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ラブコメの親友ポジも楽じゃない!  作者: 緑里 ダイ
【最終章】?月編
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第347話 川咲日向は変わらず元気娘である

「そういえば昴さん……ちょっと雰囲気変わったよね?」

「それ、ほかのヤツらにも言われたな。やっぱりそう見える?」

「うん。私は……今の昴さんも好きだよ? ……まだ許してないけど。全然許してないけど」

「お、おぉう……そりゃ仕方ねぇな。許してもらえるまで頑張らねぇと」

「ふふ、がんばってね。……あ、残念だけどそろそろ戻ろ? 月ノ瀬先輩たちも、きっと心配してるだろうし」

「だな。すげぇ勢いで飛び出しちまったからな」


 オレたちは屋上を後にして、階段を下り始める。


 昼休みの終わりも迫っているし、司たちも心配しているはずだ。


 特に司には……改めて、ちゃんと謝らないとな。


 志乃ちゃんを泣かせた人間のことを、素直に許すなんて思えないし。


 なんてことを考えながらも歩いていると――


「あっ、志乃! ……と、一応昴先輩も。やっと来たー!」


 踊り場に立ち、こちらに向かってブンブンと手を振ってくるのは日向だった。


 身体の動きに合わせて、ツインテールがぴょこぴょこと動いている。


 ……果たして、未だにこのツインテールには自我が宿っているのだろうか。


「あれ、日向? どうしたの?」

「志乃を待ってたの! 昴先輩に酷いことを言われてないかーとか、泣かされてないかーとか、いろいろ心配だったから!」

「おい待て、一応とはなんだ一応とは。あと人のことを最低人間みたい――」

「え? なにも言わないで急にいなくなったの……誰でしたっけ?」

「うんオレですね。まさしく最低人間でした」


 言い返しようのない事実を前に、オレは素直に頭を下げた。


「ふふふ。分かればいいんですよ! 分かれば!」


 ぐぬぬ……あの日向に頭を下げる日が来るなんて……。


 こりゃしばらくは、コイツにも逆らえそうにないな。


 実際、それだけのことをオレはしてきたのだから。


「それで……志乃、昴先輩」

「ん?」

「なんだ?」


 日向はオレと志乃ちゃんを順番に見て、ふっと微笑んだ。



「二人とも、ちゃんと話し合えた?」



 先ほどまでの茶化すような表情とは違い、優しい笑みだった。


 コイツ、こんな顔で笑えるようになったのか……。


 半年前まではあまり見ることのなかった、どこか大人びた表情。


 日向といったら『へへん!』と全力で笑う姿が印象的だったからこそ、余計に驚いてしまった。


 たとえ容姿は変わっていなくても、心のほうはしっかり成長している証拠だろう。


 オレと志乃ちゃんは顔を見合わせ――同時に頷いた。


「うん、ちゃんと話せたよ」

「だ、そうだ。オレも伝えたいことは一通り伝えられたと思う」

「そっかそっか! ならあたしは満足! それじゃあ、先輩たちのところに戻ろー!」

「おー」


 日向の掛け声に、志乃ちゃんが可愛らしく手を挙げる。


 オレたちは三人並んで歩きながら、廊下を進む。


 日向は機嫌が良さそうに鼻歌を歌い、志乃ちゃんは柔らかな表情をしていた。


 それぞれの横顔が、今の彼女たちの気分を示していて……なんだか面白い。


「そういえば日向、部活のほうはどうなんだ?」

「ふふーん! 聞いてくださいよ昴先輩!」

「ほー、なるほどな。すげぇじゃねぇか。これからも頑張れよ」

「まだなにも言ってないんですけど!? そっちから話振ってきたのに、適当過ぎません!?」


 おっといけない。

 つい癖で適当にあしらってしまった。


「日向、大活躍なんだよ。もうレギュラーだし、後輩たちから早速慕われてて……チームの中心的な存在なんだって」

「え、マジ?」

「うん」


 志乃ちゃんがそう言うなら、すべて本当なんだろう。


 オレ自身、日向のポテンシャルはよく知っている。

 レギュラー入りなんて、むしろ時間の問題だったはずだ。


 人柄的にも、後輩たちからすれば親しみやすい先輩って感じだろうし。


 ……なるほど。チームの中心的存在、か。


「どーですか先輩! あたしのこと見直しましたか!?」

「見直すもなにも、お前なら最初からそれくらいやれるって思ってたぞ。頑張ってんだな、日向」

「え」

「なんだよ」

「いや……まぁ……はい。あの昴先輩がそんなストレートに褒めてくるとか、逆に変な感じがするっていうか……なんていうか……嬉しいのはそうなんですけど……もしかして別人……?」

「おい」


 ぽりぽりと頬を掻きながら、日向はぶつぶつと呟く。


 つーか、全部聞こえてんぞ。

 最後なんて言った? 別人とか言ってなかったか?


