青葉昴の手紙
お前らへ
お前らがこの手紙を読んでいるということは、俺はもうそこにいないだろう。
なーんつって。
俺、リアルで一回これを言ってみたかったんだよな。クエストクリアだぜ。ふふふ。
さて。
あまりふざけてると姉御あたりがキレそうだから、本題に入るとするか。
まずは……こんな形でいなくなってすまない。
きっと怒ったり、戸惑ったりしていることだと思う。
でも、会長さんや先生を責めるのだけはやめてくれ。
これは全部、俺が決めたことなんだ。
俺は俺の意思で、最後まで隠すことを選んだんだ。
責めるなら、俺を責めろ。
じゃあ、なんでこんなことをしたんだって話だけど……。
純粋に俺は、まっさらな自分として生きてみたくなったんだ。
お前らのいない、まったく新しい場所で。
『俺』という人間がなんなのかを、見つめ直してみたかった。
お前らは優しい。
呆れるくらいに優し過ぎる連中だ。
きっと今回のことを知ったら、俺を引き止めようとするかもしれない。
それこそ……泣かれる可能性だってある。
そんな姿を見ちまったら……俺は揺らいじまう。
お前らの優しさに甘えてしまう。
だから……黙っていることにした。
俺の願いは、もう叶った。
目指した場所に、辿り着けた。
今度は、自分自身の力で『次』を探したかったんだ。
理解しろなんて言わない。
納得してくれとも思わない。
俺は、自分勝手でどうしようもないヤツだからさ。
だからこそ最後の最後まで、お前らが知っている『青葉昴』として突っ走らせてもらう。
月ノ瀬。
これからも、司たちのことを支えてやってくれ。
その芯の強さと、リーダーシップでどんどん引っ張っていけ。
お前はもう、自分を偽るか弱いお嬢様なんかじゃない。
自分と向き合って、相手と向き合って……本当の強さを手に入れた、俺らの『姉御』なんだからな。
また、バドミントンで勝負しようぜ。
そのときも圧勝してやるからよ。
蓮見。
お前の優しさには、何度救われたか分からない。
さりげない気遣いも、寄り添う姿勢も、全部が心強かった。
これからも、みんなの『居場所』で在り続けてくれ。
俺たちの中心は、間違いなくお前だよ。
別荘でお前が用意してくれた特製お茶漬けの味、俺はずっと忘れない。
また、そのうち食べさせてくれ。
日向。
お前に言うことは、ただひとつ。
俺の大切な親友を。
俺を救ってくれた太陽を。
どうか、一番近くで支えてやってくれ。
お前になら、俺は迷わずに託せる。
だから……頼んだぜ、後輩。
その礼に、お得意のわがままくらいなんだって聞いてやるよ。
会長さん。
俺の頼みを聞いてくれて、本当にありがとうございました。
あなたには、ずっと振り回されっぱなしでしたけど……。
まぁ、それも含めて……楽しかったです。
あなたがいたから、俺たちは前に進めた。
あなたがいたから、俺たちは過去を忘れずにいられた。
堂々とした生き方、これからも貫いてください。
星那さんにも、よろしく伝えておいてくれると助かります。
志乃ちゃん。
ごめん。
今、君はきっと……ひどく傷ついていると思う。
あんなにも取り戻したかった君の笑顔を、俺が自分の手で奪ってしまった。
どうしようない俺を、好きだと言ってくれたこと。
どうしようもない俺を、追い求めてくれたこと。
君が何度も俺に想いをぶつけてくれたこと……本当に感謝してるよ。
君が、司の妹としてやってきたあの日から……。
俺と司の日常は、確かに変わったんだ。
俺にとっても本当に家族が増えたみたいで……妹ができたみたいで楽しかった。
こんな勝手な男で、本当にすまない。
でも、朝陽志乃という女の子は……本当に特別な存在だったよ。
渚。
お前は俺にとって、どこまでも予想外のヤツだった。
あんなにも、嫌いだって言われたのは初めてだった。
あんなにも、激しい感情をぶつけられたのは初めてだった。
強化合宿の日、胸ぐらを掴まれたことは今でも鮮明に覚えている。
だから、そんなお前の変化を近くで見ていくのが楽しかった。
全力でぶつかってきたお前だからこそ、俺はお前を面白くて魅力的なヤツだと思えた。
同じ舞台に立てたことを、俺は光栄に思う。
またいつか、格ゲーで対戦しようぜ。
そのときにはお前をボコボコにしてるからな。
だから、せいぜい腕を鈍らせるなよ?
最後に、司。
お前は……俺のすべてだった。
お前がいたから、俺は変われた。
お前が手を伸ばしてくれたから、今の俺がある。
救ってもらったとか、恩があるとか、そういうのを全部抜きにして……。
俺はただ、堂々とお前を『親友』だって言いたい。
お前の隣にもう一度立ってみたい。
でも、今の俺は余計なもんを持ちすぎてる。
いらねぇことを考え過ぎてる。
お前はそれでもいいって言うだろうが……俺が嫌なんだ。
最高の男に相応しい、最高の親友になるために……ちょっくらレベル上げでもしてくるわ。
んでもって、次に会ったときは思いっきりぶん殴ってくれ。
勝手なことばかりしやがって……ってな。
そして……忘れんなよ、司。
お前はもう、独りじゃない。
お前は、我慢なんてしなくていいんだ。
なーんて、俺が言っても説得力ねぇか! はっはっは!
あ、あと日向のことを泣かせんなよ?
あいつは俺にとっても、可愛い後輩なんだからな。仲良くやれよ!
どうせお前のことだ。
「昴がいないから、恋愛なんてしてる場合じゃ……」とか考えてるだろ?
そんな考え、今すぐ捨てろ。
お前はお前の意思で、日向を選んだんだ。
だったら、とことん突き進め。
で、そのうちに俺に惚気話でも聞かせてくれよ? いいな?
……とまぁ、メンツ的にこんな感じでいいだろ。
長ったらしいのは俺らしくねぇし、ここらでスパッと終わろうと思う。
お前らにとっては『別れ』かもしれないが、俺にとっては『始まり』なんだ。
別に一生のお別れってわけじゃねぇし、案外すぐに会えるかもしれない。
もちろん、未来のことなんて俺にも分かんねぇけど……。
俺は俺で楽しくやってるから、お前らもお前ららしく笑って過ごしてくれ。
それが、お前らが『友達』だと言ってくれた俺からの最後の頼みだ。
……まさか「すばるんがいなくなって悲しいよぉ……ぐすんぐすん」とか言ってねぇよな? もしもそんな空気になってたら、俺は大爆笑だぜ?
ほんじゃま……正真正銘、これがラストだ。
司。
日向。
月ノ瀬。
蓮見。
渚。
志乃ちゃん。
会長さん。
オレと出会ってくれて
ありがとう。
青葉昴




