表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
417/475

第308話 青葉昴は改めて意外に思う

「そういえば星那さん、会長さんの男装姿って見ました?」


 三年三組へ向かう途中、俺は隣を歩く星那さんに問いかけた。


「もちろんでございます。お店に入ったわけではありませんが……遠くから、お姿を拝見いたしました」


 即答だった。


 しかし、語り方が妙にうっとりとしているのは……気のせいではないのだろう。


「ズバリ、感想は?」

「最高でした。あまりにも尊すぎて、一瞬魂がどこかへ旅立ってしまうかと思いました。実に素敵で……お美しくて……流石は沙夜様。なんて素晴らしい方なのでしょう……」

「尊すぎてって……。推し活してるオタクみたいなこと言いますやん」


 そのうち、『沙夜ちゃんマジ天使。ハスハス』とか言い出しそうな勢いである。


 なんにせよ、会長さんの男装モードはしっかりクリティカルヒットしたようだ。


 男装モードといえば……。


 昨日、実際に会長さんの接客を受けた感じ、あの人の所作は間違いなく星那さんを参考にしているのだろう。


 つまり……だ。


 仮に会長さんだけではなく、この人にも執事服を着させて接客をさせたら……とんでもないことになるんじゃなかろうか。


 そうなると、廊下の端まで行列が出来そう。特に女性客。


 ……ちょっと見てみたい気持ちもあるな。


「じゃあ、もしも会長さんが男にナンパでもされたらどうします? あの見た目ですからねぇ……声をかけられてもおかしくはない」


 現に星那さん自身も、先日ナンパされていたわけだし。


 ありえない話……というわけではないだろう。


「………………」

「あれ、星那さん? どうしました?」

「あぁ、失礼しました。法で裁かれない範囲での始末方法を考えていました」

「怖いわ。始末方法とか言わないでください」


 こえーよ。


 この人が本気を出したら、それこそ会長さんに近付いた輩を社会的に始末しそうだよな。想像出来てしまうのが恐ろしい。


 でも……もしも将来、会長さんが誰かと付き合ったり結婚したりって話になったら――


 両親のほかにも、星那さんという最強のラスボスを超えないといけないんだろ?


 それ、難易度ハードどころじゃないだろ。ベリーハードにすら収まるか怪しいぞ。


 とはいえ、星那さんのことだから……。


 なんだかんだで『沙夜様が選んだ人なら』とか言って、受け入れそうなところもある。


 ――もっとも、あの会長さんと釣り合える人がいれば……の話だけども。


 とまぁ、そんなことを話しているうちに……俺たちは三年三組の前に辿り着いた。


「おー、やっぱりすげぇ列ですね。まだ午前中なのに」


 遠目では見えていたが、やはり今日もしっかり列が出来ていた。


「当然です。沙夜様がいらっしゃるのですから。むしろ列が足りないのでは?」

「お、おぉう……」


 サヤコン過ぎるよこの人。怖いよ。


 店に入るわけではないため、俺は列に並ばずに教室の中を覗き込んだ。


 お店はしっかり繁盛していて、男装スタッフの先輩たちが忙しなく接客に励んでいる。


 ちなみに、クラスの男子生徒たちは裏方に回って、ドリンクの準備とかお金の管理とか……そういうサポート作業に徹しているらしい。


「はてさて、会長さんは……っと」


 目を凝らし、会長さんの姿を探す。


「――あ、いた」


 会長さん、発見である。


 ちょうど紅茶らしきカップをテーブルに置き、優雅にお辞儀しているところだった。


 あまりの麗人っぷりに、そのテーブルに座る他校の女子高生たちが目をうっとりさせている。


 ……そりゃ、あんな目にもなるよな。


 あの人、この二日だけで大量のファンを作りそうだな。割と冗談抜きで。


「……そういえば星那さん、昨日も思ったんですけど」

「なんでしょう」


 改めて会長さんの姿を見て、俺は隣に立つ星那さんに話しかける。


「会長さんのあの髪型って……」


 ビシッと決まった執事服。

 全開の麗人オーラ。


 しかし、それよりも俺の目を引いたのは会長さんの髪型だった。


 至って普通の……ポニーテール。尻尾はめっちゃ長いけど。


 会長さんとは去年からの付き合いだが、髪を結っているところなんて全然見たことがなかった。


 聞いた話では、体育の時間ですら結っていないようだ。


 その理由は……直接教えてもらった俺と司は知っているのだけど。


 むしろ、知っているからこその……『驚き』だった。


「そう……ですね」


 少し間をあけて、星那さんは頷いた。


「家では、あのように髪を結って生活しているのですが……。人前では、とても珍しいことです。特に今日のようなお祭りの日に、あのような姿を見せるとは……私も同じく驚きました」

「ほーん……」


 それはつまり――なにか、大きな心境の変化があったということ。


 会長さんの気持ちは分からないが、あの人の中でいろいろな思いが動いているのだろう。


 そんな気がした。


「……汗」

「んぇ?」


 汗? いきなりなんの話だ?


 星那さんの謎の呟きに対して聞き返した瞬間――


「――あ」

「……おや、目が合いましたね」


 会長さんと、目が合う。


 どうやら向こうもこちらに気づいたようだった。


 会長さんは俺を見たあと、隣に立つ星那さんへと視線を移し……少し驚いたように目を見開く。


 しかしそのあと、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


 そして――


 会長さんは俺たちになにかを伝えるように、小さく口を動かした。


 その後、パチンとウインクをひとつ残して……教室の奥へと引っ込んで行く。


 相変わらずかっけぇなぁ……。

 

 現在の服装と、ウインクの仕草があまりにも合い過ぎている。


 俺が男だったら間違いなく惚れてたな。あれ、俺男じゃなくなってる?


 ――とかいう、ふざけた冗談は置いておいて。


 『少し待っていてくれ。落ち着いたらすぐに向かう』


 会長さんは、恐らくそう言ってたはずだ。


「沙夜様を待ちましょうか」

「ですねぇ……」


 制服へと着替えた会長さんが俺たちのところに来たのは、それから約十分後のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