでもないような……。

 いやーでも、家での司先輩の話もよくしてるし……羨ましいけど。


 むむむむ……。


 ………。


 ま、いいや!


 日向、難しいことは分かんない!


 とりあえず今日の電話計画でも考えよっと!


 へへ。


 夜に電話なんて恋人同士みたいだな~!


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