 まぁいい。とりあえず次の質問にいくとしよう。


「部活の話は分かった。それで……肝心の『恋愛』のほうはどうなんだ?」

「えっ!」


 顔を赤くした日向に、オレはすかさず追撃。


「アイツ――司とは仲良くやれてるのか?」


 この半年間、オレは司たちと一度も連絡を取っていなかった。


 だから、誰がどのように過ごしていたのかは分からない。


 あの日、後夜祭で結ばれた二人の『現在』を――オレは知りたかった。



「むふ」



 日向の口元が緩む。


 それはもう……分かりやすいくらいにだらしなく緩んだ。


 今の『むふ』で、オレはすべてを察した。


 この感じだと……うん。


 なにも心配はいらなさそうだ。

 

「え~? 先輩知りたいんですかぁ~?」

「くねくねすんな。まぁ大体察したけどな。その様子だと、関係良好ってことでいいんだな?」

「えへへ! そうなんですよ~! 先週も遊びに行ったばかりで~!」

「ふふ。日向、ずっと楽しそうだもんね。うちにもよく遊びに来てるし」

「おー、いい感じじゃねぇか」


 司と遊べるし、志乃ちゃんとも遊べるし……日向的にはそれはもう超お得だな。


 言わずもがな、日向はいつも元気で周りを笑顔にできる女の子だ。


 司の両親的にも、息子の彼女としてなにも心配はいらないだろう。


「……ありがとな、日向」

「……へ?」


 ふと、感謝の言葉が口から漏れる。

 突然のお礼に日向は首をかしげた。


「この半年間、ずっと司のことを支えてくれてたんだろ? 向こうにいても、オレはなにも心配してなかった。だって日向だからな。お前なら、司と一緒に前に進んでくれるって……そう信じていた」

「昴先輩……」


 司は一人じゃない。


 月ノ瀬たちや、最愛の妹。

 それに、日向というパートナーもいる。


 『アイツはなにしてんだろうな』と、思いを馳せることは何度もあった。


 だけど、心配をしたことは一度もなかったんだ。


 ……無責任な話だけどな。


「……お礼なんていりませんよ」


 日向の瞳が一瞬だけ揺れる。

 その後、真っ直ぐに俺を見た。


「あたしは、昴先輩のために司先輩と一緒にいたわけじゃない。あたしは司先輩に笑ってほしくて、一緒にいたくて……。あの人のため、そしてあたしのために隣に立ってるだけです」

「お前……」

「だから勘違いしないでくださいね! あたしは司先輩の『一番』になってみせるんですから! 昴先輩には負けませんよー?」


 堂々としたその宣言に、思わず笑いがこぼれる。


 太陽のように明るく、花が咲いたように可愛らしい。


 まさに『川咲日向』全開の笑顔を前に、オレは嬉しさを感じた。


 あんなにおバカでお気楽で、いつもはしゃいでばかりだったあの日向が……。


 ったく……なんだよ。


 もう、オレよりもずっと立派じゃねぇか。


「……日向も変わったでしょ?」


 隣に立つ志乃ちゃんが微笑み、小さな声で言った。


「……ああ、そうだな」


 またあとで、ゆっくりと話を聞こう。


 司と日向が仲良く過ごしている。

 

 その事実を知られただけでも、今は十分だ。


「それと昴先輩、手紙に書いてあったことを忘れてませんよね?」

「手紙?」

「そうですよ! あたしのわがまま、なんでも聞いてくれるって言ったじゃないですか!」


 あー、そういえばそんなことを書いたな。


「お菓子を買ってもらってー、バスケの練習に付き合ってもらってー、惚気話をいっぱい聞いてもらってー、あとはあとは――!」


 指折り数えながら、嬉しそうに『わがまま』をたくさん挙げていく。


 司ではなく、オレに聞いてもらうためのわがまま……。


 それは日向にとって、大切なのは司だけではなく……。

 オレのことも、ちゃんと想っているという証明だった。


 ――もっとも、日向自身はそこまで深く考えていないだろうけど。


「しばらくは大変そうだね、昴さん」

「自業自得だからな。なんだって付き合ってやるさ」


 わがままでもなんでも聞いてやる。


 志乃ちゃんの言う通り、しばらくの間は大変な日々になることだろう。


 でも、不思議と嫌な感じはしない。


 むしろ――安心感すら覚えてしまう。


 あぁ、オレは本当に帰ってきたんだな……と。


「あっ、そういえば……一個忘れてたんですけど」

「どうした?」


 日向は一度咳払いをして立ち止まる。


 そして、パッとこちらを向いて――



「おかえりっ! 昴先輩!」



 元気いっぱいに、全力で。


 これで――その言葉を言われるのは五回目だな。




「おう。ただいま、日向」




 川咲日向は相変わらず元気娘である。


 ――ありがとう、日向。


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