第290話 二人は質問に答える
「それで? 占いって具体的になにするんだよ。水晶玉でも出して怪しいことでも言い出すの?」
「あ、怪しいって……昴さん言い方……」
テーブルの上を見てみるも、それらしい占い道具は見当たらない。
置いてあるものといえば、細長い白紙の束とボールペンが数本くらいで……。
……あー。そういうことか。
なんとなくだが、どんな占いをするのか分かってきた気がする。
「そんな大層なことはしないわ。いくつか種類はあるけど……。あなたたちのことは知ってるから……うん、今回は『名前』でいいかな」
「名前?」
小西は紙とペンを二つずつ手に取ると、俺たちの前に差し出した。
やっぱりこれを使うのか。
「この紙に、名前をフルネームで書いてくれる?」
「フルネーム? 俺、お前の下の名前知らねぇぞ」
「自分のフルネームに決まってるでしょ?」
「まぁそうですよねぇ」
軽口を挟みつつ、ペンを手に取る。
それにしても、今こうして話しているのに――俺はまだ小西の下の名前を知らない。
別に知りたいと思っていないし、どうでもいいし……興味もないけど。
森君も『小西先輩』って呼んでたからなぁ……マジで知らないのよなぁ……。
とかなんか考えながら、俺は言われた通り『青葉昴』と紙に書いた。
「ほれ、書けたぞ」
「私も書きました」
二人分の紙を小西の前に並べる。
うぉ……相変わらず志乃ちゃんの字はめっちゃ綺麗だな……。
流し気味で適当に書いた俺とは対照的に、志乃ちゃんの紙には品のある『朝陽志乃』の文字が並んでいた。
同い年の日向は女子らしい丸っこい字を書くけど、この子は大人っぽい字を書く。
ちなみに、兄である司もああ見えて字がめっちゃ上手い。俺よりも圧倒的に上手い。
字には性格が出るというが……こういうことなのだろうか。
「ありがと」
小西は紙を並べ替え、今度は自分がペンを取った。
……なにをするのか、ちょっとワクワクしてきたな。
「楽しみですね、昴さん」
「そうだな」
隣から小声で話しかけてきた志乃ちゃんに返事をする。
ワクワクしているその横顔はなんとも可愛らしい。
「これから心理テストを交えた占いをするわね。今から三つの質問するから、深く考えずに直感で答えてくれる?」
小西はペン構えたまま、俺たちを見つめる。
「オッケー。あっ、スリーサイズはダメよ? わてくしはミステリアスな女なのっ!」
「はーい。朝陽さんも大丈夫?」
「大丈夫です! よろしくお願いします」
……。
さぶっ。
ちょっと? いきなり冷房をつけたヤツ誰?
困っちゃうぜまったく……。
それはともかく、心理テストをベースにした占いか……。
結構面白そうだな。
たしかにこれなら仰々しくないっていうか……。
お祭りらしい気軽さがあって、なかなか良いチョイスだと思う。
小さい子でも楽しめそうだ。
「それじゃあ、まずは一つ目。……二人の好きな色を教えてくれる?」
「青かなぁ」
「私は……ピンクです」
うん、志乃ちゃんがピンク好きなのは納得。解釈一致過ぎる。可愛い。
ちなみに俺はただ、名字に『青』が入ってるから、なんとなくそれで答えただけなんだけども。
小西はそれぞれの紙に、俺たちの答えを記入していた。
「次の質問。目的地に向かって歩いていたら分かれ道に辿り着きました。あなたたちは右に曲がる? 左に曲がる? それとも引き返して、新しい道を探す?」
「俺は引き返すかもなぁ」
そっちのほうが、それはそれで面白そうだし。
「私は……うーん、右でしょうか……」
「うんうん」
先ほどと同様に、小西は俺たちの答えを書いていた。
ここまでで質問は二つ。
となると、次が最後か。
「ラスト。今日はすごく良いことがありました。一番に報告するとしたら誰? 友人? 家族? 恋人? それとも……誰にも言わない?」
「あー……」
これまたなかなか返答に困る質問を……。
俺は腕を組み、一瞬考えてしまう。
「直感よ直感。あまり考えちゃダメ」
「私は家族……ですね」
「俺は……誰にも言わねぇかもな」
『良いこと』の内容による、としか言えないけど。
よほどのことじゃない限り、わざわざ俺は他人に話すようなことはしないだろう。
それより、志乃ちゃんの『家族』という答え――
地味にほっこりしたのは内緒である。
自分にとっての良い出来事を、家族に報告するほど彼らを好きになれたんだなぁと思うと、いろいろな感情が湧き上がってくる。
両親や司の三人に向かって『ねぇねぇ今日学校でね~~』みたいな話をしている志乃ちゃん……めっちゃ可愛いやんけ……。
ぐぬぬぬ……変われ司。お兄ちゃんは俺だ!!
「よし……質問は終わり。ありがとね、二人とも」
「おうよ。でも、名前だの質問だのって……どう意味があるんだ?」
「名前はね、人柄を感じるため。質問は価値観とか、人間性とかをざっくり掴むため。あくまで簡易的だけどね」
「……だってよ志乃ちゃん、俺たちのことバレバレだってさ」
「バ、バレバレ……」
ニヤニヤしながら言うと、志乃ちゃんが緊張のせいか背筋をピシッと伸ばした。
「そんなに身構えなくて大丈夫よ。あくまでも簡単な占いだから」
「さてと! ではでは小西先生の見解を聞こうか!」
「そう言われるとこっちが緊張してくるわね……」
クスッと笑いながら、小西が紙に視線を落とす。
ここまでのやり取りで、どんな『結果』が出たのか……正直俺も気になる部分ではある。
小西はコホンと咳払いをして、視線を俺たちに向けた。
「じゃあ……ちょっといろいろ話しましょうか」
「お願いします小西先生!」
「お、お願いします先生……!」
「あの……先生はやめて?」
ドキドキ……。




